十一話は仲間になりたそうな目でこちらを見ている
「あ」
俺は後悔した。
カナリアちゃんが吹っ飛んだことに、俺は後悔した。
吹っ飛んでいくカナリアちゃん。
土煙を上げながら地面を引きずるカナリアちゃん。
地面との接触で豪快に土煙を上げるカナリアちゃん。
幼女にしてしまった愚行の数々と共に降り積もる罪悪感に、俺は額を押さえる。
収まる土煙。
HPは常に見えるから、五分の一しか減っていないのが分かる。
だから無事なのは分かるんだが、それで罪悪感が薄くなる訳はなく、
「こっの…………」
静かにしていたから、しっかりと聞こえたカナリアちゃんの声。
そんな一言で、恐ろしいと俺に感じさせる辺り、末恐ろしい子だ。
俺はため息をつき、気を張る。
集中して、油断しないようにする。
「ふざけんじゃないわよ!」
目にも止まらぬ速度。
普通ならしっかりと反応することは出来ないだろう。
そう、普通なら。
「ふべしばっ!」
だからこそ、俺は反応出来ずに吹っ飛ばされる。
そうして始まった、戦闘という名の蹂躙劇。
石斧で叩きつけられ、石槍で突き刺され、紐に括りつけられた石で遠距離から攻撃され、石を投げつけられた。
やけに攻撃方法が原始人すぎないかと思いながらも、俺は吹っ飛ばされ続け、
「………………」
俺は石斧の懇親の一撃を頭に喰らい、意識は暗転した。
『気を張るな、気を張り巡らせるな、常に普通に、常に自然であれ』
「おい、目覚めろ」
俺はジカさんの声で目が覚める。
特に寝ているわけでもなく、視界が暗転しただけなので、起きようとすれば起きれるので、目を開けると、
「カナリア、謝らないと」
「いや、私は……」
「これは流石にやり過ぎじゃないか?」
「そ、そんなことない……と思う……」
「こいつこのゲーム初めて三日目だぞ?」
「う、嘘っ?!」
ジカさんとカナリアちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
ジカさんの発言に、目を丸くしたカナリアちゃんがこちらを見る。
俺はジカさんの話していることを肯定するように、頷く。
するとカナリアちゃんは、しばらく俺から目を逸らして口を噤んでいると思ったら、俺の方を見て、
「ごめんなさい……」
消え入りそうな声でそう言った。
「うん、じゃあ許す!」
「へ?」
俺は勢い良くカナリアちゃんにそう言い放ち、起き上がる。
カナリアちゃんは、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。
それに対して、ジカさんは、それ見た事かという顔をしている。
「あ、あんなにボコボコにされて、イラッとしないの?」
「俺は事前に君が強いの察してたから、予想の範囲内」
「……じ、じゃあなんであなたは勝負を受けたの?」
「ジカさんとは今後も仲良くしたいから」
「おいおい、そんな言い方しないでくれよ。
照れるじゃないか」
ジカさんが自身の禿頭を撫であげながら、頬を染めあげるが、
「気持ち悪…………気持ち悪いですね、ジカさん」
「言い直せてないぞ、諏訪」
俺の言葉に苦笑いをするジカさん。
そんな俺とジカさんとのやり取りを、アホを見るような目で見るカナリアちゃん。
「変な人なの?」
「いやいや、普通に、ゲームを楽しんでいるプレイヤーだよ」
「なら……」
「あ、それと」
俺は立ち上がりながら、
「楽しいから、勝負したんだよ」
自分が笑っていることに気づいた。
「それじゃ、どこかでゆっくりしようか」
ジカさんがウィンドウを操作しながら、話しかけてくる。
カナリアちゃんは、どこか納得いかないような顔をして、こちらを見てくるが、俺はそれを無視して、
「なんも知らないんでおすすめ連れてってください」
『"楽しい"と"楽"の違いを自覚せよ』
「それで、色々と聞きたいことはあるだろ?」
場所は変わって、在り来りなカフェに来た。
