3日目になっての異変
「お前、本当物好きなんだな」
だんだんあかりの態度に慣れてきた俺は、3日目の下校前のHRで言ってやった。
やっぱりあかりは「市原君は物じゃないでしょう?」と言って微笑んだ。
『いや、そういう意味での答えが欲しいんじゃねえんだけど………』
こんな感じの会話しかしないが、なんだか生活が充実している気がする。
俺って前まで相当寂しい奴だったんじゃねえか?
そんな疑問すら抱けてくる。むしろ以前の俺に泣けてくる。
「………以上でHR終わるぞー。じゃあ、ちゃんと掃除して帰れよ!」
担任教師が教室から出て行くと、掃除や下校のために生徒が立ち上がった。
言うまでもなく俺も立ち上がり扉へ進む。
「あっ、待って!」
女声に呼び止められ肩に触れられたので、俺はあかりなのだと思って振り返った。
……ちなみに、以前の俺は女子との会話を拒んでいたから普通はシカトしていた……
だがそこに居たのは、正直苦手な長崎文音とその仲間二人だった。
『やべぇ、目ぇ合っちゃった』
女子嫌いな俺は、化粧が濃く香水の香りのきついそいつらとは関わりたくないので、そのままスルーして出て行こうといた。
この学校のそういう種族の女子たちと関わるとロクな事がないと、周りの男子を見て学んだ。
扉をくぐろうとしたが、文音はずかさず俺の肩を強く掴んだ。
「待ってよ空。話あるんだけど」
「俺はないんだけど。昼寝しなきゃいけないから離して?ついでに、軽々しく名前で呼ばないで」
いつものように冷たく言い放った。しかし、文音たちは「キャー!」と叫んで頬を染めたようだった。
『う…うぜえ……』
自分で言うのも憚れるが、俺は何気に女子に好かれてる方だと思う。
いや、ナルシストとか言う話じゃなくて。真面目に。
年上の友達に、合コンの女呼び込みに使われたりするし。
でも、そんな中には勿論俺の好みの女はいない。
俺が好きなのはこう………純情で、ふわふわしたオーラを放つ可愛らしい子であって。
正直、俺は冷徹な言葉しか口に出さないからそんな子とは釣り合わないとは思うが。
しかし決してこんな、いかにもな雰囲気の女子ではなくて。
…ていうか、お前ら顔近いんですけど。
女子の一人・椎橋柚木が俺に向かってまじまじと言った。
「空ってさー、最近あかりと仲良いよねー」
あかりは確か、文音たちと正反対の子たちのグループだったと思う。
ということは今から言われるのは、あいつに対しての皮肉か嫌味か何かなんだろう。
悪趣味だな、と呆れた眼差しで一瞥した。
ていうか、別段俺はあかりと仲良くしているつもりはないんだが。
「お前らには関係ねえし」
「つれないなぁっ、付き合ってるんじゃないの?」
柚木は、男子の間で人気な、自慢の大きな目をニヤつかせながら言った。
もう一人の女子・小野寺早紀乃は「え〜!?んなワケないでしょっ!釣り合わないって、顔的に!!」と高笑いした。
「やっぱ〜?しかもあいつ、今時あの眼鏡はないよねぇ!」
「そうそう。ていうかチビだし頭の中もお子サマだし。みんなに敬語使うとか、どこのマンガのキャラだっつーの!」
「やめてその話題出さないで!思い出すだけで笑えてくるから!」
しばらくそんな会話が続いたが、俺は段々腹が立ってきた。
耐えられなくなった俺は、行く手を阻んでいた早紀乃を軽く突き飛ばして早歩きで出て行った。
「痛ぁー!ちょっ、空!」
後ろから戸惑い混じりの怒声が聞こえ、すれ違う奴らに盗み見され、睨み付けながら結果的には大人しく引いてやったのだった。
なんなんだ、あいつらは。
わざわざ俺のところに来て、あいつの悪口だけ馬鹿デカい声で言いふらしやがって。
あいつ何もしてねえじゃねえか。
帰路についた俺は、そんな事を考えながら怒りで胸がいっぱいだった。
『…あいつだって』
文音たちとあかりの顔を思い浮かべ比較する。
文音たちの女子高生とは思えぬ化粧の濃さに吐き気がする。
俺的には、文音たちよりあかりの方がシンプルで好きだ。
…いや、変な意味の‘好き’じゃなく。
『確かに敬語キャラは珍種だけど、性格は良いヤツだし、眼鏡取ったら…』
…待て、俺。何考えてるんだ?その思考は停止しろ。
なんで一人で帰る時くらい自由な考え事をしないんだ。
俺は一人で頭を押さえながら歩いた。
周りから見たら相当危険な高校生だったことだろう。
そんな俺に、優しい声が降りかかった。
「市原君。何で頭抱えてるんですか?」
俺は、聞き覚えた声に、敢えて振り向かない。
振り向きたくなかったからじゃない。顔を見たくなかったんじゃない。
きっと、顔を見られたくなかったんだと思う。
日向あかり。
俺はどうもこいつに頭をやられてしまったらしい。
おそらく、お約束の出現はこれからになると思います。
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