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7-5 リーフと記事と芋 【番外編】

 「って……」


 私寝てた?


 たっぷり二時間ほど経っていると思ったのに、一時間も経っていなかった。


―もともとあれ(・・)はどこでもない場所でいつでもない時間だ。ある意味夢と大して変わらない。あの夢魔は夢と仮定したのだ。


 夢だってわかっていたら、もっと寿司食べていたのに~。


 夫は突っ伏していて、なぜかレシートを握り締めている。確認するとしっかり寿司の代金は払われていた。


「減ってるやん」


―外は、現実だからな。


 「夢からどうやって電話したのよ」


 いつも、どうやって整合性をとっているんだろう。


 おなかがぐーぎゅるる、と鳴っている。


「減ったままやん」


 お昼がわりに五貫くらい食べた記憶があるのにお腹は空いている。


 ―中は夢だったからな


「なんて理不尽」


 おもわず歯軋りしてしまう。


「私が寿司屋(そと)でこっそり食べた二皿分は?」


 どら子をじろっとにらみつけた。


――お前の血肉となっているだろう。おそらく。


「どうするんだよ。これ」


 遅れて目覚めた夫が床に転がったままの弾丸を見てため息をついた。


 血まみれの弾丸なんて持っていたら、明らかにしょっ引かれる。


「こっそり捨ててしまう?」


「捨てて、誰かに見つかったらそれこそ騒動だ」


 お手洗いに流せばきっとバレナイ。いや、詰まったら嫌だし。

 日本の捜査技術は魔法みたいにすばらしいらしいから、海に捨ててもバレるかもしれない。

   

 ……仕方ない。困った時の友達……五味さんに連絡しよう。


 また「隠蔽とか……なんでもかんでも俺に押し付けるんじゃねぇ!」と叱られるだろうが。


 机にはもう一つ紙切れが置かれている。夫が書き取った住所や電話番号。

 夫が新聞紙の束の中から、数部取り出した。その中からすぐ目当ての記事を見つける。


「やっぱりな」


 夫は重いため息を付き、私は言葉もなくその短い記事を食い入るように見つめた。


 『高校生が死亡。軽傷一人』


 同校の女子生徒を助けようとしてはねられた。

 同じ市内の事故だったから、たまたま目に入ったのだ。


 たった半月前の記事だ。


 親御さんに連絡を取るのもはばかられる。


「亡くなった息子さんに会いましたって言ってもねぇ」


「新手のシュウキョウや霊感商法だと思われるのがオチだよな」


 息子さんのことを一言でも伝えたい、伝えなければという想いが胸の重石になる。

 

 だけれど、私たちが会ったのは幻みたいなもので、彼らにかける言葉は本当は何も持ち合わせてないのだ。



 その新聞を片付け、私たちは夢の中で出した鍋の残りと余った芋を温め直して、静かに食べた。


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