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閑話:ある兵士の絶叫

休日で、ほとんど外出してないのに、執筆の時間が取れない。

体調でも悪いのだろうか?

いや、それは新しく入れたスマホゲームのせいだ!

「なあ知ってるか? ブランド様たち、どうやらシュタイン王国での作戦、失敗したらしいぜ?」


 自称情報通のランデが、城門での入国審査の間合いで、俺に囁いた。


「ああ。知ってるよ。学園で婚約破棄事件を起こした、貴族ボンボン一行だろ? どんな美少女か知らねーが、しょせん女一人のために自分の人生台無しにする奴らには無理だったんだよ。まあ、シュタインの奴らがそれ以上のバカだったら成功したかもだが」


 俺も皮肉げに口元を歪めそれに応える。

 

 こんなこと誰かに聞かれたら、不敬罪でほぼ死刑確定なんだが、今や第三王子ブランドと留学に付いてった二人の取り巻きの事は、何を言っても良いってことになってる。

 人の税金でバカやった奴らだ。

 これは暗黙の了解ってやつだ。


「それで、シュタインから抗議の使者様が来るんだってよ! まったく面倒臭い事しやがって、俺らの門番の時じゃなきゃいいけどな!」


 シュタインからここまで、馬車で二週間程度かかる。

 確かにと、言いたい放題の相棒に苦笑を浮かべるのだが……。

 なんだか物凄い違和感を覚え、久しく使ってなかった危機感ってのがざわついた。

 理由は分からないが………。


「あれ? さっきから入門希望者、いなくね?」


 ここは大陸一の商業国家ゼフトだ。

 こんな天気のいい午後に、無駄口叩く暇はないはずなんだが?


 無駄話をしていて気付かなかったが、最後に通った馬車はいつだったけ?

 記憶を思い出しながら、城門を見て、その先にある道を、確かこのはるか先にさっき話題になったシュタイン王国があるんだよな。

 なんて視線を向けた先に、


「え? 砂煙? あれってもしかして……」


 俺の中で眠っていた、危機感ってやつが思い切り警告の鐘を鳴らす。


「シュタイン方面から正体不明の馬軍を視認! 城門を締めろ! 非常事態の鐘を鳴らせ!」


 訓練した通りに声が出た自分を褒めてやりたい。

 だって、


「ひゅえ!? 二、ニール? な? ななななななんなんだアレ?」


 俺に向かって叫ぶ相棒のランデは、すでにあの馬軍から放たれる殺気に、腰を抜かしているのだから。


「と、とにかく、お、俺たちは俺たちの仕事をするぞ!」

「お、おう!」


 俺はガクブルの足を叱咤激励し、なんとかその場で剣を構える。

 本当はすぐにでも逃げ出したい。

 でも、ここで逃げたら、減給か首だ。

 まだペーペーだが、やっと定職に付けたんだ。

 ここで根性を見せて、酒場の看板娘ジュリちゃんに武勇伝を語るんだ!


 そんななけなしの根性を見せた俺を、数分後の俺はぶん殴りたいと思った。

 だって、


 いつの間にか城門に近付いていた馬軍からこちらに馬を進めたのは、


「我はタリスマン家第一戦略機甲団、特殊任務班のレッドであ~る!」


 馬上でも分かる、長身で筋肉隆々の、いかにも歴戦の猛者ですって感じの騎士なんだから。

 しかもこの人、国じゃなくて自分の所属領土を名乗ったよ!


 まあ、シュタイン王国よりタリスマン家の方が大陸的には有名かもしれないけど……。


「我が忠誠を誓う女神様が、このたびのゼフトの悪行に眉を潜めた。これはゼフト国民、老若男女を皆殺しこの地を焦土と化しても許されぬ罪であるが、女神様はおっしゃった『面倒臭いから、責任者の処罰だけで許す』っと! だから我は問う! 今回の責任者はさっさと出て来い! さっさと出てきて地べたに這いずりまくって許しを乞えば…………運が良ければ全殺じゃなく九割殺しぐらいで許されるかもしれない…………多分」


 なにそれ?

 九割殺しって、ほぼ死んでるよね?

 しかも多分って!

 女神様の気分次第って割の合わない大博打じゃん!


 でも、レッドと名乗った騎士の目は、物凄く本気で、

 ついでに言うと、彼の背後にいる騎馬隊も尋常じゃない殺気を放っていて、


「はい! 今上司に報告します! 最速で王へも報告させます!」


 俺の生存本能が叫んだ。

 だってこう言わなきゃ、絶対死ぬって!


 お願いだから王様言うこと聞いて!


 俺は今にも崩れ落ちそうな足腰を叱咤激励し、伝令にそれを伝えた。


 だが願い虚しく、

 暫くしてきた彼らの(王族貴族)反応は知らぬ存ぜぬだった。

 そればかりか彼らは、近衛騎士団を含む精鋭部隊一〇〇〇を城門に集結させていた。


「あれ? ビビってたけど、この戦力差ならいけるんじゃね?」


 それに、ここでドンパチにしても、俺、逃げても良いよね?

 殺気と殺る気が渦巻く絶望の中で、蜘蛛の糸のような希望にすがる俺だが、


「あらあら? レッド。まだこの国の人々が、生きているのはなぜかしら?」

「おろおろ? これではわっちが殺った方が早いではないか?」


 辺り一面にダダ漏れの殺気を物ともしないで、レッドと乗る騎士に歩み寄る二人の女神。


 一人は長い銀髪を夜空に舞う星のようにたなびかせ、

 一人は闇より深い漆黒の髪の、

 今まで見たことない美少女だ。


 微笑む彼女らの登場で、思わず肩の力を抜く俺らだが、


「申し分かりません女神様! 私もさっさと皆殺しが良いと思ったのですが、アルサス様はその~。虐殺とかあまり好きじゃないので……申し訳ありません!」


 一騎当千と言っても良いほどの闘気を纏ったレッドが、瞬間的に下馬して地面に膝を付いた。


 え? もしかして、彼って、見かけ倒し?


 そう思ったの束の間。


「あらあら? だからあなたはいまだにゼロになれないのですよ? 実力はあるのに……そうですわ! ここは私が見本を見せましょう!」


 そう言って微笑む銀髪の女神。

 え? この人、この人たちタリスマン家の精鋭じゃないの?

 とか、

 見本ってなに? 確かに神掛かった美女だけど、それだけじゃこの城落とせないよ?


 だって、城門の内側では一〇〇〇を超すゼフトの精鋭がいるんだよ?

 いくらタリスマン家の騎士だって、見た所二〇ぐらいしかいないじゃん!


 そう思ったあのころの俺を誰か殴ってくれ!

 だって、銀髪の女神様は、いつの間にか持っていたドングリを、


「えい!」


 鈴が響くような可愛らしい声と供に、指先で弾いた。

 刹那。


 ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!


 俺のすぐ後ろにあった城壁を粉々に砕いたのだから…………。


最後までお読みいただきありがとうございます!

読んでいただいてわかるとおり、閑話なのに長くて分けました!

応援よろしくお願いします!

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