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最近、どうにも生活が不規則で、夜眠くなって寝てしまいます。


あれ?

もしかしてこれって、混交なのか?

 商業国家である我が国の王城には、古今東西のあらゆるモノが入ってくる。

 そんな多国籍の装飾品だが、派手すぎず大人し過ぎないパーティー会場の装飾品の数々。

 やはり『コーディネートはこーでねいと!』なんて考えがよぎるが、セリーナに親父臭いと言われそうなので封印しておく。



「…………ここに、新たな国王、ロンド・ゴールドの誕生を祝って欲しい!」


 会場に響く拍手の中、ゼフト王国第一王子であり新国王である兄上、ロンド・ゴールドが高らかい杯を掲げパーティーが始まる。


「さあ、さっさとあいつらと合流して……」


 会場の片隅でひっそりとそれを聞いてた俺は、視線をさまよわす。

 孤立していては各個撃破されてしまうので、口うるさい貴族(ハイエナ)どもが近付いて来る前に彼らと合流したい。

 なのに、


「やあやあ、これはこれは、アノ噂の、第三王子のブランド様じゃないですか!」


 わざわざ好機の視線を集めるように声を張るのは、侯爵家長男のガゼフ・フォーリエだ。


 確かこいつ、最初にアンネの魅了の魔法にかかって、同じ侯爵家の婚約者を無実の罪で弾劾し、それが親にバレて廃嫡されたんじゃなかったけ?


 奴もある意味被害者だが、あのレベルの魔法を弾くことが出来ないのだから、兄上の治世には邪魔になるだけ、結果オーライだ。


 ちなみに奴のパートナーは、死んだ魚のような目をしている令嬢。

 きっと自分より下位の、どこかの男爵令嬢あたりを脅し、パートナーにしたんだろう。


 後で調べて、彼女の領地の減税を兄上に具申しよう。

 それよりなにより、今は絡んできたこいつを何とかしなければ。


「いや~~~。私はアレで廃嫡されたって~のに、あなた様はお綺麗な婚約者様とご一緒ですか? やはり王族は違いますなぁ~~」


 すでに酔っぱらっているのか?

 パートナーである令嬢の冷たい視線を物ともせず、さっそくグダを巻いて来るガゼフ。


 今こそアルの姉君、シルヴァーナ様に教わった『うざい男を音も無く|退場(この世から)させる方法』を実践するべきか、

 それとも、

 アルの婚約者であるヒルデガルド殿の『邪魔者を手品してます風に、骨も残らず燃やす』魔法を唱えるべきか?


 俺が選択肢一五〇の中から、セリーナが一番傷つかないものを模索している数秒の間に、


「セリーナ様! 相変わらずお美しい! どうですか? こんな浮気者より、私と一曲踊りませんか?」


 奴の汚い手がセリーナに……。


 もう我慢出来ん!


 彼女に伸びる手をつかもうとした、

 刹那。


 ばきっ!


「やあブランド。久しぶり!」


 狙い澄ました手刀が、奴の手首をくの字に曲げた。


「ぐっ(ぎゃわぁぁぁぁぁぁぁ!)」


 会場に響き渡るはずだった絶叫は、彼の首から上に現れた箱状のものによって阻まれた。

 さらに、


「がぼがぼがぼがぼ…………」


 防音効果のある箱状の中には、たっぷりと水が入っている。

 溺れ苦しむ奴の形相は、素直にざまぁと思うのだが、


「あれ? 僕の友人の婚約者に手を出そうとするなんて……この人もう酔っぱらっちゃたのかな?」


 右手を聖女マリアーナ様に癒されながら、棒読みの台詞を吐く我が親友が、


 激痛のため床で転がりまくってるガゼフの折れた腕を、足でグリグリするのは外道の所業だと思う。


 まあ、骨折の痛みと水魔法で息が出来ない彼が、すでに悶絶(気絶)しているから良いとしよう?


 いやいや、とにかく。

 再会は嬉しいのだが、ここにアルが来た理由を……。


「もちろん! ゼフトの新国王誕生の祝いに来たんだよ。彼らと一緒にね!」


 俺の思考を読んだ様に、アルがチラリと視線を移す。

 そこには、


「おろおろ、これはこれは、モス・グリーン殿ではありませぬか! ヌシの発表された論文『市民を巻き込まぬ最小限の戦争』は見事であったのじゃ、ぜひ我が国で講師として招きたいのじゃが?」


 モスの笑いかけているのは、大陸最強と謳われるアルムデル帝国の第一皇女ヒルデガルド殿。

 彼女の周りで床に這いつくばってピクピクしているのは、

 きっと俺より嫌味が言いやすいだろうと、彼に寄って行った羽虫(小賢しい貴族)たちだろう。


 そして、


「あらあら? デイト・パープル様! ご無沙汰しております。タリスマン家のシルヴァーナですわ! それにアナ様。私が愛して愛して愛して止まないアルの、愛弟の頼みで! ついでにデイト様にお願いされて作った、我が領地のこれから特産品になる予定のシルクのドレス。とてもお似合いですわ!」


