京ちゃんと俺
“愛してます、市原君”
“ありがと…。俺も……お前を愛してるよ”
“ずっと、一緒にいてくださいね”
“お前こそな”
俺とあかりは赤い糸をたどり、やっとここまで来た。
もう、俺たちは迷うことはないだろう。
互いを信じ、愛し、ずっとこの先もそれは変わらない。
深い‘愛情’その名の運命は、自分たちで切り開いてみせる。
何人にも邪魔はさせない。
あかりは俺のもの、俺はあかりのもの。
二人は離れることはない。
ずっと、守り合い続けてゆくんだ。
この先何があろうと、どんな試練が二人を待ち受けていようと。
どんな困難だって絶対乗り越えてみせる。
今、此処に誓おう。
永遠の………俺たちの深海よりも深い愛は、誰にも負けることはない。
負けはしない。
今この、運命のコングを打ち鳴らそう………―――
「ぶへっ」
歯の浮くような譫言の数々を述べたのは俺だと勘違いしないで欲しい、京祐である。
折角格好つけてナレーションをしたが、俺の見事なアッパーによって情けない終わり方をした。
「どこでそんなの覚えたんだよ、京ちゃん」
「ふっ……、ソラとアカリちゃんの様子を見てたら、ふと思いついたんでね。
俺、もしかしちゃったら将来ライターさんになれるんじゃねえ?ねえ?」
「アホ京ちゃんだね」
「何おうっ」
誰の情報だか何だか知らないが、昨日の放課後の一連は学校中で大変噂になっていた。
おかげで学校に来るのに一苦労したが(主に噂好きの女子たちのせいで)、まあなんとかやり過ごしている。
そんな俺だが、当のあかりはと言うと、実はまだ登校していない。
俺は比較的早く来る方なのでいなくても可笑しくはないのだが、そろそろ予鈴の鳴る時刻である。
「アカリちゃんが気になるご様子かな?え?
このっ、彼女なんか作りやがって。憎いぜこいつぶッ」
大して力を込めてないアッパーの連打。お調子者の京祐は「あははー」と笑っているので、それほど痛くはないだろう。
ちなみに言うと、噂を真っ先に嗅ぎ付けた京祐にだけはちゃんと事実を告げた。
こう見えて京祐は良い性格をしてくれている憎めない奴だから、多少のお気楽振りはナシとして、一応信頼している。
本音を言ってみたところ、普段何も言わない俺だからこそだろう、大いに喜んだ。
…今はふざけて冗談を言ったりしているが。
“ソラがとうとう本気で女に惚れ込んだかぁー…。よかったな!”
こいつの台詞は、さり気なく嬉しかったような気もする。
なんか、親身で考えてくれてたみたいだったし。
さておき。
俺は昨日、とんでもないことを口走った覚えがある…いや、正直忘れたいですけど。
“覚悟しとけよ!”
………何をだよ(笑)。
思わず自分自身でツッコミを入れてやりたい衝動に駆られる。
いやマジで。
それと、あの時のあの行動。
なんで自分から好意を見せるような事をしたんだか、未だに謎である。
人類の本能というのは末恐ろしいものですね、的な思考開始。
俺は取り返しのつかない恥?をかいたような気がして、いたたまれなくなっているのだが。
「いやぁ、それにしてもソラ、意外な方向に走ったね。
俺はてっきりお前のことだから、そんな状況冷たくあしらっちゃったのかと思いながら話聞いてたんだけど。
相当アカリちゃんが好きになっちゃったんだべ?」
え?え?このこのっ♪
とか良いながらこの男は、さも普通のように応答してくる。
俺ってやっぱ、そういうキャラ性を持っているんだろうか。
なんか、沈着冷静?とかいう、眼鏡キャラみたいな。
…いや、ごめんなさい自分で言って気色悪くなりました。
「京ちゃん。俺、なんか登校拒否したいかも」
「え!ホームシック!?I want to return my house!マミー、助けてぇ!!
………みたいな?」
「いや、それってホームシック違くない?てか俺マザコンじゃないっしょ」
「ぶは」
「いやいや“ぶは”じゃなくて」
「はは。…でも、ガチで噂広まってってるよな。
誰だよ、垂れ流してる奴。ソラ最近喧嘩してないだろ?」
「高校入ってからはキレイに手ぇ引いてるけどね」
俺・ソラは中学校時代、好き勝手やっている連中のうちの一人だった。
別段そういう類に憧れを抱いていたわけではなかったが、‘なんとなく’入っていた。
中学2年の時。
そういう年頃な所為だろう、理性は関係なく、否応なしに周りに流される。
馬鹿なことをしているとわかっていても、周りがやっているからやる。
そんなこんなで年上の暴走族グループに属していた。
中学卒業の近づいたある日、この京祐と共に意を決してグループを抜けたのは、俺なりの正義のつもりだったのだろう。
殴ってきた人間たちへの、少しの反省、とか。
とりあえず、それっきり関わっていない。
この1、2年何も起きていなかったんだ、今更恨みを買うこともないはずだ。
「まあ、何かあったらすぐ相談しろよ、ソーちゃん」
「ちゃん付け要らない。ありがと」
その時刻丁度に、廊下にチャイムが鳴り響いた。
机に足を乗せたまま、いつもあかりが座りに来る後ろの男子の席を見る。
『こいつ……今日欠席か?』
ふと、本鈴の鳴っているのを聞きながら、校庭を猛スピードで走っている黒い物体を見つけた。
『………何あれ、ボディーガードさん?黒服?熊?』
いや、違う。
黒く見えるのは残像だ。
アレが俊敏に駆けているだけだ!
見極めろ、俺!!
………見極めました。
………パンが見えました。
「……遅刻のお約束!?」
クールなキャラで通してきた俺が突然叫んだものだから、当然教室中の奴らは全員俺を見つめた。
だが俺はそんなことはどうでもよく、外の人影に視線を向け続ける。
あかりが、例によって、調理していない生(?)の食パンをくわえた状態で走っている。
堪えきれず笑ってしまう。
「ふっ」
隣の席にいる女子が、驚いたような顔で俺を見つめていた。
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