現実の話もあるよっていう三話
「あれまー」
初プレイしたばっかなのに初プレイのスポーン地点にすぐ飛ばされるとか才能だなぁ……。
遠い目をしながらあたりを見渡す。
先程はよく見ていなかったが、リスポーン地点は、噴水だ。
割と大きめの噴水で、公園にありそうなそれは、少しこのビル街には不釣り合いに見える。
そんな噴水を見ながらため息をつき、俺はメニューを開き、ログアウトを押した。
『諦めと休憩は一見似ている』
現実に戻ってきた俺は、ダイブギアを外し、体の異常がないか確かめる。
異常はない。
まぁあったら大変なんだけど……。
そこで俺はおもむろに時間を見る
「知ってたけどすげーよ、これはほんと……」
思わず声に出てしまうくらいに驚いた。
初めてのプレイで2時間プレイしたが、現実では40分しか経っていない。
つまり、ゲーム内の120分は、現実世界では40分ということになる。
流石最高峰の人気のゲーム……と思いながら、俺はリビングに向かう。
もうすぐ夕暮れが見えるであろう空模様を眺めながら、冷蔵庫を開け、麦茶を取り出した。
「それにしても、デスペナがねぇ……」
俺がクエストを失敗してすぐにログアウトしたのは、何も疲れた、とかクソゲーだ、なんて理由ではない。
【クエスター】のクエスト失敗によるペナルティは、一定時間のほとんどの機能制限だ。
といっても俺は最初意味がわからなかったので調べてみると、
まずはクエストの受注の禁止……ゲームの売りができない。
次に買い物の禁止……準備ができない。
特定エリア外への外出。
現代世界……ゲーム内では【ホール】と呼ばれている場所は、クエストだけでなく、様々なミニゲームを遊べたりできるが、できない。
詳しく言うともっとあるのだが、それほどに制限が多い。
というかほとんどゲーム出来ない、と言っても差し支えないだろう。
できることと言えば、制限エリア内でのおしゃべりくらいだ。
そして、それがゲーム世界で24時間。
つまり、現実での8時間。
「なーんでそんなペナルティ大きいんですかねぇ」
高校生という貧乏人にはこのゲームを買うだけでお金が溶けるんですよ、と麦茶を飲みながらテレビをつけた。
あ、ちなみに課金によってそれは短縮できるらしい。
やっぱ世の中金だね。
時間的にも明日にならないとプレイできない感じなので、今日の【クエスター】は諦める。
「あ………………」
そこで、とあることを思いついた。
いやぁ、でもなぁ……。
さっきやられたのは、単純に数が増えたことによってできた管理ミスによる一撃をもらって、そのまま連鎖的に突進されまくって、というものだった。
つまり何が言いたいかというと、わりと不完全燃焼、ということだ。
ゲームで上がったテンションがまだ胸に残っている俺は、よろよろとリビングから庭に出る。
『はっはっは、やられたのぉ』
「うるさい」
そこで聞こえる声…………はない。
この声は、あくまで俺の妄想だ。
俺の作りだしたものであり、ただの幻想。
『久しいと思ったら、なんだその顔は』
そこで不意に声をかけられる。
…………いやぁ、自分のことながら、気持ち悪いよね。
誰も居ないはずのそこに、
軍服姿の、
白い髭を蓄えた、
威圧感の半端ないじいちゃんがいるように見えるなんて。
『ほっほ、そんな想いとはもう決別したんじゃないか？』
「勝手に心を読まないでくれますか」
というか、俺の心の中の人だから、読む読まないとかないけど。
『とりあえず』
いつもより若干威圧感大きめのじいちゃんの体重移動を確認した。
そして、
『そんな面をされたら楽しみたくなるじゃろうが』
いつの間にか額に拳銃を突きつけられていた。
「なんだよじいちゃん……」
『だからそんな顔されたら』
俺は腰からモデルガンを引き抜き、目の前の爺に向けようとするが、
『手前の妄想だろうがなんだろうが、戦いたくなるのが世の常、じゃろ？』
じいちゃんは身軽にバク転をし、俺のモデルガンの射線を躱す。
踏み込み。
あくまで俺は実戦経験なんてない普通の人間なので、美しい技は見せれない。
銃を持っていない方の腕で最短距離で殴りにいく。
『鈍ったの』
「うるさいよっ！」
避けられる。
このじいちゃんは、俺の前世の記憶の持ち主。
あ、別によくある転生物みたいに意識毎来ている、なんてものではない。
あくまで俺の妄想だ。
『お主、なんだか渋々じゃな』
「はっ？！」
攻撃しているが、頭の中では攻撃は弾かれている。
拳はいなされ、
蹴りを繰り出せば次の瞬間転がされている。
叶わない。
それで、よくよく考えたら、普通の人でも己との対話とかできるから、その上位互換的なやつかな、と結論づけた。
だからこのじいちゃんは、俺とじいちゃんの記憶にないことは知らないし、本当にその反応をするかは定かではない。
ただ、俺の妄想の具現化。
だけど、この妄想には色々助けられた。
『お主、まずは鏡で自分の顔を見たらどうじゃ？』
「なんでだよっ」
『お主、笑っておるぞ』
俺は、そこで拳銃を額に突きつけられ、気づいた。
あ、楽しいわ。
理由はまだわからないけど、確かに楽しいわ。
『儂はお主じゃ』
「確かに」
『だから今、儂も楽しいと感じておる』
このじいちゃんには何回も助けられた。
そんなじいちゃんとは、もうさよならしたはずなのに。
「ありがと」
そう言った頃には、じいちゃんはいなくなっていた。
俺は突如現れて、消えたじいちゃんのことを考え、頭を掻き、
「明日学校だっ…………」
宿題をやっていないのを思い出した。
