『日向的やばい要素』を垣間見る
さぁ、どうする。
今の俺はちょいと危険な状態だ。
俺の目の前には、先ほどまで泣いていた文音。
そいつが立ち上がり、あろう事か俺にペティナイフの刃先を向けているのだ。
……おい、今の女子高生の間ではペティナイフが流行ってるんですかこの野郎。
俺はまだ死ねないぞ、未練たらたらだぜ。
ってゆうか何故に俺が恨まれるんでしょうか。
俺何もしてませんよね?うん。
あああ何か近づいて来てんですがどうしようか。
とか焦っている俺に、文音はもう一度言葉を投げかけた。
「ソラ……あたしが中2の時に告ったことは、覚えてるんだよね?」
はい来ましたそういうの。
“ソラ、あたし、あんたのこと好きなの!”
覚えているといえば、覚えていないこともない。
中2の時、まだグレていた俺は、さり気なく文音の告白を受けていた。
周りの女子に比べたら、そりゃあ文音は可愛かった。
いや、ハッキリ言えば『顔が』だが。
目はパッチリしていてアイラインの必要もないくらいだし、
薄い桃色をした潤っている唇も、そそられないと言えば嘘である。
染めたにも関わらずあまり傷んでいない茶髪も、サラサラしていて綺麗だと思う。
その頃の俺は、人を外見だけで判断する、自分でも本気でそう思うくらい最低な奴だったので、
それだけで文音の告白にOKしてしまった…だったと思う。
“だったと思う”と言うのは、まぁ、色々な紆余曲折があって。
結局は文音から逃げ回り、付き合うこともなく卒業を迎えたのであった。
ああ、俺ってかなり最悪な男じゃねえ?
かくして小早川高校に入学した俺だったが、文音も同じところを希望したらしく、クラスまで一緒になる羽目に。
俺は多少なり動揺した記憶があるが、中学を卒業してからは文音は追ってこなくなり、普通に接せるようになっていた。
それで俺は安心しきって今日まで過ごしてきたが………
『あれ、俺の所為なんじゃねえ、これ』
なんとなくやばいだろと思ってきた俺に、文音は続ける。
「あたしね、ソラにOKもらえて、すっごい幸せだった。
ずっと傍にいてくれるんだったら、何しても良いって思えたの。
薬だって、盗みだって、人殺しだって。
ソラが望んだなら、いつだって何でもしてあげようと思えたのに。
でも………、ソラは違ったんだね。
あたしの一生分の気持ち裏切って、他の女に走ったんだもんね。
最初からどうでも良かったの……?
あたしの事なんてまるで考えてなかったの?
眼中になかったの?
じゃあ何でOKなんて答え出したのよ……。
意味わかんないじゃん。
イヤだったなら早く言ってよ。
馬鹿…
あんたなんか……そんなソラなんか、死んじゃえばいいんだよ!」
俺に向けられた刃はそのまま突き進んで来、腹の辺りを目がけているので、
俺は咄嗟に飛び退いて逃げる。
「待ちな、ソラ!逃げんの!?」
「そんなん持ってる奴を待つ馬鹿いねえだろ!」
俺は狭い階段の下を必死で逃げ回る。
ときどき、文音のナイフは壁を掠め、その部分は深く傷ついている。
人体であんな傷を受けたら……、たまったものじゃないだろう。
絶対に御免だ。
「ッの!!」
ナイフが俺の胸元に飛び込む。
やばいと思ったのも、つかの間。
俺は……………。
あれ、生きてる。
「……!!」
はっとして目の前を見ると、ずっと隅にいた筈のあかりが、ロッカーにしまってあった箒を取り出して構えていた。
なんか男の立場ないんじゃねえ、俺?
……そんなこと言ってる場合じゃなさそうだ。
「長崎さん!いい加減、甘ったれるのは止めてください!」
見事にナイフを薙ぎ払ったらしいあかりは、興奮して少し息を切らせている。
切羽詰まっている状況だからか、あかりの形相は凄まじい。
凄まじいというより、いつものあどけなさが消え失せていた。
凛とした顔つきで文音を見据える。
「甘ったれ……?」
文音はその単語に反応するかのように、怒りの矛先をあかりへと向けた。
「甘ったれだって!?誰の所為でソラが変わったと思ってんの!
あんたの所為なんだろ、全部!
あんたが一番消えちまえばいい存在なんじゃん!」
文音は顔に青筋のようなものを立て……いや、青筋そのものを立て、
あかりに向かって突進した。
「あんた、むかつくんだよ!」
見てられなくなった俺は立ち上がり、文音を止めに入ろうとした。
が、そんなことは全く必要ないと言わんばかりに、あかりはスッと前に出て
「やっ!」
箒の棒の部分で受け止めた。
そうだ。……これは、まさにチャンバラだ。
『リアルチャンバラごっこ』と名付けられそうな感じである。
その『短剣』を持った文音と、『長刀』を持ったあかりは対峙し、互いを睨み合っている。
「あんたこそいい加減、死ねよ!」
大きく短剣…ふざけるのはよそう、
大きくペティナイフを振りかぶった文音。
あかりは怖じ気づくこともなく、また薙ぎ払った。
文音のナイフは勢いよく飛んでいき、壁に突き刺さった。
「あっ」
遠くにあるそれを取る暇もなく、やがてあかりに押し倒される。
「なんだよ、どけよ!どけ!」
叫び、喚く文音。
いつの間にか柚木と早紀乃はいなくなっている。流石にやばいと判断し、逃げ出していったのだろう。
そんなことを頭の隅っこで考えながら、俺は信じがたい光景を………
言葉を耳にした。
「黙れ最低女!
ソラ君は私の彼なんだから!
もう一度あんな酷いこと言ってみな、このままこの箒でみぞおち突いて、悶死させてやる!!」
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