4
すみません、更新遅れました!
ついでに、いつパソコンが壊れるか分からないので、
やや長めです!
そんなひと悶着があったとは知らず、
「あのバカ。あんだけ説教したのに、もう忘れたのか? 鳥? もしかしてあいつ鳥頭なの?」
なんてボヤキながら、僕はこの国の王子とシルバニアの留学生がもめてると言われてる裏庭へ向かった。
そこで見たものは!
「びえぇぇぇぇぇぇぇん! セツナ! セツナァ!」
淑女とは間違っても言えないほど、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたミナが、地面に倒れこんで気を失ってるセツナを抱き起している。
まあ普段ならよく見る光景なのだが、
「この勝負、俺の勝ちってことでいいよな?」
いつもと違うのは、それを見下ろしてるのが姉上やヒルダではなく、シルバニアのポールとカナリアだということだ。
「安い挑発に乗ってからの返り討ちってところかな?」
自信と嫌味満々の笑みを浮かべるポールに、大まかな検討をつけるのだが、
「でもこれは、いくらなんでもやりすぎじゃない?」
倒れるセツナの制服は、いたるところに焼け焦げた跡があり、露出している顔や手には重度と思われる熱傷まである。
非難の視線を向ける僕に、
「勘違いされちゃ困るな。これは精霊の立ち合いによる正式な真剣勝負だ。そっちの王子も理解してははずだぜ?」
肩をすくめるポールに、
「何言ってんのよ! 精霊だって真剣勝負の内容だって、全部後出しだったじゃない! それにセツナは素手で、なんであんたは精霊魔法有りなのよ!」
涙と鼻水を乱暴に拭ったミナが噛みついた。
「おいおいそれも言ったはずだぜ。精霊の名の元。お互い全力を出し合って戦おうってな。そこの王子様の全力が拳で、俺の全力が精霊魔法だったってだけだろ?」
その言葉を待っていたかのように彼の背後に現れたのは、人間の背丈を優に超える炎の精霊火トカゲが、
どこかけだるげに炎の舌がチロチロと揺れていた。
「なるほど。『精霊の名の元に』ってのが、制約の言霊ってわけか」
精霊の加護で繁栄しているといっても過言ではないシルバニア共和国。
代々の最高議長の四人には、地水火風の四大上位精霊の守護があるという。
その子息にも加護があるようで、ポールを守護する火トカゲは中級以上の精霊だ。
中級といってもその力は軽く上級魔導士一〇人分の相当するとかしないとかって噂。
とにかく、そんなの相手に拳だけで渡り合える人間は…………まあ、何人か知ってるが、そこに転がってるセツナでないことだけは確かだ。
さて、落としどころをどうしたもんかと考える僕の耳朶に、
「それじゃ契約通り、お前の姫様をいただこうか」
「くっ! 私は決してあなたのモノになんかならないんだかから!」
「はあ? お前みたいなぺったん娘がほしいって本気で思ってたのか? お前はただのエサだよ。なあアルサスさんよう。コレを賭けて、俺と勝負しないか?」
獲物を追い詰めた爬虫類のような眼差しを僕に向けた。
刹那。
「あらあら? 私のいない間に、ずいぶん面白そうなことしているではありませんか?」
いつの間にか僕の横に現れた姉上が、目は笑ってないけど楽しそうな声音を上げた。
「お姉様! 私の、私のために来てくださったのですね!」
姉上の登場に、桃色の歓声を上げるミナなのだが、
「あらあらアルではないですか! こんなところで偶然出会えるなんて、もはや運命! ささっ予約していた式場に、レッツらゴーですわ!」
「姉上。さっきも言ってましたよね? それに予約していた式場って何ですか? 確か教会の予約って半年から一年ぐらい前に申し出るんですよ?」
あくまでも常識の範囲で語る僕に、
「はい。それではチャンスを逃してしまうかもなので、王国の一等地に私とアルためだけの教会を作りました。そこは一年三六五日、いついかなる時でも連絡が入れば一時間後に式が挙げられるようにしています」
「無駄遣い! そんなことのためにどんだけ出費してるんですか!」
頭痛が痛い僕に、
「はい。そこには孤児たちを集め、私のウェディングドレス作りのためにデザイン、生地選択やお針子の仕事を学ばせたり、結婚式に出す料理の修行をさせています。この計画は一〇年前からなので、すでに成人した者たちには高級ホテルのシェフや一流デザイナーと呼ばれ独り立ちしている者もいますが、それでも私の結婚式にはすべてを投げ捨ててでも来てくれると言ってくれていますわ」
「くっ! なんて良いことしてるんだ姉上は!」
思わず片手で目を覆う。
姉上が私財を使って慈善事業をしているのは知っていたが……。
「それに……侯爵令嬢らしくないと思われるでしょうけど……。私は派手な式より家庭的な式の方が、嬉しいかなって……」
両手を口元で合わせ、はにかむ姿に、
なにこの姉上!?
