エピローグ
久々の更新です。
よろしくお願いします!
国王と高位貴族の熱烈な挨拶を終え、ゼフトの城壁を超えた僕に風が頬を撫でる。
「さて、それじゃ、帰ろうか?」
全てをやり遂げた感で満足な僕は、物凄く爽やかな笑顔で姉上とヒルダに振り返る。
ここ数日の『僕のお願い』で、二人にはかなり無茶させてしまったので、後でなんかプレゼントでもしなきゃかな?
なんて思っていたのだが、
「あらあら、そうですわね、久々にあんな事や、こんな事出来ましたし」
「おろおろ、そうじゃの、今回はやりすぎなんて言われずに、まさかあそこまで出来るとは」
物凄く満たされた表情なので、良いのか?
もしかして僕の知らない所で、何かしてたのか?
そんな二人を疑念の瞳で見つめていると、
「「「アルゥゥゥゥゥ!」」」
遠くで聞こえるブランドたちの声がした。
振り返れば数頭の馬が、時を惜しむように駆けてくる。
「まったく、あいつ、こう言う所が妙に律儀なんだよな」
きっときっと、先日のパーティーのお礼でも言いに来たのだろう。
まあ、急いで帰ることも無い。
僕は彼らの到着を、物凄く良い笑顔で待つことにした。
なのに、
「アル! お、お前! なんてことしやがんだ!」
馬上から飛び下り、眉間にシワを寄せたブランドに開口一番罵られた!?
「え? えええ? 僕、良いことしたよね?」
「それにしてもやりすぎです!」
「そうだぞアル! さすがにこれは……」
モスとデイトも怒ってる……ってか眉間にシワを寄せ、困惑の表情だ。
「ん? もしかして……」
いつの間にか僕の背後に移動していた二人を見やれば、
「「………………」」
僕と視線を合わせない二人。
どうやら彼女たちがやらかしたようだ。
「姉上。ヒルダ。怒らないから、何をやったか言って下さい」
引きつる頬を無理やり笑みに変え、出来る限りやんわりと言うのだが、
「えっと……」
「その……」
頬をポリポリ掻き、視線をさまよわす二人の代わりに、
「はぁぁぁ。アル。俺が行くはずだった辺境の地と王都の道が整備されてたのも、隣接する魔の森が魔物ごと無くなり、かわりに温泉が出たこともなんとなく理解した」
ため息交じりのブランが説明してくれた。
「ちっ、違うのじゃ! わっちはただちょっと、小石に躓きそうじゃったので……」
「そ、そうですわ! 私も森に行った時に絡んでくる魔物がちょっとだけ鬱陶しかったので……」
「それで、やりすぎた訳ですね?」
「「…………ごめんなさい! ついでにちょっとしたことで喧嘩して倒した木々を誤魔化すように、辺り一面整地しちゃいました!」」
どうやら彼女たちは僕が目を離した半日程度の時間で、未開発の土地お約束で楽しみでもある、領土の整備と、未知への脅威を消してしまったようだ。
「姉上、ヒルダ、開拓者にとって、限られた収入でどれに予算を割こうとかって、一番楽しく悩む所じゃないですか! それを奪うようなことを……」
「そういえば、魔物の森の先で見つかった未登録のダンジョンが制覇されてたのも……」
「うん。それは僕がやった。楽しかった。ダンジョンマップと各界の魔物とフロアボスの特徴。ドロップアイテム一覧は城に送っておいた」
「てめぇが一番楽しんだんじゃね~か!」
「うん。悪気はちょっとだけあったが、後悔はしてない!」
「タチ悪ぅ! 善意を隠れ蓑にする気のない笑顔が、余計にタチ悪いわ!」
絶叫するブランドの肩に、ぽんっと馬上から白魚のような手が置かれた。
「良いではありませんか、ブランド様」
そして、
「道を舗装するのに雇う人員の確保や魔物退治に掛かる時間やお金。それに無茶さえしなければ駆け出しの冒険者でも安全に経験が積めるダンジョン。しかも、温泉付近に宿屋を立てれば、観光地としても人が呼べますわ」
優しく微笑むセリーナ嬢に追従したのは、
「そうなのじゃ! それにのう義理姉上殿」
「そうですわ!」
ヒルダと姉上が珍しく視線を合わせ、姉上がパチンッと指を鳴らせば、
「お呼びですか我が女帝様」
「魔法帝我はここに」
何時の間に現れたのか?
