表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/84

56.初めてのお買い物記念日 3

二か月も(汗)ご無沙汰しております~

 お店を出ると、もうすっかり暗くなり始めていた。


「うわ、もうこんな時間?」

「イリーナのところでのんびりしすぎたわね。もっといろいろ回るつもりだったんだけど」


 二人の言う通り、イリーナさんのお店でついついのんびりしてしまった。居心地が良かったんだよね。お茶まで出してもらっちゃったし。

 まるで昔から通っていた喫茶店みたいで、気兼ねなく時間を過ごせる。

 こんな気分になったのはいつぶりだろう。

 一人で入れる喫茶店自体、あの街(・・・)にはあまりなかったし、ファミレス(・・・・・)で一人で時間を潰してる方が断然多かった。

 友達と呼べる人たちとこんな時間を過ごせるなんてーー。


「どうかしたの? シオン。難しい顔して」

「えっ」


 指摘されて慌てて顔を上げると、二人が首をかしげてわたしのほうを見ている。


 ――わたし、いま何を考えてた……?


 頭を振って、苦笑を浮かべる。


「ううん、なんでもない。それより、学院の門限ってあるの?」


 ごまかすつもりはなかったけど、話題を振ってみる。

 街灯はあるみたいだけど、リドリスの街と同じく、日が落ちればこの辺りも真っ暗になるのだろう。

 しかし、二人はキョトンとした顔でわたしを見た。


「ないと思うよ? 気にしたことないし」

「そうね、翌日の講義に間に合えば文句は言われないんじゃないかしら」

「えっ、そうなの?」

「でもね、店の方が閉めちゃうところが多いんだよね」


 もしかしてまだ他のお店を見てまわれる? と期待しかけたわたしは、ジェイドの言葉に落胆を隠せなかった。


「少し離れたあたりに飲食店が固まってるの、知ってる?」


 言われて、ここにやって来た初日に見た光景を思い出す。


「あの辺りは学院の人も王宮の人もよく使うんだよね」

「そうなんだ」

「だからよく揉め事になってね。……とばっちりを食らうことも多かったから」


 とばっちり? 揉め事?

 首をひねっていると、リリーが口を挟んだ。


「ジェイド、それじゃ全然わからないわよ。あのね、シオン。学院を卒業した魔術師が一番なりたがる職業って何かわかる?」

「えっと……」


 身近にいる魔術師を思い浮かべる。

 ガルフにしろウルクにしろ、優秀な卒業生なんだろうなと思っている。となると。


「魔術騎士団……?」

「惜しい。それも花形職業ではあるけど」

「王宮付きの魔術師として雇用されること、よ」

「ああ、なるほど」


 言われてみればそうだよね。ここは王立の魔法学院だし、王宮お抱えになるのは名誉なことでもあるよね。


「だからね、世俗に戻りたがる魔術師の筆頭が彼ら、王宮の魔術師たちなのよ」


 前を歩きながら、リリーが解説をくれる。


「その次が騎士団ね。続いて、貴族のお抱え魔術師」


 へえ、そんなところにも序列ってあるんだ。


「じゃあ、学院に残っている魔術師はなんでしょう?」


 くるりと後ろを振り向いたリリーは、後ろ歩きしながらニコッと笑いかけてくる。

 さっき、リリーは『世俗の魔術師』と言っていた。それにここにはマスタークラスの魔術師たちがいっぱいいるとも聞いている。

 これって、大学で言うところのマスターとかドクターとかとおなじなのかな、もしかして。


「魔術の研究者……?」

「うん、だいたい正解」


 くるりと前に向き直って、リリーは続ける。


「いろいろな人が魔術の研究に明け暮れてる。それがここの実態と言ってもいいと思うの。ほら、移動魔法とかいろいろな新しい魔法を編み出して、学院内で実験的に使ってるでしょ? 実用になるまで繰り返し実験と改良を行ってるのよ」


 そういえば、空間魔法のエキスパートが居るんだっけ。


「でもさ、最近はトップ卒業しても王宮の魔術師の空きがなくて、他に回されることが多いんだってさ」


 ジェイドが面白くなさそうに呟く。

 そういうのも聞いたことがある。


「だから、わざと卒業せずに研究職や教職として残る人も多いんだ」

「で、城下の店で鉢合わせた王宮付きの魔術師にからかわれて、魔術合戦になったりしてね」

「うわ……」


 学院のトップクラスと、王宮付きの魔術師が喧嘩で魔法合戦?

 しかも城下でって、とんでもないことになるに違いない。


「だから、飲食店の多くは学生街のはずれにまとめてあるんだよね。あの辺りは魔法無効化の結界が張ってあるから」

「そこまで……?」

「うん、そこまでしないと人死にが出るからね。彼らが本気になると店が吹っ飛ぶのなんてザラだから」


 王宮付きになるほどの実力者揃いってことだものね、すごいことになるんだろうなあ……。


「だから、日が落ちたらみんな店を閉めるんだ。飲食店以外はそんな措置、されてないからさ」


 それはそうだろう。鉢合わせしただけで店が壊れるなんて嫌だろうし。


「あ、でも本屋と文房具屋だけは例外」

「例外?」

「そう。論文書いてる時にインクがなくなるとかよくあるし、文献探して本屋に行くのは仕事帰りが多いからとかで、その二つだけは遅くまで開いてるわ。もちろん、魔法無効化の結界が張ってあるわ」

「じゃ、そこに行かないか? シオンも場所を覚えておけば、必要になった時にいつでも行けるだろうし」


 今のところは、ノートもペンもウルクが準備してくれたものを使っている。

 でも、文房具は買わなくても見るだけで楽しい。こっちの文房具がどんな感じなのかも見てみたかった。


「うん、行きたい。お願いしていい?」

「もちろん! そのつもりだよ」


 にっこり笑う二人に、わたしも笑みを返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