7
今回!
作者には珍しくホンワカデレデレ回です。
楽しんでいただけたら恐縮です。
「アルゥ~~~」
猫のようにゴロゴロ喉を鳴らす姉上。
え? もちろん僕のアバラはバキバキだよ?
ちゃんと回復薬の飲まないとね!
そう思っていたのだが、
「アルゥゥゥゥ~~~~。すや~~~~」
いつの間にか、姉上が健やかな寝息を立てていた。
「え? 姉上!? 起きて! 自分の部屋で……うぐっ?」
脇腹の痛みと姉上のホールドで動けない僕の口に、回復薬を突っ込んだのは、
「おろおろ、今日ぐらい良いではないか? 模擬戦が終わった後のこ奴は、わっちでも見ていられぬぐらいうろたえておったからのう」
やれやれと肩をすくめるヒルダだった。
「え? 花歌交じりに魔王と対峙する姉上が?」
「ああそうじゃ。ウロウロしすぎた摩擦で…………。自分の部屋はおろか、女子寮全体が色々大変じゃったのじゃ」
あ、うん。そこら辺は詳しく聞きたくないのでスルーした。
それにしても、
「ありがとうヒルダ」
この状態の姉上をここに連れて来るなんて、魔王戦より激しい攻防があったはずだ。
それでも僕の婚約者ってだけで、面倒を掛けたヒルダに改めてお礼を言う。
ただそれだけだったのだが、
「ぬひょ!? そ、そそそそそそんな、わっちは、ただ、義理姉上殿がうるさいから……。それに、わっちは主殿の婚約者じゃから……そんな、そんなストレートに俺を言われると……照れるのじゃ……」
耳まで真っ赤にしたヒルダが、
「そ、そうじゃ! そ、それならば、ほ、褒美をしょ、所望しようかのう?」
姉上をベッドに運ぶ僕に、さらに顔を赤く染めて呟く。
「ん? 良いよ。僕が出来る範囲でなら」
腕を離さない姉上を剥そうと、四苦八苦している僕に、
「きょ、きょきょきょきょ今日は! 主殿と一緒にねたいのじゃあぁぁぁぁぁ!」
ヒルダが爆弾発言を落とした。
「ヒルダ、大丈夫? 痛いとか苦しいとかない?」
「うむ。全然じゃ、むしろ空に浮かんでるような気分なのじゃ」
真っ赤な顔したヒルダの要求を、僕はなんだかんだ言いながらも叶えた。
灯りを落とした部屋の中。
暗闇になれた僕の目には、恥ずかしそうに微笑むヒルダが映り、
「すぴ~~~~~」
その反対側からは、僕の腕をつかんで離さない姉上の幸せそうな寝息。
「うむうむ。まったく、義理姉上殿は……あれだけ暴れておいて……」
うん。なんかヒルダの物騒な独り言を聞いた気がするが、
きっと、もう眠いから空耳だろう。
そう思うことにして僕は、
「改めて、ヒルダ。いつもありがとう」
日頃言えない言葉をヒルダに向ける。
「ひょへ? ななななななな何を突然、ヤブ医者からスティキーに……」
古代の格言『藪から棒に』と言いたかったであろうヒルダは両手を頬に添えたまま、ゴロゴロとうろたえまくり、
ごとんっ!
キングサイズのベッドから、転げ落ちた。
「むにゃむにゃ、ヒルダ、ざまぁ……」
姉上は良い夢でも見ているのかな?
助け起こそうとする僕に、姉上の腕が絡みつく。
「おろおろ、主殿酷いのじゃ。そういう言葉は、突然言われるとびっくりしてしまうじゃろ!」
ベッドに這い上がって来たヒルダが、なぜか恨めしそうな視線を向ける。
ただいつもの思っていることを言ったつもりなのだが……突然過ぎたのか?
やや思う所もあるが、まあいいや。
この際なので思ったことを全部言おう。
「ヒルダは、僕の婚約者ってだけで、知り合いもいないこの国に単身来て、いつも僕のわがままや姉上のフォローまでしてくれてるだろ? ここのところゆっくり二人で話せなかったから、今言っとこうと思ってね」
社交辞令の笑みではなく、出来るだけ素の笑みを浮かべる僕に、
「ふぇ? しょ、しょんなとつじぇん、しょんな……」
え? 体内の魔力が暴走したの!?
っと思えるほど、暗闇でも分かるぐらいにヒルダの体全体が真っ赤に染まって、
……………………ぼんっ!
ヒルダが爆発した!?
