閑話:ある兵士の絶叫3
よろしくお願いします!
ああ。うん。ゴメン。
ほんの少しの期待は、どうやら味方に向けた思いだったようだ。
城門を開いた途端、殺気と殺る気をみなぎらせたタリスマン家の精鋭、じゃない部隊が、
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
数を頼りに気の抜けたゼフトの精鋭たちに、真正面から斬り込んでいく。
「ぬあ!? なんだ? うひぉぉぉぉぉぉ!」
何が起こったのかも理解できず、吹き飛んでいくゼフトの騎士たち。
「かすり傷を負った者は、すぐさまマリアーナ様の元へ! いいか! 我らに傷を負うことは許されぬぞ!」
「「「「「おおう!!」」」」」
五〇倍の兵力差なんて、モノともしない。
むしろ『それぐらいが丁度いい?』
なんて思えるほどの快進撃を続けるタリスマン騎士団に、ゼフトの精鋭は成す術もなく切り崩されていく。
この兵力差にもかかわらず本当に不殺を貫き、シルバニアの騎士たちを行動不能い追いやるタリスマンの騎士たち。
しかも、
「あ! 腕斬りつけられちまった! いったん下がるわ」
冗談かと思われた女神様の言葉に、傷を負った騎士が一切疑問も持たずに後方へ下がっていく。
もちろんと言って良いのか分からないが、シルバニアの騎士も死んでない。
むしろ、負傷した騎士が攻撃の邪魔になる始末。
どんだけ技量の差があるの?
あんたら、精鋭で良いんじゃね?
覆ることのできない実力差に心が折れ、
すでに兵力として機能しないシルバニアの精鋭たち。
「まあ、死人が出なかっただけ、良かったのかな?」
なんてぼやく俺の耳朶に、
「なにをやっておる! 敵は失格勇者のいるシュタイン王国の弱兵だ! さっさと押し返せ!」
シミ一つない葦毛の馬にまたがり騎士団の後ろの方に陣取ってる、確か名門貴族ってだけで騎士団長になったモンテス卿が、声を上げて兵を鼓舞する。
どんな身分だか、俺は知らないが…………。
これ、言っちゃいけないヤツだ。
俺は本能でソレを察するのだが、
「こいつらを血祭りにあげ、その勢いでシュタインに攻め込み、役立たず勇者を……ぎゃはっ!」
空気が読めず、己の言葉で愉悦に浸っていたモンテス卿は、瞬きする間もなく馬上から引きずりおろされた。
いや、
地面に叩きつけられたが正解か?
「はあ? あなた今、なんておしゃいやがりました?」
さっきまで、木漏れ日のように優しく微笑んでいた女神様が、今は悪鬼羅刹なんて生易しい表情で、モンテス卿の頭を鷲づかみして地面に叩きつけていたのだ。
「ぜ、全員攻撃中止! 体力の続く限り逃げろ!」
今まで有利に攻撃を進めていたのに、タリスマンの騎士たちが、まるで潮が引くように我先にと逃げていく。
ああ。これ、本当にヤバいやつだ。
俺も本能に従い、城壁に隠れて、でも好奇心から事の成り行きを見守る。
『好奇心猫を殺す』
遥か昔の偉人さんが言った言葉を、俺はなんでもっと早く思い出さなかったのか後悔した。
だって…………。
「ぬぅ? なうぐぅぅぅぅぅ」
顔半分を地面にめり込まされ、声も上げられないモンテス卿に、
「あらあら? 私の問いなんて無視ですか? そうですか? それならば仕方ありませんわね」
あのお方が微笑んだのだ!
ヤバイヤバイヤバイ。
これあれだ。
『死って、最高の安らぎだよね!』
って、全ての理を飛び越えて悟っちゃうやつだ!
ゼフト近衛騎士団が剣を喉元に突きつけられたかのように、固唾を飲んで見守る中。
「あらあら、それでは………………お仕置きが必要のようですわね?」
「ぬぎゃわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の悲鳴にもさせてもらえなかった悲鳴が、ゼフト国内に響き渡った…………。
その日、
ゼフト王国はたった一人の少女。
いえ、女神様に全てを捧げる属国となった。
いや、ならせて頂きました!
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