服装的には、
俺が初期装備であるTシャツとチノパン。
ジカさんが、今にもはち切れそうなスーツ姿。
カナリアちゃんは、先程の皮のライトアーマーから代わり、ワンピースを着ている。
正直、現代的な店の内装にかなり適してはいるんだが、周りの客の中には、ガッツリ中世的な装備のやつもいるので、ここがゲームの中だと再認識させられる。
「カナリアちゃん、本当に拐ってきた子じゃないですよね?」
「違うよ……」
「…………違うって言ってるのに……」
俺のストレートな疑問は、二人にとっては違和感があったらしく、不満そうに返された。
「いやいや、このゲーム、身長体重変更できないから、なんか、ね」
「どーせ私は背が小ちゃいですよ……」
「…………まぁ、俺は人よりでかいからな」
そんなことより、とジカさんは話を切って、
「俺らのしっかりとした自己紹介をしていなかったから、そっちの方が先だな」
その言葉に、隣のカナリアちゃんはも背をピンと伸ばす。
ちなみに、四人がけのテーブル席で、俺の前に二人が並んでいる状況なので、俺的にはなんか三者面談している気持ちになってくる。
「俺はジカ。
オフィスthe武器の十階、【かじのじか】店のオーナーだ。
有名なところで行くと、【虚】に武器提供をしたこともある」
「私はカナリア。
討伐パーティ【女傑衆】序列三位よ。
専門は対人戦」
「…………?」
俺は2人のその言葉にはてなマークを頭の上に浮かべる。
「…………あら?」
「…………反応無いわね」
俺は少し自慢げにしている二人に、おずおずと手を挙げて、
「それって、すごいの?」
目の前の2人が揃って額を抑えたのは、なんか壮観だった。
「まず、俺からだ。
俺は近代系の鍛冶プレイヤーの中で、十本の指に入るプレイヤーだ」
「自分で言ってて恥ずかしくないですか?」
「茶化すな。
それで、一番金がかかる貸店舗の一つである、オフィスthe武器で店を借りてる。
…………つまり、それくらい稼いでいて、凄い鍛冶プレイヤー、ってことだ」
へー、と俺は月並みな言葉を発しながら、カナリアちゃんの方に視線を向ける。
「わ、私は、パーティランクで唯一の女性専用パーティ【女傑衆】に所属しているわ」
「あ、外部のサイト見ると、【クエスター】のいろんなランキングが見れるぞ」
「そこで、激戦のパーティランキング部門で、不動の3位を維持しているのよ」
カナリアちゃんの話にジカさんが付け加える。
そんなランキングサイトあるのか。
俺は後で見て見よ、と心の中にうっすらととどめておきながら、話を促す。
「それで、【女傑衆】は基本的に少数精鋭の、序列パーティ。
その中で私は三位の実力を持ってるってこと」
「つまりすごくて強い、と」
「…………間違ってはいないから、訂正しないわ」
不服そうな表情のカナリアちゃんに、ジカさんは俺に向けて苦笑いしながら、
「それで、今回はルーキープレイヤーに対して、ほぼトッププレイヤーであるカナリアが、ボコボコにしてすまない、って話だ」
「ぼ、ボコボコにしたって言っても、こいつは私に一発食らわせたのよ?!」
「それは油断していたからだろう?」
「そうじゃないわよ!」
可愛らしくぷりぷりと怒っているカナリアちゃんに、ジカさんは宥めるように接する。
「だって、あいつは普通にお前に撃っていたぞ?」
「は?」
「いや、諏訪は、お前に対して銃を特に変な事もせずに撃っていたぞ」
バッ、とカナリアちゃんはこちらを見る。
「いやー、カナリアちゃんがいきなり来るもんだから、驚いて撃っちゃったんだよ」
疑わしいと瞳に書いているくらいのジト目でこちらを見てくる。
俺は苦笑いで対応すると、カナリアちゃんは、
「私、こいつと一緒に今回のイベントに出る」
「はぁ?!?!」
どうやら、仲間になりたそうにしているようでした。
…………今回は冗談じゃないすまないらしい……。




