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ダークアルサス降臨!
「きゃ~~~! ブランドさまあ~~~!」
「デイト様の不屈の精神。感服しました!」
「モス様! 私、クッキー焼いてきたんですけど……」
さて、姉上との一戦で、一目置かれる様になったブランドたち。
まあ中には、
「ゼフトの能無しどもは、いったいどんな卑怯な手を使ったんだ?」
「ちっ! アルサス様がいれば俺だって……」
誰とは言わないが、彼らの活躍をやっかむ奴らもいる。
後でシャザー男爵令息と、マンダス伯爵令息は、小一時間ほど説教しておこう。
とにかく、一部を除いて彼らの評価は龍の滝登りだ。
そこに、
「ブランド! デイト! モス! おっ! はよおぉぉぉぉ…………」
手を振り、馴れ馴れしく名前を呼び駆けてくる少女に、どこからともなく飛んできたドングリが、彼女の腹部を襲い、
「ふごおぉ!」
走り込んできた勢いのまま、くずおれながら床に転がる器用な……あれ? この娘誰だっけ?
「なんですか? イジメ? この国では可愛い、可愛い留学生をいじめる法律でもあるんですか? それに私の名前はアンネ・リゼッタです。念のため!」
最後の言葉はかっちり僕を見て言った。
心でも読まれたのか?
そんな僕の横で、
「やばいやばいやばい。かぶってる! あの娘、絶対私とかぶってるって! これマズイわ! キャラ変する? それとももう一回……いやいやいや、今度裏切ったらそれこそお姉様に……あれ? それもありかも!」
いつの間にかいたミナが、なにやらぶつくさ言ってる。
まあ、とても話しかけられる状態じゃなさそうなので、完全にスルーの方向で、
「あ! 授業に遅れちゃう! ブランド、モネ、デイト、さあ行こう!」
ついでに廊下にうずくまるアンネも通り過ぎようと、棒読みで先を急ぐ僕ら。
ちなみに姉上とヒルダは僕の腕に引っ付いているので、声は掛けていない。
「ちょっと待ちなさいよ!」
なのに、やっぱり復活して立ち上がる……。
「ねえねえ! 私こんなに悩んでるのにスルー? ちゃんと一緒に悩んでよ! 私、私これからどうキャラ変していけばいいのよう!」
ミナにズボンのすそをつかまれた。
そっちかよ!
っとツッコむのも面倒くさいので、
「双子キャラ……とか?」
僕なりに案を出してみたのだが、
「何言ってんですかアルサス様! 双子みたいなキャラって性格かぶっちゃいけないんですよ! 片方がツンならもう片方はユルみたいに! それぐらいちゃんと勉強しといてください!」
こいつ、本当に何様なんだろうな。
さらに、
「分かってない! アルサス様本当に分かって……ひっ!」
なぜか得意げに肩をすくめて首を振るミナだが、
「あらあら? な・ん・で! 私の愛しい愛しい愛しいアルに触れているばかりか、対等に口をきいているのかしら? やはりアレをアレしてアレにしてしまいましょうか?」
「お! お姉様が、私を見てくれたわ! それにお声をかけて……ぐふっ!」
姉上のにこやかな殺気をモロに喰らい、
でも、
なんだか僕らの知らない、未知の領域に踏み込んでくずおれた。
そんな彼女に注意を向けてしまっていた僕らに、
「ふっ、ふざけんじゃないわよ! もういい! 本当はもっとネチネチとあんたたちを壊していこうと思ったけど、もうこれでお終いよ!」
いつの間にか復活していたアンネが、どこからともなく取り出した小箱を僕らに向けた。
「これで本当にお終い! あんたらこれから地獄を……」
得意満面に語るアンネだが、
「あらあら? えい!」
「あいたっ!」
姉上の扇子が一閃すると、小箱を取り落とす。
うん。演劇じゃないんだから、やるならやるでさっさとしないと……姉上が飽きるよね?
そんな、この騒ぎに集まった生徒を含めた僕たちに、
「いや~~~~! 返して! ソレ大事なものなの! ソレでブランドたちをもう一度私の虜にして、アルサスと仲たがいさせて、彼の心の隙をついて私にメロメロにさせて、あんたや婚約者を悔しがらせるんだから!」
本音ダダ漏れのアンネ。
うん?
