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「ああもう! あんたのせいでお姉様を見失っちゃたじゃない!」
「え? 俺はミナの後をついてきただけで……」
「あんたが右側から付いてきたから! なんか、お姉様も右側にいると思ったんじゃない! 私何か間違ってる?」
「…………うん。俺が悪かったよ」
確か教室から食堂に向かう廊下を無視し、わき目もふらず裏庭に向かったのはミナのはずなのだが……。
それをナチュラルに他人に擦り付けるのがミナクオリティー。
「と、とにかく今日はお姉様と一緒にいなくちゃならないの! そうしないとダメだって私の、聖女の勘が言ってるの!」
あまり当たったことが無いことで定評のあるミナの勘だが、どうやら今回は当たったようだ。
なぜなら、
「へえ。強国シュタイン王国の王子様がこんな裏庭で逢引。それもこんな色気のイの字もないぺったんこなのと…………」
彼らの背後から現れたのは、肩で風切るように歩くシルバニア共和国のポールと、それに静かについてきたカナリアだった。
「ちょっと? いまあんた、私の胸見て…………」
「おお。これはこれはシルバニアのポール様とカナリア様じゃないか、先ほどはお見苦しい所を見せてしまい、申し訳なかった」
ミナの言葉を遮り、王族のような振る舞いで詫びを入れたセツナ。
いや、忘れがちだが彼も一応立派な王族だった。
まあ、あれが失態だったと知ったのは、アルサスが姉とヒルダを従えて(暴力と魔力で?)説教した結果なのだが……。
「へっ。簡単に頭下げるなんて、この国の男は玉無しばっかか?」
セツナの態度に、ニヤニヤと粘着質の笑みを浮かべて挑発するポール。
だが、
「ああ。玉は付いてるが、この国の女はそれだけじゃどうにもならんのが多いいからな・……」
どこか遠い目をして、意図せず彼の挑発をスルーするセツナ。
それが何を意味しているのか全く知らないポールは、挑発に乗らないセツナに苛立つが、何か思いついたようにいやらしい笑みを顔に張り付けると、
「へえ、それじゃ、女にはこんなことしても大丈夫なんだ?」
そう言いながらセツナまでずんずん歩を進め、
「え? きゃっ!」
セツナの隣で事の成り行きを傍観していたミナの頬を、何を勘違いしたのかグーで殴った!
「な!? 何をするんだ貴様!」
倒れこむミナを助け起こし、珍しく憤怒の表情のセツナに、
「あははは! 悔しいか玉無し王子。じゃあ勝負しようぜ! お前が勝ったら俺が土下座で謝ってやる! その代わり俺が勝ったら……そうだな。まず手始めにこのぺったん娘でももらおうか!」
「ぺったんいうな!」
セツナの耳には、ツッコむミナの声がどこか遠くに感じた。
彼はそれほど怒っていたのだ!
王族に生まれて一六年とちょっと。
いや、ここ数か月で受けた屈辱は数あれど。
ここまでの屈辱を受けたのは…………まあ、あったかもしれないが、それでもこれほど悪意に満ちたものはなかったはず。
だから、
いつもだったら、もう少し冷静だったかもしれない。
いつもだったら、アルサスかシルヴァーナに殴られて止められてかもしれない。
でも、今、そのどれも彼の周りには無く。
「おおう! その勝負受けた! シルバニアがなんぼのもんじゃい! 貴様に勝ってミナに土下座してもらうからな!」
勢いよく立ち上がり、ビシッ! っとポールを指さす。
ちなみに、
あまり強いイメージの無いセツナだが、これでも(シルヴァーナにあんなとこやこんなとこに連れられ)何回も死線をくぐり、もはや近衛隊長レベルの実力を持っているのだ。
そんな彼の自信をあざ笑うように、
「ああ分かった。それじゃ精霊の名のもと。公平な勝負をしようじゃないか」
シルバニアの留学生は口角を釣り上げた。
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