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再開しても、もう皆忘れちゃったかな?
なんて思ってましたが……。
予想以上のブクマ、評価、感想、ありがとうございます!
思い出に残りすぎる入学式を終え、僕を含めた新入生たちは、呆然としたまま係りの人に誘導され教室に到着。
導かれるまま席に着く。
なんか、誘導された生徒数より、明らかに席が多いのは気にしないでおこう…………。
ま、まあ、なんか色々あったような気がするけど(現実逃避)とりあえず、落ち着こうと僕も適当な席に着くのだが、
「や、やあアルサス君。久しぶりだね?」
以前より三〇パーセントぐらい薄くなった金髪を、何とか片手でかき集めてかき上げ格好をつけた、見覚えのある人物。
確か……。
バカとか、残念とか言う名の、元王位継承第一位のバカ王子だ。
どうやら僕の魔法(呪い)が、確実に効いているようで何よりだ。
それと、
「ああ! アル君だ! やっぱりわたしぃ、薄毛で王位継承から外れた人よりぃ、次期侯爵家跡取りのアル君の方が……きゃ! ミナ、最後まで言えないぃぃぃぃぃ だからぁ……。お願い! この首輪外して!」
鼻に掛かる甘ったるい声を上げる、『絶対遵守』の首輪を可愛らしくデコってるピンク髪の美少女。
「おいミナ。それは俺のこと言ってるのか? ちょっと前まで『わたしぃ。あなた以外瞳にはいらな~い!』なんて甘ったい声で愛を……」
「きゃ~! きゃ~! 聞こえな~い! わたし、そんなこと言ってませ~ん! 薄毛になって空耳まできこえてきたんですか~?」
「お前、俺は一応、まだ王族だぞ! それにこれは暑いから梳いてるだけだ!」
バカ王子と、姉上との婚約破棄をそそのかした張本人、アルツハイム男爵家の令嬢のミナだった。
なんでやらかした彼、彼女がここにいるかって?
それは、姉上が国王にお願いしたからだ。
建前。
「あらあら、廃嫡までされたのに、それ以上罰する必要ありませんわ。もちろん、来月に控えた学園の入学も、彼が更生して真面目にやってるというアピールになるではないですか? それに、男爵令嬢の彼女の事だって、多少の罰は必要でしょうけど……。私も、弟も許しますわ!」
本音。
「あらあら、散々やんちゃしてくれてましたのに、廃嫡して後は地方で静かに暮らせるって……それだけ? 私、いえ、愛弟相手にそれだけやったんですもの、学園を卒業するまで、ちゃんと最後まで笑いものにさせないと……私、怒っちゃいますわよ? それに、あの男爵令嬢? あの娘は私がオモチャにしますから、勝手に死罪とかお家断絶とか言って終わりにしないで下さいましね!」
…………。
そんなこんなで、バカ王子とミナはこの学園にいる。
でも、なんで同じクラスなのかは納得いってないけどね!
姉上は僕に、彼らを弄繰り回せと言っているのか?
ギャアギャア騒ぐ二人をぼんやり眺め、そんな事を考えていると……。
ガラガラ!
「初めまして! これからこのクラスを担任する、ミルフィーユです。気軽にミル先生って呼んで下さいね!」
教室の扉を引いて、担任だと思われる女性が入って来て、
「さ、さあ皆さん! 気を取り直おして、じ、自己紹介でもしましゅう……」
盛大に噛んだ。
可哀そうに……。
そう思った理由は幾つもある。
まずは、教壇にギシギシと操り人形のように音を立てて上がる。
それに、つい最近切っただろう肩で揃えた髪に新品のスーツ。
メガネの奥で彷徨う視線と、落ち着きなく動く指先。
それから察するに彼女は、 間違いなく今年入った新人教師だからだ。
なぜ王族やら侯爵やら、それに問題児の男爵令嬢がいるこのクラスに、なんで新人の教師が?
そんな疑問が生まれたのだが……。
「ひ、酷いですよね? 『このクラス、王族と高位の貴族がいるから、いつでも辞められる新人で、しかも女性にしよう!』なんて……。辞めてやる! 学園長禿ろ! って呪いを掛けて、訴えて辞めてやるぅぅぅぅぅぅ!」
親指の爪を噛み、物凄く響く声で独り言を言う教師の言葉で納得がいった。
納得入ったが、それでいいのかこの学園?
憐憫の視線を彼女に向け、出来る限り応援しようと思ったその時、
「あの~~。ミルフィーユ先生、ちょっと……」
控え目なノックをして扉を開けたのは、ミル先生が禿ろと呪いをかけた学園長だった。
「はい! 何でしょう学園長!」
さすがは大人。
さきほどのぼやきをまったく感じさせずに、彼女は教室の外に出るのだが。
「…………ええ! 無理ムリむり! 何考えてんですかアンタ! はげろ! じゃなきゃ、私が脇に残ってる髪の毛引き千切ってやる!」
大人の皮をはぎ棄てた、切羽詰まる彼女の絶叫。
それに対し、
「ぐっ! ぐふっ! これ以上、大切な物を失う訳には……と、とにかく、これは学園長としての命令です! 言うことを聞かなければ、この学園を去ってもらいます! もちろん私の手練手管を使って、再就職は出来ないと思って下さいね!」
「ええ! そ、そんな……」
なんか、聞いてはいけない大人の会話を聞いてしまい、教室が何とも言えない空気になった。
そんないたたまれない空気の中。
ガラガラッ!
再び勢いよく開く教室の扉。
みれば、涙目のミル先生が唇をかみしめ入って来て、
「て、転校生を紹介します!」
入学して数時間。
ミル先生と会って数分で、このクラスになぜか転校生が来たのだ。
「て、転校生を紹介します!」
この異常な事態になぜ二度言った彼女を、誰が責められると言うのか?
いつも煩いミナまでも口を閉じ……。
いや、彼女は淑女としては完全にアウトで、口をぽか~~んと開けていた。
「さあ、入って下さい! もう、勝手に入ればいいじゃない!」
やけっぱちな彼女が促すそのさきには……。
「あらあら? シルヴァーナ・タリスマンですわ。始めましての方も、そうでない方も、よろしくお願いしますわ!」
極上の笑みを僕に浮かべた、姉上の姿があった。
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