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4-4 ウーパールーパーとアカムシと水槽【番外編】

 指輪とこの島は繋がっていて例え下界でも居場所を捉えることができるはずなのに、どこにもない。

 数日間、ディルも弟子を探していた。


「姫巫女様……」


 夜、宿で休憩していると、少女が落ちてきた。


「師匠」


 マナの使い方を教えた愛弟子だ。まさか最高値をたたき出し姫巫女に選定されるなんて思っていなかった。 だが、彼女が選定された直後に、彼女の力量不足に不安を訴える一派が現れた。 


 数日振りに姿を確認した弟子の首には白い布が巻かれていた。

 

「指輪は?」


 笑みに影がさす。一瞬さびしそうな顔をした少女。


「……ですか」


 何か口のなかでもごもご言う。涙が頬を伝う。


「ん?」


「弟子よりも指輪ですか?」


「そうだ。一刻も早く指輪を」


 指輪が見つかるまで王はあきらめないだろう。

 ぼろぼろ泣き出してしまった。

 こうなったら手が付けられない。問答をしている時間が惜しい。

 まずい粥を彼女の目の前に出す。今夜の残りで王宮の贅沢な食事とは比べ物にならないほど粗末なものだ。

 

「僕は行くところがある」


 気配をたどる。 彼女からつながる細い線だ。その先にあの指輪はある。



 無事に指輪を見つけられた。代わりにマナをほとんど失ったが。

 運よく王宮近くに『道』が開いたので、そのまま王宮に入る。


「指輪を見つけまして」


「死体は?」


「吸い尽くされて消滅したようです」


 美しい水色の石は強く光り輝いている。一目で元姫巫女の生命力(マナ)を一滴残らず吸い尽くしたのだとわかる。実際はあの竜神のマナだろうが。


「よく発見した」


 黒髪の新たな姫巫女が目の前でうれしそうにその指輪をはめる。

 浮遊石の指輪はじょじょに命を吸い続ける。王妃は大抵五十を超えては生きられない。


「すっかりマナが消え失せたようだが」


「指輪の探索にマナをかなり使いました。もともと減衰期の入っていたので、浮遊石に命まで吸われる前に、職を辞したいと思います」


 ディルはひざをつき深々と頭を下げた。


「巫女姫たちを育成した手腕、この後も教師として残ってはどうかね?」


「申し訳ありませんが」



 浮遊島の端に立つ。朝日だ。


 嘘がばれたらおそらく殺されるだろう。次の補給日にどこかの地上の町へ落ちよう。 

 ただ、彼女は門を無事に超えられないかもしれない。あらかじめ外郭部を確認し逃げ道を調べる。


「シリン。あまり外には」


 シリンはわずかな魔力を使って麻袋を浮かせている。


「竜神様がマナを残してくださいました」


 シリンは指輪をはめたと同時に指輪に登録されていた。

 登録されている以上は例え指を切り落としたとしても、マナは吸われ続ける。


 あのまま、あの世界にとどまっていたら、生きていたとしてもマナを吸われ続け、魔術が使えなくなっていただろう。 つながりが薄くなったところで、新たな契約者に渡されたので、今後はシリンがマナを吸われることはないはずだ。


