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3-1 フランス人形とサンドウィッチと指輪

 フリルとレースの付いた全身ピンクのドレスに、それにあわせたボンネット。ピンク、白、水色の花飾り。くるくると美しく巻かれた蜜色の髪。胸元を飾る金鎖。

 フランス人形みたいな美少女がサンドイッチを食べながら眉をひそめた。


「はあ? ちょっとヒロインの本性がちら見えした途端、元婚約者と寄りを戻そうとするなんて、百年早いわ! くそ王子」


「女の子がくそって言ったらだめだと思うわ」


―最初の頃のお前も似たようなものだったぞ―


「ありがとうございます。とーっても参考になりましたわ」


 そう言ってフランス人形みたいな少女は、淑女の礼をすると、何の躊躇もなく左手の薬指に嵌っている指輪をテーブルに置いた。


「大事なものでしょ? ここにはたぶん二度と来れないわ。後悔しない?」


 ウエイトレスが、念を押す。

 それでもピンクのドレスを纏った美少女は婚約指輪を再びはめることはしなかった。



 対価は自由だ。

 迷っている者には対価をこちらから指定することもあるが、基本客の要らないものをもらう。

 大抵は指に嵌った小さな輪っかを捨てていく者が多い。



 ドラゴンは数年前、この世界に迷い込んだ。

 数日間この世界に滞在したら、また別の世界に行くつもりだった。

 だけれど、一番最初にたどり着いた場所はとても良い香りがして、居心地の良い場所だった。


 名前など無かったのだが、「どら子」と名づけられ、頼みもしないのに毎日決まった時間に食事が運ばれてきた。


  いつもどおりメロンクリームソーダを食べていたときのことである。


 「お前、変なもの好きだな。本当は金もらうんだぞ」


 金というものが人間たちの中でやり取りされているのは知っていた。

 これに見合った報酬が欲しいのだろう。


 ドラゴンはその男に(つがい)を与えた。


 世界に必要とされていない死ぬ運命のメスなら、どこからも文句が出ないだろう。


 文句は当のメスから出たのだが。 


 最初の番が怒ったのだ。良い相手を選んだつもりだったのに。

 だから、次の番を与えるとメスに告げた。

 もといた場所(せかい)に帰してやることもできると伝えたが、殺される予定の世界に戻るのはいやだったようで、彼女はここに残って男の番になった。 


 店主への新たな番をリーフスラシルは拒んだが、彼女は自分のような者をどうしようもなくなる前にここへ連れて来るように願った。


「私みたいな人間にも気づくチャンスがあってもいいと思うの」


―なら、我に仕えよ―


 魔素のほとんどないこの世界は本来の姿では無駄に力を消費してしまう(そもそも本来の姿ではこの建物には入りきらない)。かといって、小さい身体が使いやすいかというとそうでもない。それに、羽ばたこうとすると予想以上にエネルギー(まそ)を消費してしまう。

 日々のちょっとした不便を解消するために彼女を使うのだ。




「あの人形、サンドウィッチをどうやって食べていたんだ?」


「さあね」


「変なのばっか来るよな。そのうちドラゴンや妖精が来るんじゃないのか?」


「そうかもね」


 リーフは微笑みながら、美しい音の鳴る宝石箱にその小さな指輪を入れた。


 

 ドラゴンは頭をもたげて、飾り棚を見た。


 リーフスラシルの輪っかの横に「ふらんす人形」がつけていた小さな、ほんとうに小さな輪っかが加わったのだ。


 


本日のご令嬢……ピンクのもっさりしたドレスに身を包んだおフランスな感じのご令嬢。十代後半。


もう一人のご令嬢……本名リーフスラシル。 いろいろごたごたがあって『喫茶 桜川』の店主と結婚。現在はそれなりに幸せ。


ドラ子……店主はただのトビトカゲだと未だ信じている。



最初はフランス人形みたいな令嬢の予定だったのですが、先に出したゴスロリ令嬢とかぶってしまいそうだったので、急遽動く人形に。人形の国から来たのか、お嬢様(しゅじん)を心配した人形が相談に来たのか……。


リーフスラシル(ウエイトレス)の事情は、ドラゴン視点から見たらこんな感じだったというだけです。さすがにもうちょっと考えてから結婚しています。


次回の『喫茶 桜川』は『アラビア風』『魔術師』『杖』をお届けします。

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