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よろしくお願いします!
「はあ…………。まあ、姉上がこれで満足なら、それでもいいか…………」
抵抗なくベッドに横たわる僕に、
「あらあら? どうしたのですアル? もう抵抗しないのですか?」
予期せぬ行動に不穏な空気を察知した姉上が、僕の服を脱がす手を止め、形のよい眉を潜めた。
どうやら上手くいきそうだ。
心の中のガッツポーズを微塵も出さず、僕は出来るだけ寂しそうに、残念感あふれる視線で窓の外に視線を向けた。
「いえ、ちょっと…………がっかりしたものですから……」
わざとらしく、大きなため息を吐く僕の言葉に、
「え? ええ!! ア、アルが……わ、私にガッカリ……したの……ですか!」
さっきまでの生き生きした笑みはどこへやら。
襲われてる側の僕が、ちょっと罪悪感を抱くぐらいに顔面を蒼白にする姉上。
でもでも、ここを切り抜けなかったら、それこそ色んな意味で物凄く不味いことになるのだ!
だから僕は、心を鬼にして再度ため息を吐いた。
「いえ、僕にだってそれなりに、甘い甘い新婚生活ってやつを色々と考えてたんですよ……」
もちろん、血のつながった姉上とでは無いけど、そこは微妙に濁しておこう。
「小さい教会でも良い。慎ましくも皆に祝福された結婚式。
そんな人たちに見送られ馬車に乗る二人。
行く先は、小さいけど海の見える新居。
そこで二人は改めて互いの愛を誓い、初めての夜を迎える…………。
そんな想像をしていたのですが……ちょっと乙女チックっぽいですが……残念です。
さあ、お金はかかってるけど、僕的にはロマンチックの欠片も無い場所ですが、姉上のお好きなようにしてください」
ちょっと大げさかな? とか、
ちょっと最後の言葉がきつすぎたかな? とか、
色々思いながらも姉上を見ると……。
「あ……」
「え? どうしたんです姉上? そんな! 僕の理想。泣くほど臭いですか!」
姉上の頬に流れる一筋の雫に、やりすぎたと思わずベッドから半身を起こし、頬に触れようと手を伸ばすが、
「ち、違うのですアル!」
姉上は瞳を閉じ、ふるふると首を横に振った。
「私は、私は感動しているのです!」
そして、涙を拭った瞳をカッと見開くと、胸元で拳を握り、天を仰いだ。
「アルが、アルが私との事を、そこまで、そこまで考えていてくれたなんて……そうですわよね!」
「あの……姉上?」
「そうですわ! こんなムードもへったくれもない場所で、力任せに既成事実を作ろうだなんて……獣、鬼畜にも劣るような所業ですわ!」
「別に僕の言ったのは、僕の理想の結婚生活であって、姉上は別に……」
「そうですわね。結婚とは二人でするモノ。私は私のことばかり優先してアルの意見を聞いていない! 伴侶として失格ですわ!」
「うん。今僕の話を聞かないのは誰ですか?」
「はい! もちろんアルの意見は聞きました!」
「お願いだから僕の話を聞いて!」
僕の話をまったく聞かない姉上が、パチンッと指を鳴らすと、
「お呼びですか我が女帝様!」
音も無く、姉上の背後、僕の正面に現れる一人の『影』ではなく、今回はセバスだった。
そんな彼に、姉上は一瞥もくれず、
「至急、海の見える小高い丘に、私たちの新居を建設。それとそこに近い教会を探して!なければ新たに教会の建設も視野に入れて、それと、ここはもう用済みです。速やかに撤収し売却。その資金をアルと私の新居に当てます」
「がってん承知!」
姉上の言葉に、現れた時と同じように音も無く姿を消すセバス。
とりあえずの危機は去ったのだが…………ホントにこれで良かったのか?
それでも、まあ。
「それではアル! デートの続きをしましょう!」
ベッドから降り、顔の前で両手を合わせるにこやかな姉上に、
「まあ、後のことは後で考えよう」
そう一人ごち、僕もベッドから、主に精神的に疲れた体を起こすのであった。
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