「行きましょう」


 ぐいっと師匠の腕に自分の腕を絡めて、彼女は島から飛び降りた。



「あーあ、つまんない。まさか二人で逃亡エンドか」


 養女エンド・娘を助けるためにヒロインが殺される・三人で逃亡・娘の母エンド等あったが、娘と二人だけで逃亡なんてエンドはなかったはずだ。


「探しますか?」


 宰相の息子が問う。


「うーん。ハーレムは見たかったけれどまあ、石は手に入ったし欲張りすぎも良くないわ」


 ターコイズに似た石の指輪が嵌った薬指をうっとり眺めて瑠璃子は微笑んだ。



 ディルとシリンが堕ちた先は小さな隊商宿の跡地だった。


「何もない。もう少し町に近いところに降りれれば良かったのだが」


「砂漠に見えますが、水気は確かにあります。良き地です」


 そういうと麻袋からデーツの種を一掴み出す。


 神舞を始める。腰にかけたしゃらしゃらと鳴り、砂が小さく盛り上がり水が小さく噴出した。


 砂の上に転がっている種に水が触れると芽が生えた。音がシャラシャラ鳴り続ける。


 よき地のようだ。ディルは持ってきたデーツの種の半分を砂の上にばら撒いた。


 踊りが半ばを過ぎたころ、ふと影がさした。

 影のほうを振り仰ぐと……



神秘的な白の蛇体。三つのカーネリアンの瞳。珊瑚のような角。


小さな水神で十分だったのに。まさか小山ほどの大きさの神がくるなんて。


―良きにおいだ―


 顔を近づけてにおいを嗅ぐ。


 まさか、食べる気ではないだろうか。

 それとも古の御伽噺のように妻にするわけではないだろう。 


―どこで遭った?―


「あの私どもはこの地に水を引きたくて……」


 ポロリと額から第三の瞳が転げ落ちた。手の平大のカーネリアンだ。

 カーネリアンからはじわじわと水が染み出してくる。


―契約の証だ。


 その一言で盛大な水柱が上がった。


 デーツの種は水柱の力でボールのように、または綿毛のように遠くへ飛ばされ、瞬く間に成長し、この隊商宿への道しるべになった。



 この後、ここは堕ち人の町『サクラカワ』と呼ばれ、百年後、落ちた浮遊島の人々を受け入れたのをきっかけに町は大きく発展することになる。




 血まみれの少女やターバンの男が訪問して半月後、夜。

『喫茶 桜川』の店主は妙なきしみを聞いて目を開けた。階下に降りて半分寝ぼけたまま喫茶店を覗きこむ。


 みっちりうねうね。暗い喫茶店の中にくねくね曲がったでかいウインナーみたいなものが蠢いている。


「変な夢だな」


 どら子がくぴくぴ可愛らしい鳴き声をあげる。


―ここは我の巣だ。帰れ


「なあに」

「いや変な音がしたから――」


 リーフがうーと眠そうに唸りながら明かりをつけた。


 きょろきょろあたりを見回す。

 どら子がぴゅいっと鳴き声を上げた。どら子の視線の先を見ると……


「いやぁあ!?」


 なんか白いぬるっとしたものが床を這っている。

 どら子よりか少し小さめの身体。左右に角みたいなピンクのひだがある。


 それを店主は少し身をかがめじーと見つめながらうーんと唸る。


「これ……どっかで見たことあるんだよな……るう、るー、ぱ。ああ、ウーパールーパーだ」


「何でもいいから捨ててきて!」


―我はそのドラゴンを嫁に


―去れ


「えー、かわいいじゃないか。」


 店主はちょっときらきらした目でウーパールーパー(仮)を見るが、妻は涙目でそれを視界に入れようとさえしない。


「ぜんぜん可愛くない!蛇と蛙は嫌いなのよ」


―我は……――


 リーフはゴッキーでも平気で退治できるのににょろにょろぬめぬめしたものが駄目なのだ。


「ほら、どっちかというと足が生えたおたまじゃくしだぞ」

「おたまじゃくしも!ほんとうにどっかに捨ててよ」

「どら子はぜんぜん大丈夫じゃないか」


――我……


「どら子はお肌がすべすべしているからいいの!」


 リーフはついにこらえ切れずにわんわん泣き出してしまった。


 店主は、はぁとため息をつき、新聞紙の上に乗せて店の外へ出、未練がましくプランターの中にウーパールーパーを放した。

 外に放り出した途端、車にでも轢かれでもしたら寝覚めが悪い。


「悪いけれどお前を飼えないんだ」


――なっ。




三十分後。


ご近所は大騒ぎになっていた。


 ピーポーパーポーと音を鳴らすパトカー。水道局の人たちがせわしなく行きかう。


 夜の住宅街に上がる水柱。


「水道管破裂だと。一応上水管らしい」


 季節は秋口に入る前といったところであり、そもそも冬場でも水道管が凍結するような地域ではない。


「えーこれ水代どうなるの?」


 背後では、近所の人が水道局の人に「絶対払わないからね!」って怒鳴っている。


「で、各戸の蛇口からもどぼどぼ出てるってどういうこと?」


 それぞれの家庭に警察官と水道局の人が、各戸の元栓を個別に締めに回っている。

 蛇口はしっかり閉めているのに水がどぼどぼ出ているのだ。元栓を締めたらなんとか止まるらしい。


 報道ヘリが飛んだり、マスコミが照明をがんがん点けていたり、いつもは静かな住宅街が、一気に騒がしくなった。

  規制線が張られた向こう側で野次馬が携帯片手に写真を取っているのを見ればさすがにいらっとする。


「明日は朝から点検だと」


 事態の対処に当たっていた五味さんが一言告げてから、他の家のインターフォンを鳴らす。


―祟りじゃー


「祟り?」


―かんしゃくを起こしたともいう。早急に発見してアガメタテマツらないと続くぞ


「何……を?」 


 視界の端にバカにしたような顔のルーパールーパーがいた。

 目が合うとウーパールーパーはにやっと笑った。



――水槽はなるべく大きく。水はカルキ抜きをし一週間ごとに半分入れ替えること。食はアカムシを一日一回供えること。巣も欲しい。


「……」


「で、その水神様とやらはなんと言っているんだ」


「○辞苑でぺっしゃんこにして、ゴミ箱にぽいしたい。本当にこれ飼わないと駄目なの?」


――我も自分の巣にこんなの入れたくない。が、次は下水管をやると言っている


 がっくり。


「追い出せないの?」


―水のことに関してだけはこやつは我より強い。


「どら子はなんでも食べるし、手間もかからないのに……もー離婚する」

「するな」


 好みの食べ物はクリームソーダだが、基本人間の食べるものならなんでも食べる。 燃焼効率が人間の数倍良いらしく、ほとんど糞をしないし、しても店内ではなく、ちゃんとしつけた場所でする。


「アカムシってなんなん?」

「やっぱ捨てようよ」

「ペット愛護法にひっかかるんじゃないか」


 ある程度事後処理を終えた五味さんが、ペットボトルを飲みながら突っ込みを入れる。


「両生類って愛護法の対象内か?」

「勝手に入ってきたのよ~」


 散々議論した結果、結局リーフたちが折れて、ウーパールーパーを飼うことになった。



「じゃあ、あんたの名前はウパ男ね」


―すごく適当につけていないか?


 



ウパ男……水神様。注文が多い。

デーツ……ナツメヤシ


ウーパールーパー……一時期大ブームになったらしい。両生類。


アカムシ……ウーパールーパーの餌、らしい。(すみません。飼ったことないもので)


動物愛護法……両生類は対象外らしい。が、ペットは責任を持って飼いましょう。


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