2-1 平安風とウーロン茶と壺
※ウエイトレスさんの一人称です。
※今回、若干のグロ表現があります。
ぽーん。と柱時計が鳴った途端、世界は切り離された。
壷を抱えて髪を振り乱した白い着物の女性が唐突に現れたのだ。
女性は夫を見た途端、悲鳴を上げたので、夫には引っ込んでもらっている。
一応、狭い店内とはいえ、3メートル以上離れていたのに。
真昼間から髪を振り乱した白装束の女性なんて悲鳴を上げたいのはこちらだ。
「はー。一夫一妻制とは。一人だけ愛するとは随分現実離れした…… 家を絶やすつもりか?」
お茶を飲んで少し落ち着いた長い黒髪の女性に気分転換にといつも通り本を勧める。
夫が奥に引っ込んでいるのでウーロン茶しか出せていないのだが……
「まあ、それぞれのお国柄……世界柄ですからね」
「寵は更衣に移ってしまった」
白装束の女性はほろ苦い感じで美しい桜の絵が描かれている扇を広げて微笑んだ。
「もう、ぶっちゃけ取るもん取って離縁とかしたら? 」
「それは、無理な相談だな。だが、おいしい茶を飲んで少し気が晴れた」
「ウーロン茶しか出せませんで……」
―対価を。いらないものでいいぞ。
「いや、ウーロン茶でさすがにいただくのは……」
「東宮の頃に賜った檜扇です。もっとも本人は贈ったことも忘れているでしょうが」
美しい桜の絵が描かれた扇を渡された。
恋歌が書かれている。一応、どら子様の不思議なパワーで、崩し文字だろうがなんだろうが、意味だけは読み取れる。
桜はすぐ散ってしまうが、君という桜の花片は私の肩に何時までもとどまっているだろう的な。
まー、甘酸っぱい歌が……。
歩いているうちに花びら落ちて、別の花びらをくっつけたんだろうと突っ込みたくなる。
「それとこれも。代わりにこの巻物をいただけないだろうか」
壷である。梅干でも漬けているのか。
本はまた買えば済むが、勝手なことをするとどら子が怒る。
ちらりとどら子を見るがどら子はそしらぬ顔で毛づくろい……毛がないから羽づくろいか―をしていた。
少女小説を手にほろ苦い笑みを浮かべたまま、彼女は柱時計の鐘の音と共に霞のように消えてしまった。
◇
居間でちょっと期待を込めて夫と二人で壺のふたを開けた。
「うわぁ!」
「この壺最悪!」
表現するのもはばかられるような、なんかいっぱいえぐいものが入っていた。
―呪物だな。おいしそうだ。
いや、確かにいらないものでいいって言ったけれど、これはないんじゃなかろうか。
なんか、えぐいものと一緒に人の形にカットされた木の板が入っていた上、首部分がぽっきり折れていた。 しかもたぶん板に書かれていたのは「コウイ」さんのお名前だろう。
あまりに衝撃が強すぎて、後から気分が悪くなってきた。
壺を店の中でうっかりひっくり返していたら、大惨事だったろう。
「……この壷ソファーに置いてたよね」
「そうだったのか?」
夫と二人、全力でソファーを除菌しましたとも。
壷と人形はお世話になっている学者の知り合いが、「平安時代の本物~!!」とか狂喜乱舞して持っていった。
ごみを高値で引き取ってくれるんだから、ありがたいのはありがたいんだが……
ほんとお友達何人いるんだ。変態サイエンティスト。
本日のご令嬢?……平安ぽい世界から来た悪役新妻さん(実は母でもある)。呪いは(効果はほぼないが)見つかれば重い罪に問われる世界。二十代前半。お茶は平安時代には伝来していたみたいです(貴族メインで、一般への普及はもう少し後のようです)
学者……生物学者。リーフが現生人類と共通先祖を持ちながら現生人類から分化した種であることを調べた。お友達は100人いるらしい。一応、今後登場する予定。
ウエイトレスさんは日本在住5年くらい。
次回の『喫茶 桜川』は『フランス人形』『サンドウィッチ』『指輪』でお届けします。




