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よろしくお願いします。
開始の合図を聞きながら、
ミナ先生の言葉をあとで問い詰めようと心に誓い、今は勝負に集中する。
「まずは小手調べだ! 踊れ踊れ!」
腕を組んだままのポールが、得意げに顎で合図を送ると、
「……シャ!」
ポールを守るように立つサラマンダーの口から放たれる、一本の火矢。
魔法使いが使う、火球の弓矢版だ。
威力は火球に劣るが、放たれる速度は倍以上ある。
まあ、それでも一本なら余裕だ。
「…………」
僕は無言で右に飛んでよけた。
さらに、
「火矢、火矢、火矢火矢!!」
次々に向かって飛んでくる火矢を、右に左に、前へ後ろへとよける。
遠距離からの連続攻撃は厄介ではあるが、勇者の力を使わなくてもよけられるほどなのだが、
「気を付けて! それでセツナは逃げ道を…………あれ?」
観客席で声を荒らげるミナ。
が、僕の立ち位置を確認して言葉を失う。
「あいつ、こんなお粗末な誘導に引っかかったのか? あとで説教と再訓練だな」
だって僕は、一周回って開始位置に戻っただけなんだから、
「くっ! ちょこまかと!」
こんな準備運動にもならない攻撃に、なぜか息を切らしポーションを飲み干すポール。
確か精霊の契約者って自分の魔力を使わない代わりに、精霊との絆が浅いと体力を奪われるだっけか?
そんなことを思い出した僕は、
「おいおい、もしかしてこれで終わりってわけじゃあいいよね?」
口角を釣り上げ煽った。
すると、
「このガキャ! 調子に乗りやがって!」
思った以上に挑発に乗ってくれたポールは、もう一本回復薬を飲み干すと、
「おい火トカゲ! 古の契約に基づき、俺の敵をメチャメチャのグチャグチャにしろ!」
「…………」
ポールの命令に、『ふう。しょうがね~な』っと、ため息をついたように見える火トカゲが空を見上げると、闘技場の天井に次々と火矢が現れたのだ。
「これ! 最後はこれでセツナはやられたの!」
興奮気味に叫ぶミナ。
「ぎゃはははは! とうとう俺を怒らせちまったな! この無数の火矢で串刺しになっちまえ! 安心しろ殺しゃ~しね~。俺とお前のね~ちゃんがつながるとこ、見せてやらね~といけね~からな!」
さすがにこれだけの力を精霊から引き出すのは、かなりの体力が必要なようで、回復薬を飲んだにも関わらずポールの目は充血し、鼻血まで垂らしている。
それであのセリフって、ただの危ない人だ。
「これ以上姉上を侮辱する言葉を吐かれると、本当に殺しちゃいそうだから、これぐらいでおしまいにしようか。でもまあ、回復薬は全部使おうかな」
「なにボソボソ言ってやがんだ? もうお前はおしめ~だ! 死ね!」
頬をかく僕に向かって、ポールの凶笑とともに天井から火矢が降ってくる。
はたから見れば、絶体絶命のピンチ!
なのだが、
「はあぁぁぁぁぁ!」
僕は足一本を犠牲にして大地を蹴り、一瞬の十分の一でポールに接近。
さらに右腕を犠牲にし、持っていた剣をポールに向けてふり下ろす。
パリンッ!
小気味いい音とともに、火トカゲの加護が壊れた。
「な? なに!?」
もちろん、驚愕する彼には傷一つ付けないぐらい手加減をし、残っている左腕で彼の首根っこをつかんで頭上に掲げた。
当然。
「がっ! あがががががががが!」
降りしきる火矢に、精霊の加護なしでさらされるポール。
大丈夫。
ちゃんと致命傷になりそうな場所は避けてるから。
まあ、それ以外の痛点には積極的に当ててるけど。
だが、僕の攻撃の時間は終わってしまった。
別にポールに反撃されたわけじゃない。
火矢の雨が、わずか数秒で終わってしまったからだ。
「おいおい、いくら何でも短くないか? せっかくのお仕置きタイムなのに……せめて一分ぐらいは持たせろよ!」
「…………」
僕のボヤキを、火トカゲが『しょうがないだろ、こいつとの絆は大したことないんだから』なんて言ってるように肩をすくめた。
「あががが……き、きさま。こ、殺してやる! 絶対、ぜえ~~て~殺し……ぶべっ!」
彼の言葉が終わる前に、乱雑に地面に投げ捨て回復薬を飲み干し、
「さて、お仕置きの時間だ」
僕は自分で言うのもなんだが、爽やかな笑顔を奴に向けるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回、おしおき(ざまぁ)タイムに入ります!