思わず惚れ直し……げふんっげふんっ。
と、とにかく。
そんないつもの僕らの会話に、
「ぷはははは! 大陸最強の勇者様だっていうから、どれだけ脳筋かと思ったら、慈善事業に家庭的な結婚式だぁ? はっ! 所詮この世は弱肉強食。生まれた時から強者は決まってんだ。弱者に生まれた奴らは弱者のまんま。強者の食い物になってりゃいいんだよ! おっと、こいつは強者に生まれたのに、俺より弱者だったな!」
「ぐあぁぁぁ!」
品の無い笑い声をあげ、重度の火傷に苦しむセツナを踏みつけた。
「お前も俺より弱者なんだからさあ、さっさとお前のねえちゃんよこしやがれよ!」
彼の暴言に、さすがの僕もカチンッときた。
ちなみにカチンッときた内訳は、
姉上の慈善事業をバカにしたこと九割で、セツナが痛めつけられてるのは一割りだ。
本来なら彼の行動は国際問題なのだが、かの国は心のこもらない謝罪をするだけで、後にはこの国の王子のふがいなさを吹聴しまくるだろう。
それに、これを他人に任せたら、僕の怒りが収まらないじゃない?
なので僕の、いや、僕らの行動は決まった。
僕はチラリッと姉上を見ると、
「あらあらアル。そんなに見つめられたら、子供ができてしまいますわ!」
なんて言いながらも姉上は地を蹴り、瞬時にポールに肉薄し、
「えい!」
彼に向って拳を振りおろした。
ガキンッ!
「ふえ? あ、あは。あはははは! 惜しい惜しい、あともうちょっと早くて、倍以上の威力だったら、この『サラマンダーの鱗』に傷つけられたかもしれなかったがな!」
姉上の一撃に反応できなかったポールが、それでも気を取り直して笑う。
そんな彼に微笑を残して僕の隣に音も無く戻ってきた姉上は、
「……二割ってところですわ」
口角を上げた。
つまり、姉上の力の二割では、サラマンダーの守りは砕けない。
でも僕は見た。
常時不機嫌そうな炎の精霊の口元が姉上の一撃を受けた瞬間、わずかにひきつったのを、
「ふむ。なら姉上の力五割ぐらいか……。ポーション三本でおつりがくるかな?」
「はい。いえ、アルなら一撃で沈められますわ。でもそれならアルは無理せず私が……」
なんて過保護な姉上は言うが、
「いえ、今回は僕に譲ってください。姉上を景品にするみたいで申し分かりませんが、僕の姉上の慈善事業をけなした奴なのですから……」
本音は、
『姉上に任せたら、奴の存在自体消え去るじゃん!』
あくまで学園内の喧嘩程度で騒ぎを収めようとした僕は、姉上に対してだけ有効な言葉で封じたのだが。
「!! ア……アルが私のために怒って……ぐひゅ! ぐひゅひゅひゅひゅひゅ!」
その場でくずおれ、ちょっと人前に出せないほど相好を崩した姉上。
『良い場面が台無しじゃん!』
っと思った僕は、とっさに姉上の前に立ち隠し、
「……分かった。それじゃ勝負しよう。ただ、僕が姉上を賭けるのなら、お前はミナじゃなく守護精霊を賭けろ」
交渉を始めた。
「ほう。この娘じゃなくて俺のサラマンダーが欲しいと? ずいぶん強欲だな!」
「え? 私は? 私はどうなるの!?」
どうやら彼は、僕たちの罠にかかったようだ。
当然僕は外野の声はスルーして、
「それぐらいの価値が、姉上にはあるはずだが?」
冷静に交渉を続けた。
「ふん、いいだろう」
「え? え? 私の事はスルーですか? お姉様の次に大陸一の美少女の私を、完全にスルーですか!」
「うるさいミナ! それに大陸一を謳うなら姉上ぬかしちゃダメだろ?…………はあ。しょうがない。本当は厄介払いもできて一石二鳥だと思ったんだけど……ポール。ついでにミナも付けろ」
「いややめて! たとえそれが本心だとしても心の中で、せめて私に聞こえないように呟いて!」
最大限の譲歩をした僕の耳に、なぜか悲痛なミナの声。
「……ちょっとポール! さすがに議会を通さずに精霊を賭けるのは……」
「黙れカナリア。これは男の勝負に口を出すな! ちょうどこの不愛想な精霊にも飽きてきたところだったしな。それに例え勇者だとしてもサラマンダーと俺に勝てるわけがない」
言葉を遮られたカナリアと、
「……………………」
彼の背後にいたサラマンダーは『それはこっちのセリフだ!』っと言いたそうに、じろりっとねめつけた。
とにもかくにも、交渉はうまくいったようだ。
だから僕と彼はふてぶてしく笑い合い、
「「精霊の名の元に!」」
片手をあげて宣言した。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回、『アルサス暁に死す!』ご期待ください!
(ウソです!)