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始まりは突然に

 なんで森の中にいる……?


 目覚めた時に思ったのは、そんな漠然とした問だった。

 木々が風に揺れて葉が舞う。そんな風景を呆然として見ていた。

 鳥の囀りが森の中に響き、時々動物の鳴き声が聞こえる。


 いやいや、待て。

 なんで森の中に俺は寝ていたんだ? うーむ、思い出せねぇな。

 ガシガシと頭を掻き、イライラを抑えるがどうにも収まらない。

 それにしても、なんか目線が高いような。背は低くはねぇが、ここまで大きかった記憶もねぇぞ。


 座っていた身体を起こせば、身長の高さに違和感がある。

 どう見ても身長が倍近く増えている。目線の高さが違いすぎるぞ。

 疑問を覚える中、俺は気づく。

 自分の腕、足、腹回りが自分が良く見知った身体とは言えないということに。

 肌色もこんな灰色なんかじゃない。

 いったいどういうことだ?


 ……全く、起きてから疑問や驚きが多すぎて頭が痛いぜ。

 ふるふると頭を横に振り、改めて自分の身体を見る。

 夢じゃ……ないようだな。


 溜め息が思わず出る。

 自分の事は思い出せる。今まで傭兵として幾多の戦争に参加し、色んな敵と殺し合いをしてきた。

 家族はいないが、戦争好きな仲間は多くいた。

 楽しかったなぁ血沸き肉踊る戦場は。死と隣り会わせという緊張感、自分の力がどこまで通用するのかという好奇心。


 っと、今は昔を懐かしむ暇はねぇか。

 あぁだが、自分という存在をちゃんと把握はしているな。

 ただ、この森で寝ていた経緯、身体が変わった経緯、コレがわからん。

 流石に急成長しました、なんて事はありえねぇしな。

 ……仕方ねぇ。わからんもんはわからん。なら考えないほうがいいか。


 むりやり納得し、俺は周囲を確認する。

 お、少し先に湖があるな。水辺が近くにあったことは幸運と言ってもいいだろう。

 慣れない身体を動かし、俺は湖に向けて歩き、水面に顔を近づけると、驚愕した。


 おい、おいおい、なんだぁ!? この顔は!?


 水面に映しだされた顔は、化け物と言っていい程に醜悪なものだった。

 ギョロリとした目玉に鈎状になった鼻、長い耳は人間ではないということがわかる。

 口には大きな牙が揃えられ、見るもの全てが恐怖し、また嫌悪する顔だった。


 この顔に身体、どこかで見たことがある。

 確かユラリス王国とハルマール王国との戦争に参加した時に、ハルマール王国が魔物を従えて進軍していた時に見た。

 名前は確か――トロール。

 巨大な身体は凶悪だが、動きは鈍く、頭も悪い魔物だったな。

 てか俺、魔物になったのかよ!?


 それも超絶ブサイクな魔物だ。

 最悪だ。最悪すぎて死にたくなるぜ……。

 あまりの事に落ち込む俺は二度目の溜め息を吐く。

 あぁ~あ、これじゃあ人間が暮らす町や村に入ることすら出来ねぇな。

 ん? 待てよ、ということはだ、酒場にも宿屋にも行けず、娼婦を抱くことすら出来ねぇわけだ。

 かぁ~! 女が抱けないなんて人生の半分は損した気分だ。あぁ~やだやだ。

 イラつく気持ちを抑える為に俺は湖の水を手で掬って顔にバシャバシャと掛ける。


 冷たい水で気持ちが少しだけ落ち着き、俺は今後の事を思案する。

 人間に会うことは避けたほうがいいだろうし、町や村に行くのは論外、と言うことは森の中でひっそりとした暮らしがベストか。

 恐らくこの森の中に魔物がうようよいるとは思うが、俺からすればそんなことは些細な事だ。来るならこの手でぶっ殺すだけだしな。

 食料もそこら辺の魔物や動物を食えば平気だろうし、水もある場所は最初に見つけた。

 生き残るというだけを考えれば難しくはないということか。

 まぁ、途轍もねぇバケモンが出ねぇ限りは大丈夫だろう。


 うし、んじゃあ食い物探しでもするか。

 ついでに己の身体の性能、そして前の身体で使えていた“スキル”が使えるか試すとしよう。

 さぁ、狩りの時間だ。




 ~~~~~~~~~~~~~




 鬱蒼と茂った森の中を散策していると、偶然にもお目当ての獲物が現れた。

 少し遠い所に鹿が数匹群れで行動している姿が目に見えたぜ。

 警戒心が強い上に、物音を立てれば即座に気づくだろうが、今回は敢えて隠れるような真似はしない。

 別の方法で狩るからな。


「ガァァァアアアアアアッ!!!!」


 腹の底から吐き出した叫びが森の中に響き渡る。

 大気が揺れ、沢山の葉が地面へと落ちていく。

 耳を塞ぎたいほどに強烈な声に、鹿は逃げることも出来ずに固まっていた。まるで金縛りにあったような状態だ。

 これは“恐怖の咆哮”と言われるスキルで、対象を決めて叫ぶことで自動的に発動することが出来るものだ。

 効果は一定時間身体を硬直させ、戦意を失わせる、だったな。

 ただし、このスキルには弱点がある。俺の咆哮に怯えも恐れもしなければ効果が現れないのだ。

 一見便利そうだが、戦争時の時や興奮している敵にはわりと効かないのが難点ってとこだな。

 硬直する鹿を冷静に見ながら、俺は足に力を込め、走る。


 巨体故に鈍い動きが特徴のトロールだが、俺はその特徴と違い、俊敏な動きで鹿に迫る。

 これもまた、スキルがあるからこその動きだな。

 “加速レベル3”と言われるスキルだ。発動条件は何処を加速させるか意識させれば発動する。

 今で言えば足全体を意識することで加速が発動し、通常の何倍も早くなるというわけだ。

 ただ、このスキルは身体全体にすると効果が落ちるのだ。部分的な所を意識して発動すると効果の恩恵は大きい。要は容量良く使えればかなり強いということだ。

 因みにレベルはそのスキルの熟練度であり、レベルが上がると効果も上がるという仕組みだ。全部のスキルにレベルがあるわけではないがな。

 まぁでも、神様も面白い機能を作ったもんだぜ。


 前の身体で使えていたスキルを確認しながら、トロールとは思えない素早さで鹿に肉薄した俺は、そのまま鹿の首を手で掴み、枝を折るように軽くへし折った。

 首の骨が折られ、だらりと下がる四肢を見下ろしながら、俺は直ぐ近くにいた鹿も同じような方法で仕留めると、漸く金縛りが解けたのか、蜘蛛の子を散らす様に鹿が逃げていく。

 俺はそれを無視して戦果である鹿二匹を両手で掴み、笑みを浮かべる。


 よしよし、今日は肉が腹いっぱい食えるぜ。

 口元から涎が垂れるのを慌てて腕で拭い、俺は水辺があった場所まで鹿を持っていくことにした。

 鼻歌をしながら上機嫌に歩く俺は、監視するように木の上から俺を見ていた者に気づくことはなかった。

次回から文字数は増えますので、よろしくお願いします。

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