 夜会に降りたった月の女神を思わせる微笑を見せるのは、


 誰もが見惚れる体のラインを惜しげもなくさらした、闇より暗い真っ黒(じゅんぐろ)のドレスに身を包んだ、アルの姉君、シルヴァーナ・タリスマン嬢だった。


 彼女の姿と言葉に会場の人々、主に女性陣の視線が、アナばかりかモスの婚約者のマリーとセリーナにも視線が集まる。

 それはそうだろう。

 だってシルヴァーナ様のドレスって、形は違うが同じ素材(シルク)で出来ているのだから。

 しかも、



「あの演習場で(手加減した)私の一撃をしのぐ防御力、感服いたしましたわ。もしあなたが騎士団長になれば、この国も安泰ですわね?」


 なんて、会場中に響く、親しげな彼女の美声に、


(いやいや、たった一日、いや、数時間でこの国落としたアンタが何言ってんの!?)


 会場全員一致の心の声を聴いた気がした。



「そう言えば……。すまないブランド。僕たち新国王への挨拶がまだだった」


 棒読み臭い台詞を吐き、視線だけでシルヴァーナ様とヒルデガルド殿を左右に従え、玉座に歩み始めるアル。


 床に転がるダメ貴族(ゴミ)を避けてアルの元に行くヒルデガルド殿と、


「むぎゅっ!」


 それ以上の、床に転がるダメ貴族を野の小石を踏み抜くがごとく、最短でアルの元に歩むシルヴァーナ様。


「アル!」

「主殿!」


 二人の絶世の美女。

(近寄るなキケン!)

 っを両腕に、苦笑したままのアルが楽しそうに、


「挨拶が遅れて申し訳ありません。このたびゼフト王国の友好国としてシュタインから来ましたブランド様と友好を結ばせて頂いています。アルサス・タリスマンです」

「同じく、シルヴァーナ・タリスマンです」

「主殿の婚約者であり、アルムデル帝国のヒルデガルド・フォン・ミユーゼルじゃ」


 兄であるゼフト国王に(こうべ)をたれた!


 いやいやいや、ここで頭をたれちゃうの?

 うち、敗戦国だよね?

 アル(以下二名も)、もっと偉そうにして良いんだよ?

 逆に兄上が玉座から降りて、頭をたれるんじゃないの!?


 混乱しまくりの俺の耳朶に、


「頭を上げて下されアルサス殿。私たちは共同演習(ほぼ実戦)をする仲ではありませぬか、我が盟友に礼は不要ですよ」


 そう言ってアルに向かって笑い掛け、頭をたれる兄上。


 いやいやいいやいや、演習じゃなくこの国一回滅ぼされたよね?

 この国、シュタイン王国(タリスマン家)の属国だよね?


 混乱して頭の回転が追いつかない。

 そんな俺の耳元で、


「アルサス様が、そっちの方が良いって言って下さったのです。これは全て、ブランド様たちがシュタイン王国に留学なされて築いた成果ですわ。私は、私たちは、あなた様たちを信じて婚約者を続けられて、本当に良かったですわ!」


 セリーヌが微笑みながら囁いた。


「え? それでいいの? 俺、アルと友達になっただけで、何もしてないよ?」


 思わず口をついた言葉に、


「またまたご謙遜を、この大陸でアルサス・タリスマン様と友人になる……。これがどんな偉業なのか、ブランド様ならご存知でしょう?」


 え? いや、俺、普通に友達になって、って言った気がするけど?

 それで友達になったんだけど?


 思考が追いつかない俺が視線をさまよわせ、モスとデイトと目が合う。


「「……………………」」


 どうやら二人も婚約者たちに聞いたようで、何とも言えない顔をしていた。

 多分、俺もそんな顔をしているのだろう。


「さあ、ブランド様! 踊りましょう!」


 そんな俺の腕をグイッと引き、ダンスへと誘うセリーナ。

 ダンスホールに向かう俺たちに向けられた嘲笑と侮蔑まみれだった視線は、いつの間にかタルスマン家(大陸最強姉弟)の友人として、期待と羨望、そしてやや多目の畏怖の視線に変わった。


 玉座の前で、アルがニッと口の端を吊り上げた。


 ああ。

 セリーヌが傷つかないようにと、マイナス方向に向いていた思考を、プラス方向へ、いや、物凄くプラス方向へ向けなくちゃならないようだ。


 苦笑とも取れるアルの笑みに、俺も苦笑で答える。


 その両隣でヒルデガルド様(氷河の女神)シルヴァーナ様(焦土の女神)が、どっちが先に踊るかでもめてるのは、


 まあ、ご愛嬌ってことで。


 出来ればこの王城を壊さないでいて欲しいものだ。


 大理石の床を踏み抜く勢いの二人を横目に、


「セリーヌ。俺の親友は最高だろ? 今夜は寝るまで、その話をしようか?」


 彼女の耳元で俺はどこから話をしようかと、


「え? ええ!! こ、こんや?」


 瞬時真っ赤に染める頬を確認し、思いを馳せるのだった…………。

最後までお読みいただきありがとうございます!

ゼフト王国編もあとエピローグを残すのみ!

でも、なぜか次章はだいぶ進んでいるのに、エピローグがいっこも書けてない!


そんなハンパモノの作者に、ぜひ応援メッセージを!

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