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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
リドリス領編
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6.店の子たちは元気です 2

本日二話更新です。

6.店の子たち 1を未読の方は6.店の子たち 1からお読みください。

 シャンプーとか石鹸とか洗剤とかタオルとか、いろいろ欲しいものを買っていると、これから新しい生活をするんだっていうことを思い知らされる。

 まるで、大学に入った時みたいだ。下宿を決めて、必要なものを買いに行って。アパートに戻って何もない部屋に飾り付けていく。それを今まさに繰り返してるんだなって。

 一緒に買い物に付き合ってくれた父さん、母さん。どうしてるかな。広臣、泣いてないかな。ポチ、ごめんね、散歩に連れていけなくなって。

 きっとわたしはスポーツジムにでかけたまま帰ってこないってことになってるんだと思う。

 元の世界に戻れる保証はない。でも、魔術師はないとは言わなかった。だから、歯を食いしばってでも頑張ってみる。

 みんなのおすすめで買ってきたものなどは奥の部屋に並べ、風呂用やキッチン用のものはそれぞれの場所に置いていく。

 清潔なタオルを見つけた時は小躍りした。ふんわりしたタオルの感触は嫌いじゃない。

 棚に置いたタオルに顔を埋めて柔らかさを堪能する。と。


「ねえ、シロくん。時々ここで休憩させてもらっても構わないわよね?」


 不意に後ろから声をかけられてわたしは振り向いた。


「えっ」


 六人の目がこっちを向いている。


「昼番と夜番の間に家に戻るよりは、ここでみんなでお茶してたほうがいいし、ほかのお店に行く必要もないし。ね?」


 最年長のウルスラが拝むように両手をあわせてウインクをよこしてくる。ウェーブの掛かった豊かな黒髪を胸の下まで流していて妖艶な笑みまで浮かべてる。


「え……」


 それじゃわたしのプライバシーは? せっかくこの部屋を借りられて、ゆっくり眠れると思ってたのに。


「お願い。下でお茶しててもお客さん来たら接客するじゃない? バタバタして落ち着かないし……」


 それはわたしにもよく分かる。だから食事が終わったら仕事に戻ってたんだし。


「じゃあ……わたしのいない時は使わないでくださいよ? お泊りも禁止です。あと、家探しもしないでください。わたしにだってプライバシーというものが……」


 黄色い歓声があがる。なんかハイタッチとかしてますけど、もしかして、はめられた?

 というか後半全然聞いてないような気がする、このお嬢様たち。


「やったっ!」

「じゃあ、堂々とお茶セット持ってこられますねー」

「わたしはお気に入りの刺繍セット持ってきちゃう」

「下に敷くものもいるよね。うちから持ってくるわ」

「茶器が足りなくない? うちからも持ってくるわよ?」

「昼寝用の枕、持ち込んじゃおうかしら」

「じゃあ、うちに余ってるカウチソファ持ってくるわ。寝心地はいいのよ」


 なんだか女達だけで奥の部屋の改造計画が進んでいきます。

 やっぱり……わたしはこっちの六畳一間で寝起きすることになりそうです。さらばふかふかベッド。きっとわたしが寝ることはもう無いでしょう。

 そうすると、毛布とマットはやっぱり必要だよね。今日でかけた時に買っておけばよかった。


「そういえばシロくんって本当に美少年よね」


 なにげに話題がわたしのことになってます。


「そうそう、お客の中にもシロくんのことずーっと目で追いかけてるのがいてさぁ。危ないったら」

「わたしも、シロくんがどこに住んでるのかとか聞かれたことある」


 やばい、この上に住んでます、だなんて知れたら絶対変なのが夜這いに来る!


「えっと、それ……」


 最年少のベルはにっこりと微笑んだ。ふわふわシュガーな金髪がまるで綿飴みたいだ。


「もちろん、言うわけないよー。こんなおいしい情報、ただで与えるわけないでしょ?」


 微笑みが怖いです、ベル様。


「一度女装させてみたいよね。でもちょっとサイズが小さいかぁ」


 ええ、そうでしょうとも。わたしが着ているのはエティーちゃん十歳の服ですもんね。


「ととととにかく、わたしで遊ばないでください。いいですねっ!」


 慌ててそう宣言して、わたしは深く深くため息をついた。





 ランチタイムが終わったのに、結局クロを迎えに行けなくて、ディナータイムになって店に出たらぶんむくれたクロがいた。


「ごめんっ! いろいろあって、お買い物にも行かなきゃならなくて、迎えに来られなかったんだ。ほんとにごめん」


 耳が後ろに向いてて、背中が弓なりになっている。しっぽはびたーんびたーんと揺れている。

 ああ、完全に怒ってる。

 撫でようと手を出したらひっかかれた。


 ……ぷっくりと出てきた血にわたしは言葉を失った。今までこんなこと、一度もなかったのに。


「……ごめん、なさい」


 たった一人の大事な仲間なのに、忘れて放置して、しかも嫌いなリボンを首にまかれて、嫌な仕事させて。怒られても当然だ。

 このままクロにまで愛想つかされるんだろうか。

 そうなったらわたしはまた一人きりだ――。

 手の甲に雫が落ちた。涙が止めどもなく落ちる。

 ざり、と舐める感触に顔を上げると、クロが手の傷を舐めてくれていた。手のひらを見せると頭をこすりつけるようにして全身をぶつけてくる。

 よじ登るクロを抱き上げて、わたしは部屋に戻った。今日のディナータイムは看板猫はお休みだ。

 一緒にいてあげられないけど、ひとしきり抱っこして撫で回して満足してもらって、わたしは店に出た。

 今日はゆっくりお風呂に入って、クロと一緒に寝よう。

 罪滅ぼしになるかどうかわからないけど。

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