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よろしくお願いします!
一等騎士。
姉上と三分以上対峙で来た強者に送られる、我が国独自の称号だ。
でもこの称号の価値は、大陸では勇者と同等かそれ以上に名誉ある称号でもある。
ちなみに三分という時間は、上級宮廷魔術師五〇名が隠れて絶対魔法防御を重ね掛け続けられる最長時間だ。
「がっはあぁぁぁ! やっぱ噂通り、いや、噂以上だな! お前のねーちゃんは!」
最後に姉上からの一撃(やや手加減あり)を喰らい、地面に大の字で埋まるデイトが笑い、
「ええ、やはり仮想と実戦では、緊張感から来る詠唱の遅れと、それに伴う連続魔法を使用する魔力と体力の低下が……今後の課題ですね」
魔力回復薬の飲みすぎで、鼻血を拭うモスと、
(たぽたぽ聖女とは比較しないで下さい! 一般的にはこれが普通の症状です)
「まあ、後悔も反省も、まだいいだろう? それより今は…………」
膝を付き、肩で息するブランドが剣を頼りに立ち上がり、
「皆で手に入れた、この国一、いや、大陸一の称号を祝おう!」
刃こぼれだらけの剣を、誇らしげに掲げた。
「「「おおう!!」」」
それに呼応する三つの声。
とにもかくにも、僕が多少手伝ったとはいえ、彼らにはこの国で最高の称号を与えられ、ゼフト王国でも一目置かれ扱いも少しは改善されるだろう。
彼らが望むモノかは分からないし、僕の自己満足かもしれないが、初めてできた友人に送るにはそれなりのプレゼントだろう?
その日の夜。
汗を流し、食堂でささやかな祝勝会をして部屋に戻った僕は、
「…………」
無言で部屋の窓を開いた。
そこには、
「あひゃ!」
まるで田舎から都会に出たばかりの少女ように、モジモジと頬を染めながら両手を胸の前で組む姉上と、
「おろおろ? やはり勘づいておったのかえ?」
悪びれた様子もない猫ミミフードをかぶった、黒猫風の寝間着姿のヒルダが、下着が透けそうなピンクのネグリジェを着た姉上を抱え宙に浮いていた。
まあ、僕の部屋が三階だとか、こんな夜更けに姉と婚約者だが、未婚の女性がそんな姿で男子寮に? とかは、いつものことなのでスルーしよう。
それよりなにより、
「あ、あのう……」
ヒルダに抱えられながらも、モジモジソワソワしながら、ちらちらこちらをうかがう姉上の方がとってもレアだった。
「まあ、ここに来た理由は分かっているので、どうぞ中へ」
窓を開け放ち、彼女らに道を開く僕に、
「…………」
「うむ。それでは遠慮なく」
俯いたままの姉上ごと部屋に入ってくるヒルダ。
「リラックス効果のあるお茶と、ビスケットしかありませんが……」
彼女らが椅子に座るのを待って、目のやりどころに困るので姉上に僕のガウンを羽織らせた。
その時、ぴくりっと小さく肩を震わす姉上が、なんだかとっても新鮮に見える。
用意していたお茶を注ぎ、ビスケットの乗った皿をテーブルに置いた。
「「…………」」
要件は分かっているのだが、ガウンの端をにぎにぎしてるだけでなかなか話を切り出さない姉上。
これは、僕の方から水を向けないと駄目かな?
そう思い、口を開きかけた僕に、
ぐびっ!
姉上が入れたてのお茶を一気に飲みほし、
「ア……アル! ご、ごめんなじゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
突然床にひれ伏し、姉上が床板に額を強打。
当然。
バシュッ!
