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よろしくお願いします。
そして放課後。
「アルサス様。ゼフト王国の処分が決まりました!」
「うん? あれ? 僕は話し合いをするつもりだったんだけど?」
普通に考えれば、いや、この状況がすでに普通じゃないのだが、
敗戦国(戦争すらしてないけど)との取り決めって、いくら勝った国が、有利に事が進むからって簡単じゃないと思うのだが?
「はい! アルサス様のお手を煩わせることは、即・国・滅! っと言うことで、女帝様がほぼほぼ決めました!」
「ん? 姉上が?」
眉を潜め右に視線を向けると、
「あらあらアル! そんなに見つめられたら…………いえ、やはり子供は沢山いた方が楽しいですわよね!」
朝ジュークが去った後現れ、ほとんどの時間僕の横にいた姉上が、染めた頬を両手ではさみ、イヤイヤと身体をよじる。
どうやら姉上の無双の中では、五人目あたりの子供が想像妊娠中のようだ。
「はい! 女帝様は度々ゼフトに姿を現し、敗戦国の処遇を的確にさばきました!」
その言葉に左に視線を向けると、
「おろおろ? 別に大したことはしとらんぞ?」
数十人の上級魔術師が、数時間かける超上級魔術を十数回行ったと思われるヒルダが、すまし顔で答えた。
「それで、これがかの国の処遇です!」
どこかホッとしたジュークが、懐から一枚の紙を取り出し読み上げる。
内容を簡潔にすると、
今回の事件に関わったゼフト現国王及び主だった関係者は、今回の不祥事の責任を取り即座に身分剥奪の上、辺境の地で隠居し、速やかに世代交代すること。
この先一〇年の期間、シュタイン王国のタリスマン家の輸入品の関税を二割上乗せし、輸出品の関税は三割引くこと。
実行犯であるアンネ・リゼッタは、再教育として、シュタイン王国タリスマン家に身柄を移すこと。
などなど、完全にシュタイン有利、っと言うかタリスマン家一人勝ちのような条件だった。
まあ、最後の再教育はともかく、おおむね僕が思ってた通りの条件だ。
ただ、最後の一項目。
その他、シュタイン王国に在留しているゼフト留学生は、速やかに帰国後、処置が決まるまで謹慎処分とする。
「え? ブランドたちが……帰国? 謹慎?」
思わず呟いた僕の耳朶に、
「あらあら、良かれと思ったことでしょうけど……余計な事を……」
「おろおろ? あれか? あのペコペコ頭を下げるしか能の無かった、あ奴の仕業かえ?」
姉上とヒルダの呟き。
どうやらこの件に彼女ら関与してないようだ。
それにしても、
「…………ふう。これ以上僕が政治的に口を出すと、色々面倒かな?」
ゼフトは、ただでさえいきなり国を攻められ敗戦させられたのだ。
これ以上、僕が口を出せば、ブランドの兄が、シュタインの傀儡と思われてしまうだろう。
悔しいけど、それはブランドも望んでないはず。
「……政治的介入は無しの方向で、どうやって彼らの……」
親指の爪を噛んで、思考の海に入ろうとした僕に、
「あらあらアル。もう準備は整っていますわよ?」
身の丈以上のバックを背負う姉上と、
「おろおろ主殿、かの国で友の立場を考えているのじゃろ?」
重力操作の魔法で、数個の重たそうなバッグを浮かせるヒルダ。
戸惑う僕に、二人はにこやかな笑みを浮かべ、
「政治的でなければいいのですわ」
「そうじゃ、かの国の貴族に主殿の友が、どれほど重要人物が分からせればいいだけなのじゃ」
なんて、
「さあ、行きましょう!」
「ゼフトまで、わっちの魔法でひとっ跳びじゃ!」
僕に手を差し伸べてくる。
ああ。
ああ僕は、
素敵な姉上と、
素敵な婚約者がいて、
僕はなんて幸せなんだろう。
目尻に押し寄せる感涙を振り払う様に、僕は顔を上げ、彼女たちの手をとった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
諸事情で投稿がしばらく不定期になりかもです。(いや元から不定期?)
それでも、引き続き応援よろしくお願いします!