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別に主人公がチートじゃない二話

 降り立ったのは、教会。


 中の様子からして、教会であろう内装に見とれていると、


「すいません……」


 声をかけられる。

 俺が急いで振り向くと、そこには正に中世のシスター、という感じの人がいた。


 ここは中世なのね……。


 俺は苦笑いを押し殺し、愛想笑いを浮かべながら、


「クエストを達成しに来ました」


 このゲーム、クエストを受ける場所は現代だが、クエストは平行世界から受け付けているため、様々な世界線に行けるという設定なのである。


 いちいち広大な世界を作ってみんな一斉にプレイすると大変なので、こうやってみんながそれぞれの平行世界にワープして、クエストを完遂するという設定らしい。


「あぁ、ならこちらの方へ……」


 俺はシスターに案内されるまま、教会を出る。


 小さめの教会だったことに外に出てから気づきながらも、シスターについていく。


 道中、ウィンドウを操作し、支給品を受け取っていく。


 そこで、一人で受けるにしては支給品の量が多いな、と思いながらも、そこに疑問は覚えず、シスターは立ち止まった。


「ここが村長の家でございます」


 シスターが数回ノックすると、中からいかにも村長、といった顔つきのじいさんが現れる。


 中々の髭だな、と俺は感心しながら、村長に言われるがままに家に入る。


「それでは、今回のクエストの内容を確認致しまする」


 そして始まったのは、俺の予想を遥かに上回るクエスト内容。


 村の男性じゃ膂力で叶わないフォレストボアという魔物を、20体も討伐しないといけないそうだ。


 俺は内心冷や汗ダラダラだが、表面上は至って冷静に話を聞いている。


「それで、今回はお一人なのですか?」

「え、まぁ……」

「……………………ほっほっほ、それはさぞかし腕にご自慢があるそうですな」


 俺はその村長の高笑いに、さらに冷や汗が止まらない。


 もしかしなくても……これ多人数用のクエスト?


 俺は今すぐにでもこのクエストを中断したい意志に駆られる。


 しかし村長の高笑いに、シスターの微笑みは、それを許すような光景ではなかった。


 そうして俺は、村から歩いて5分程度の所にある森へと、足を進めることになった。










『勇気は、恐怖と近い』











 森の前まで着いた俺は、最終確認を行う。


 まず、俺の武器。


 チュートリアルの時にもらった、【初心者用の拳銃】。

 絶対壊れない代わりに、ほぼほぼ攻撃力はない。

 スライドアクション式の、セミオートで、2丁持っている。


 しかし、弾丸は消耗品なので、自前か支給品で用意するしかない。


 防具は、インナー(最低限の肌を隠すもの)に、現代的なTシャツとチノパン。

 戦場とゲーセンを間違えたのかと突っ込まれるくらいのふざけようだ。


 それと、支給品の回復薬と、スタミナ剤。

 これらはかなりの数があって、1人で使う分には余してしまいそうだ。


 ちなみに、【クエスター】内での死は一回でもアウトだ。


 クエストの完了が失敗になってしまう。


 多人数の場合は、蘇生の余地があるが、ソロプレイだとそんな余地はなく、死んだ=クエスト失敗。


 そんな感じに装備の確認を終えると、タイミングを見計らったかのように、森の奥からイノシシが出てくる。


 視界にはイノシシの上に、【フォレストボア】と表示されている。


 一応、視認できるのは8匹……。


 うち4匹は見つからない位置にいるけど、不自然な木の葉っぱで確認出来る。


「厳しくない?」


 拳銃を右手に一丁構える。

 支給品の弾数と装備の貧弱さを考えると、二丁目は予備として持っておいた方がいいという判断だ。


 基本的には、ボクサーのファイティングポーズ。

 半身になって、拳銃の持っていない方の拳を前に出す。


 正直、クエストを今すぐ中断したいところだけど、そんなことをすれば俺の前世のあの爺ちゃんは、きっと怒るだろう。


 とりあえず、やれるだけやってみようという感情で、俺は頑張ってみることにする。



 そうして、しばらく睨み合いが続いたあと、


 フォレストボアは突進してくる。



 まずは1匹。


 様子見しているフォレストボアに隙を見せる訳にも行かず、そちらにも注意を払いながら、最低限の動きで突進を避ける。


 バンッ


 すれ違いざま、裏拳と拳銃を一発。


 横目でちらりとHPを確認すると、20分の1くらい減ってた…………というか減っていると思わないとやってられない。


 後ろに一匹、前に七匹。


 こっから連携でも取ってくるか? と考えていたが、そんなことは無く、


 そうして始まったのは、フォレストボアの突進祭り。


 いくら前世の記憶があろうと、俺は少し鍛えたくらいの普通の少年で、一気に何匹もの突進を回避することは出来ず、無駄に動き回って避けまくる。


 連続での行動回数によって減っていくスタミナをスタミナ剤で少しずつ回復しながら、拳銃でちまちまと削っていく。


「無理ゲーなんだよなぁ……」


 目の前にいるフォレストボアの数は、既に三匹。


 結構減らした………が、それは俺がやったのではない。


 フォレストボアの突進祭りの最中、フォレストボア同士を衝突させたらかなりHPが減ったのを確認して、頑張って同士討ちさせていたのだ。


 当然だが、数が減る度にそのチャンスは無くなっていく。


 残った三体のフォレストボアは、一匹だけが三分の二体力を残しているだけで、ほかの二匹は半分以上体力が削れている。


 これをあとは自力で削るしかない。


 俺は残弾が十分にあることを確認して、今一度ファイティングポーズをとる。




 汚い鳴き声とともに突っ込んでくるフォレストボア。


 防御という選択肢は既に頭の中から消えているため、回避を選択する。


 サイドステップで回避。


 銃弾を三発。


 2発外したみたいだ。


 左上のログを流し見しながら、次の突進を確認。


 後ろに一匹いる状況を作らないため、三匹が見える位置に移動する。


 だがその前に突進してきたフォレストボアがこちらに衝突しそうになる。


「ホッ!」


 威勢のいい声とともにフォレストボアを跳び箱代わりにして飛んでみる。


 攻撃はできなかったが躱すことは出来た。


三匹目は着地の瞬間を狙っているのかすぐに来たが、


「甘いよ」


 着地の瞬間に転がることによって躱しながら、二発。


 今度は当たった。







 別に三体になってからは苦もなく、戦闘を始めてから一時間という果てしない時間を終え、俺は三体を倒していた。


「………………」


 無言で草原に倒れ込み、深呼吸をする。


 ソロプレイきつい。


 クエストの選択ミスった。


 武器と防具買えばよかった。


 クソゲーだろ……。


 いろんな感情が入り交じって、俺はため息をついた。


 だが、自然と俺の口角は上がって、笑顔を作っていた。



 辛かったけど、楽しかった。



 こうして、俺の初クエストは、華々しく攻略して終わ………………



「待って半分も狩ってなくない?」



 その瞬間に出た冷や汗といえば、滝のようと表現するにふさわしいものであろう。


 錆び付いた機械のように森の方に顔を向けると、そこにいたのは、


【フォレストボア×12】


 ………………まぁ、俺にとってかかれば、こんな数が少し増えたくらいでどうってことはない。


 立ち上がり、銃を構えた俺は、フォレストボアに立ち向かい、




 いや当然負けたんだけどね。




 数多いし、リーダー格の奴がいたし、銃弾切れたし、無理っしょ。


 クエスト失敗を確認した俺は、帰還を選択して、あの現代の街へとワープしたのであった。

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