砕けた床板の一部が超超高速で二階……いや一階の床まで突き破り、異界に行ってしまった。
我ながらうまい事を言ったと思うが、後で寮長さんと下階の人に謝っておこう。
それよりなにより、
「びえぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
床に座り込んだまま号泣する姉上を何とかしよう。
「ほれ義理姉殿、今日の事を主殿に謝りに来たのじゃろ? 泣いてちゃダメなのじゃ! な? な? 主殿は分かっておる、それほど怒っておらぬて、じゃから……」
姉上に優しいヒルダも、たいがいレアだなぁ~。
なんて思いながらも、姉上に近寄りそっと肩に手を置く。
「分かってます。今日ブランドたちにとった冷たい態度を謝りに来たのでしょう? でも、それは僕のためなんでしょう?」
「ううう……でも……でも! 私の最愛で最高で最強に愛してるアルに! ひどいことしまじだぁぁぁぁ!」
「え? ブランドたちにじゃなくて、僕に?」
確かに今日は珍しく、姉上と対戦したけど?
首を傾げる僕に、
「だって、だって……」
その場に座り込み、上目使いで僕を見上げる姉上。
いつも強気で、凛としている姉上の、超超超レアな表情。
もしここに、男女問わず一〇〇〇人の人がいたら、一一〇〇人が鼻血、もしくは吐血してぶっ倒れるだろう破壊力だ。
一〇〇人多いって?
それはこの場にいなくても、余波で倒れるからさ!
僕? 大丈夫だよ?
なぜなら、血がだくだく出るほどめっちゃ口内噛んでるし!
とにかく、この衝動をこらえようと視線を逸らして次の言葉を待っているのだが……。
「もうアルは、私と視線も合わせてくれないのですね! びぎゃぁぁぁぁぁぁぁん!」
再び姉上が泣きはじめ、振り出しに戻った。
なんか、いつも以上に面倒臭さを拗らせた姉上に、どう対処しようかと思う僕の耳朶に、
「おろおろ? せっかくわっちが、ここまでお膳立てしてやったというのに、義理姉上殿は泣き喚くだけかえ?」
姉上を軽く小図いて、僕ににじり寄るヒルダ。
「主殿。これではらちが明かぬのじゃ。二人で茶の続きでもしようかの? いや、コレは廊下にでも出しておいて、二人でしっぽり……」
まあ、猫ちゃん寝間着なので、しっぽり猫じゃらしで遊ぶ感じなのだが、
「はぶちゃ!」
そんな彼女の横っ面を、ドングリの一撃が襲った。
「ぐずっ……もう大丈夫ですわ」
不意をつかれてくずおれるヒルダに一瞥も向けず、鼻がほんのり赤く、涙目の姉上が僕を見つめる。
その姿の破壊力を、なんとか飲み込み、
「それで、どうしたんですか? 今日の事でしたら姉上が謝ることなんて無いと思うのですが?」
話を進めようと話しかける。
「ぐずっ……。私、アルに酷い事をしました!」
「え? 僕は酷い事をされたなんて、これっぽっちも思って無いですけど?」
首をかしげる僕に、
「だって、だって! 彼らにアルの友人資格があるが試すためとはいえ、アルに! 私の愛して愛して愛して愛して愛して止まないアルに! 模擬戦とはいえ敵対したのですよ!」
「え? それだけ?」
僕に殺気を向けたとか、姉上が放つ剣戟で擦り傷作ったとか、そんな些細な事ですらなかった!
「こんな私を、もうアルはお嫁にしてくれないと思うと……もう……もう……」
ポロポロと涙を流す姉上に、
『いや、もとからお嫁にする気無いんで!』
なんてトドメの言葉を言えるはずもなく、
「何言ってんですか。姉上は勝負の最中。ちゃんと僕を見て攻撃の角度を変えたり威力をおさえたりしてくれてたじゃないですか。おかげで僕はかすり傷一つ負ってませんよ」
「アル! アルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
勢いよく抱きついて来る姉上の頭を、只々優しく撫で続けた。
毎回毎回本文は書けてるのに、前書きと後書きに面白いことを書こうとして、
時間をとられる。
こんななときはコレ!
デレレッテレ~!
缶ビール!
グビグビ ぷっは~~~~~!
ベロベロ!
ぐ~すかぴ~~~~~。
寝言ですが、ブクマ、評価、感想お待ちしております!
すぴ~~~~~~。