見たことない戦士と魔術師が二人の前で膝を付く。
戦士は無駄のない体つきで、その動作にも隙が無く、
魔術師は溢れ出そうな魔力を、巧みに隠している。
側にいるだけで、それなりの使い手だと分かる。
そんな僕の思考を読みとり、
「あらあら、アルの思う通りこの者は私が鍛えし、ある辺境の騎士団長と」
「おろおろ、こっちはわっちが面倒を見た魔術団の長なのじゃ」
「え? もしかして太りすぎて鎧も着れなくなってたゼノンと、無駄な知識ばかりでガリガリ頭でっかちのシノン……なのか?」
どうやらブランドの知り合いだったようだ。
呆然と彼らを見るブランドに、得意げに二人が口を開く。
「そうですわ、私の愛する愛する愛するアルのお友達であるあなたの手向けとして」
「わっちが教えを説いた辺境の魔法兵団五〇〇と、義理姉上殿が鍛え直した騎士団一〇〇〇をプレゼントするのじゃ」
得意満面の笑みを浮かべる二人は、
「え? え? でも、何をしたらこんなに変わるの!?」
信じられない様子のブランドに、
「あらあら、簡単な事ですわ。彼らには適度な運動と栄養満点な食事を施し、たまに調きょ……洗の……教育をしただけですわ」
「「え? 死ぬ一歩手前のシゴキと夢に出るほどクソマズイなにかと……」」
「おろおろ? まだ調教が足りんかったかのう?」
「「はっ! 我ら騎士団と魔法兵団は、アルサス様の盟友であるブランド様にこの命尽きるまで忠誠を誓います!」」
ブランドに忠誠を誓うって言ってんのに、姉上とヒルダに直立不動で頭を垂れるの二人。
それにヒルダ。
せっかく姉上が濁した(濁しきれてないけど)のに、調教って言っちゃてるから!
そんなグダグダな状況なのに、
「さすがはお姉様ですわ! ブランド様、これで我が領地は安泰ですわ!」
セリーナの瞳の奥に輝くのは、苦労が減ったことと、
「これで、その……少しは時間に余裕が……」
ブランドと一緒の時間が増える喜びに、年相応の少女の笑みを浮かべるセリーナ。
なのに、
「でもなセリーナ。せっかくここまで来たのに、俺の楽しみがほとんど……」
いつもなら空気を読むブランドが美味しいとこを全部もってがれ、よほど悔しかったのか?
そんな言葉を彼女に掛けてしまったのだ!
刹那!
「あら? あらあら? あなたの道楽に、いったいどれだけお金を掛けようとしたのですか?」
まるでどこぞの姉上のような口ぶりで、ブランドに笑みを向けるセリーナ。
怖い怖いよ!
すでに領主の妻の貫録を見せる彼女は、
「マリー、アナ。やはり殿方は当てにはなりませんわ。私たちで領土をこの国一番に盛り上げていきますわよ!」
「「はい!」」
声を荒らげながらも、それでも淑女らしさを損なわない品格で、領地へと馬を進ませるセリーナ。
モスとデイトの婚約者もそれに続く。
「おい、ちょっと! お前らだけじゃ危ないって! それじゃアル、またな!」
「きっとアルの事だから、明日の放課後にはこちらに来てるんじゃないんですか?」
「あははは! 違いない! それじゃ、また明日、だ!」
別れの挨拶もそこそこ、馬首を北に向け走り出すブランド、デイト、モス。
「まったく、勝手なこと言いやがって……」
まあもちろん。
ちょくちょく様子を見に来るけど……なにか?
「それにしても……」
もしかしなくても彼らは、すでに尻に敷かれているんじゃないか?
「まあ、『少しやんちゃな男は、嫁の尻に敷かれてるぐらいがちょうど良い』なんて格言ポイモノもあるから良いのか?」
まあ、とにかく、
明日も会うのだから、その時にでも冷やかしてやろうと思う。
だから、
「さあ、姉上、ヒルダ。今日は帰りましょう!」
今日は帰ろう。
また明日。
彼らとバカ騒ぎをするために……。
久々の更新のくせに、次の本当の最終章に向けて、しばらく更新はお休みです。
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