こいつ今。
なんて言った?
せっかくできた僕の友達と…………。
姉上やヒルダが認め、喜んでくれた僕たちの絆を…………。
「あらあら? これがそんなに大事なものなのですか? それはそれは……ひっ!」
右手で掲げた小箱を奪おうとするアンネの頭を押さえ、楽しそうにしている姉上の顔が僕を見て引きつった。
「ねえ返して! ちょっと背中が物凄く寒いんですけど! そんなことより返し……」
小箱を奪おうと、隙をうかがってたアンネが振り向き、
「ねえ君。それってどう言うことなのかな?」
質問する僕と視線があった。
刹那。
「ひゃ、ひゃひ!?」
おかしな声を発し、その場にくずおれた。
「あれ? どうしたの?」
目を見開き、視線を離さない彼女にゆっくりと近づく僕の耳朶に、
「各自、特級防衛シフトを! ジューク! 学園長及び、国王とタリスマン家に通達。全戦力を学園に集結させよ!」
姉上の凛とした声。
「あれ? おかしいな? 姉上、それは姉上が暴走した時にする最上級の防御シフトだよ? 姉上が暴れて無いのに、なんで姉上自身がそれを知ってるの?」
ただ疑問で聞いただけなのに、
「ア、アアアアアアアアアル。そ、そうよね! アルは、アルは何も悪くないわ」
「なに言ってんですか姉上。僕はなにも悪いことしてないですよ?」
「そ、そそそそそそそそそそそそそそそよね。アルは何もしてないわ。ほ、穂ほほほほほほほほホント、私ってばそそっかしいわね!」
なぜか引きつった笑みを浮かべる姉上。
まあ、それを問い質す前に……。
僕は姉上にニコリとほほ笑み、倒れ込んでいるアンネに向きを変えた。
「あひっ! ち、ちかよら……わた、私、なななななななにも……」
なんだろう? 寒いのかな?
彼女が何かを言いたそうに唇を動かすけど、良く聞き取れないや。
だから僕は、さらに彼女に近付く。
もちろん。
いつもの人懐っこいと言われる社交辞令スマイルでだ。
「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃ! ち、ちか…………よら……ひゃ!」
彼女の前まで来た僕が、腰を折り、そっと耳元で囁く。
「で? 僕とブランドたちを、姉上をどうしたいって?」
出来るだけ優しく言ったつもりなんだけど、
「あっ……あっ……」
……じょぉぉぉぉぉぉぉぉ。
よほど体調が悪いのか?
彼女は体をガクガク震わせ、顔を新雪のように真っ白にして、失禁してしまった。
これはマズイ。
紳士淑女の集まるこの学園で、人通りのある廊下で、
しかも、なぜか今は誰もかれも立ち尽して、こちらを注視している中での惨劇だ。
僕はソレが見えないよう、彼女が隠れるように体を動かし、
「大丈夫。誰にも気付かれないよう、消しておくよ」
彼女を安心させようと、僕が口角を上げた瞬間。
「ひゅよわ! ひょうへぇぇぇぇぇ!」
え? どこから声出したの?
そう思えるほどの奇声を発し、アンネが廊下を走り去っていった。
走り去る彼女を見送りながら、
「ああ。やっぱデリカシー無かったかな?」
肩を落とす僕に、
「危機は去った。特級防御シフト解除。各関係者は速やかに撤収せよ!」
姉上の声と供に、廊下の空気が弛緩した。
ん? もしかして訓練だったのかな?
姉上のために構築した防御シフトを、姉上が訓練するなんて何とも言えないが……。
まあいいか。
訓練って大事だもんな。
ややたどたどしく近寄ってくる姉上を、笑顔で迎えるのだが、
「あれ? そういえば彼女、僕の質問に答えて無いや。まあ、後で聞いてみよう」
ピシッ!
僕の独語に、なぜか再びこの場の空気が凍った。
あれ? まだ訓練の途中だった?
最後までお読みいただきありがとうございます!
クライマックス間近ですが、作者の体調? やる気?
が、すぐれないので(コロナじゃない! っと思いたい!)
投稿が少々遅れるかもしれません。