いやいや、それはモノの例えだが、
枕に顔を埋めたヒルダから、物凄い量の湯気が立ち上る。
「え? ヒルダ大丈夫?」
ヒルダの方へ身をよじろうとした僕の腕を、
「むにゃ!? あまり調子に乗ると……むにゃむにゃ」
聞き取れない寝言を呟く姉上が引き戻す。
う……うん。本当に寝てるんだよね?
「…………まあ、とにかく、今日はもう寝るだけだから」
そう呟いた刹那。
「わ、わっちもアリガトウなのじゃ! 主殿はわっちを色の付いた世界に導いてくれたのじゃ! じゃから、これぐらいなんでも無いのじゃ!」
感極まった声で枕から顔を上げ、寝転がる僕に覆いかぶる勢いのヒルダに、
ひゅんっ!
ばきっ!
「きゃうん!」
どこからともなく、ヒルダの額を撃ち抜くドングリ。
「すぴ~~~」
「いやいや、間違いなく姉上だよね? 完全に寝たふりですよね!」
ベッドの端にくずおれるヒルダを横目に、隣で寝息を立てる姉上にツッコミを入れるのだが、
「……すぴ~~~私は熟睡してますわ。少しだけ寝相が悪いだけですわ、すぴ~~」
説明臭い寝言をのたまわる姉上。
「いやいやいや、その寝言完全におかしいって、姉上本当は寝て無いんで…………しょ?」
半身を起こして、本格的にツッコもうとする僕の左腕に、スッとからんでくるヒルダの腕と、半瞬遅れで感じる弾力のある双丘。
「いいのじゃ主殿。ちょっとわっちが暴走してしまっただけじゃ、義理姉上殿はちゃんと寝ておるのじゃ」
「え? なに? いつの間にヒルダと姉上って仲良くなったの?」
いろいろツッコみたい僕なのだが、
「むにゃ~~~。今日はお世話になりましたから、特別ですわよ?」
「ふん。本来なら義理姉上殿の許可なんぞ必要ないのじゃが……そう言うことにしておこうかのう」
なんか、いつの間にか仲良くなってる二人を色々問い質したいのだが、
「…………まあ仲良けりゃ良いのか? それに……」
さすがに今日は僕も疲れた。
体の力を抜き、ベッドに体を預ける。
「アル。良いお友達が出来て、良かったですわね…………あ! むにゃ~ですわ!」
すでに寝言の域を完全に無視してる姉上の独語と、
「そうじゃの。主殿の気に入りようは、きゃつらの留学期間が終わったら、そのまま付いて行きそうなぐらいじゃ」
「いや、さすがにそこまでは……」
そう言いながらも、
『タリスマン家には、分家のあいつを養子にして』
なんて思ってる僕がいた。
「あらあら、アルはいつも、今までずっとわがままも言わずに我慢してきたのだから、家の事なんてお父様に丸投げしちゃえばいいのですわ。もちろん私はアルの行くとこなら、どこにでもついて行きますけど!」
「奇遇じゃのう義理姉上殿。わっちは元からそのつもりじゃ」
「あらあら? しつこい女は嫌われましてよ?」
「おろおろ? それはこっちの言う台詞じゃて!」
二人のじゃれ合いに、思わず笑みがこぼれ、同時に肩の力が抜けた気がした。
どうやら自分で意識しないうちに、いろんなモノを背負い込んでいたようだ。
だから、目の慣れた暗い部屋の、見慣れた天井を見ながら、
「姉上。ヒルダ。ありがとう!」
いろんなしがらみを振り払うよう、珍しく素直な笑顔で感謝の言葉を伝えた。
「「………………」」
そんな僕を二人は、
「ぶはっ! アルが……」
「ぐはっ! 主殿が……」
「「………………尊い」」
ガクリッと力を抜き、
でも、しっかりと僕の腕をそれぞれホールドして、眠りについた。
きっときっと、僕の知らない所でも、二人は頑張ったのだろう。
二人の満足そうな寝顔を見て、
「うん。僕は幸せ者だ」
身をよじり、二人のおでこに感謝のキスをして、目蓋を閉じた…………。
追記。
右手に美女。
左手に美女。
男なら誰でも憧れるシュチエーションなのだが、
でも知ってるかい?
両手に花状態で寝るのって、寝返りも打てず、頬も掻けず、物凄く寝づらい事を…………。
そして翌日。
「あらあら、おはようございま~~すですわ!」
「おろおろ、おはようなのじゃ!」
両手に、肌つやつやでご機嫌の姉上とヒルダを伴い、目の下に隈を作った僕を見た生徒全員に、あることないこと噂されたのは、絶対僕のせいじゃないと思う!
デレ回いかがだったでしょうか?
こういう回もいいよ!
もっとこういうの書けよ!
そう思ったあなた!
ブクマや評価など、ポチッとしてくれたら増えるかもしれません!
感想もよろしくお願いします!