第一部:1
酔った勢いで書いた、一度は書いてみたかった婚約破棄もの。
三から五話ぐらいで終わる予定。
ちょっとした暇つぶしにお読みいただければ幸いです。
贅を凝らした煌びやかな装飾品。
洗礼された紳士淑女が集まる、王城の舞踏会。
そんなお上品な場所で、
「シルヴァーナ・タリスマン! お前との婚約を、今宵破棄する!」
どこかで聞いたような台詞を、
王位継承権第一位である第一王子がのたまわりやがった!
「……おかしいな。あれほど言って聞かせたのに……やはり洗脳か呪詛でも使っておけば良かったか」
あいつの頭掻っ捌いて、脳を野良犬のそれと交換してやろうか? とも思ったが、残念ながら時間が足りない。
僕は痛い頭を押さえ、言い放たれた相手の令嬢に視線を向ける。
その彼女は、
「あらあら、それは本当ですか! はい喜んで!」
老若男女。
どんな人でも、あるいは魔物でも魅了する魅惑の笑みを浮かべ、我の強そうな我侭な胸元の前で手をくんだ。
「「「「「「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」」」」」」
予想以上に、彼女の仕草にため息を漏らす人々。
中には胸を押さえ、そのまま倒れ込む者も少なくない。
ある意味、この国はもう末期だとも思える光景だ。
そんな状態にもかかわらず。
「シルヴァーナ。貴様は侯爵家の権力を盾に、男爵令嬢であるミナを……」
「やった。やった! これでもう私は自由! いえ、王子に婚約破棄された私は、かなりの傷物! それじゃ、お嫁の貰い手も無いですわよね? そうですわよね、お父さま?」
誰でも見惚れる笑みを浮かべる彼女を前に、父と呼ばれた宰相は口元から魂的なものを出していた。
もう、あのおバカ《第一王子》のおかげで、色んな物が台無しだ。
『白銀のシルヴァーナ』
それは背まで伸びる銀髪に、返り血を受けぬほど素早く魔物を狩る、軍部で呼ばれる勇者の称号。
『緋色のシルヴァーナ』
それは緋色の瞳で、全てを見通すと言われるほどの賢者に送られる、魔術師教会で送られる称号。
『月下のシルヴァーナ』
それは月夜にだけ踊ると言われる女神と比喩した、社交界での称号。
一つでも持っていれば、末代まで誇れると言われる称号を、彼女は三つも持っていた。
ああ。
もう一つだけ持ってた。
ただ、それは非常に、僕にとっても彼女にとっても不名誉な称号なのだが……。
「あ! アルゥゥゥゥゥ! これでやっと私たち、正式に夫婦になれますわ!」
「うん。それムリ。なんたって僕たちは……」
マナー違反にならない程度の早足で向かってくる彼女に、僕は何度言ったか分からない言葉を盛大なため息と供に吐き出す。
「血のつながった姉弟なんですよ!」
そう。
最後の不名誉極まる彼女の称号は。
『弟狂いのシルヴァーナ』なのだから…………。
「え? なにがダメなのです?」
「なにが? ってこの国、いや、どの国でも血を分けた姉弟が結婚していいって法律はありません!」
「それでは、結婚できそうな未知の大陸ある教会にレッツらゴーですわ!」
「おい!」
「いや行かないから! 僕はこの国から出る気ないですから!」
「なぜですのアル! 小さいころは私の後を付いて回って『大きくなったら姉上と結婚する! どこまでも、いつまでも一緒だよ!』と言っていたあなたが⁉」
「それ小さいころな。そういう小さいころの話って、精神ゴリゴリ削られるんでしない方向でお願いします」
「ええ!? アルのあんなことやこんなこと。そんなことも言っていけないのですか?」
「はい。ほんと、何言うか分からんけど、経験上止めて下さい!」
「なあ……」
「あら? 私の言いたいことが分かるなんて、長年連れ添った夫婦みたいですわね。やはり私たち……」
「姉弟だから! 身内だから分かることだから!」
「いえ、それでも私は、あなたを……」
「いいかげん。俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!」
姉上の言葉を遮ったのは、存在自体を無視され続けていた王子様だった。
金髪碧眼の、整った顔を怒りに歪める王子。
名前? まあ思い出そうと思えば思い出せるけど、別にいいかな?
姉上との婚約を破棄した、たかが王族の息子の一匹なんぞ、近日中に皇位継承権を剥奪。
もしかしたら国外追放もありえる一般人以下の名など、覚えて無くても不敬じゃないだろ?
それよりなにより、問題は発言を遮られた姉上の心情だ。
「あら? 私の言葉を遮るなんて、なんて無粋なことをする人がいるのかしら?」
「王子である俺の言葉は遮られまくってるがな!」
不機嫌そうに言葉を荒らげる王子に、姉上は笑っているが緋色の瞳は不機嫌を隠してない。
(ああ。王子終わったな)
この場全員の心の声が聞こえた気がした。
「ふん、たかが侯爵令嬢ごときが、すでに王妃気取りか?」
空気が読めないバカ王子は、それでも得意げに言葉を続けるが、
「あらあら。ドラゴン一匹も討伐できない、胸をはれる実績も何も無い、王位第一候補止まりの王子様が、どんな理由で威張っていらっしゃるのでしょう?」
物凄く良い笑顔の姉上と対照に、バカ王子の顔が歪む。
「オルテガ! こいつを拘束し、俺の元に跪かせろ!」
ダンダンと子供のように地団太を踏むバカ王子は、ミナとかいう男爵令嬢? だと思う少女を取り巻いていた一人。
ひときわ体の大きい騎士団団長の息子、オルテガに指示を出した。
勢いで書いたけど、やはりブクマや評価は欲しいと思うわがままな作者に、
どうか皆さん、愛の手を!