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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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49.忘れてました。

学院長と事務局長を間違えていました(汗)

「で、何がどうなってるの?」


 部屋の隅から引っ張ってきた椅子に腰かけて、ウルクは口を開いた。

 わたしはといえば、ベッドに登り、壁に背を預けて座っている。

 アリアは用事があるからと寮の前で別れたままだ。


「わたしにもわからなくて……帰ってきたらあの状態だったんです」


 この体勢なら膝の上で丸くなるだけのクロが、今日は肩にすがるように抱き着いている。わたしもそのまま両手で抱きかかえていた。移ってくるクロの高い体温が緊張をほぐしてくれているのがわかる。


「帰ってきてって……確か図書館を出たのは日没よりずいぶん前だったわよね?」

「あ、はい。探してもらった本が貸し出し可能だったので、部屋でゆっくり読もうかと思って……」


 あの場にウルクはいなかったけれど、ジャックにでも聞いたんだろうか。


「それから?」

「食事には早い時間だったけど、お弁当を作ってもらって、部屋で食べました」

「ああ。……それでお弁当箱とクロのお皿があったのね」

「はい」


 そういえば、水筒は無事だったろうか。見てない気がする。


「それから、明日の外出申請するの、忘れてて……」


 途端にウルクの表情が渋くなった。


「シオン、前に言わなかった? 出かける場合はジャックかあたしに必ず一言入れてって」

「あ……ごめんなさい」


 そうだった。二人はわたしの護衛でここに来てる。一人で勝手に出かけたら迷惑かかるんだった。


「講義のあとだから明日伝えておけばいいって思ってました」

「……まあ、いいわ。次回から必ず連絡してね。一人で行くの?」

「あ、その……お友達と」


 そう告げると、ウルクは柔らかく微笑んでくれた。


「そう。お友達できたのね? よかったわね。」

「はい。……あの、ウルクさんたちと一緒でないと、お出かけできませんよね……?」

「そうねえ……」


 ウルクはしばらく思案顔をしていたが、やがて口元を緩めて顔を上げた。


「お友達の名前を聞いていい?」

「えっと、ジェイドとリリーです。中級クラスって聞きました」

「そう、中級クラス二人なら大丈夫かな。……護衛にはつくけど、シオンたちに気付かれないようにこっそりするわ。それでどう?」

「えっ、いいんですか?」


 先生二人を護衛として引き連れた新入生だなんて、どう考えても怪しすぎる。ただの新入生だって主張しても無理があるもの。

 ウルクもそのあたりを考慮してくれたのだろう。


「護衛にはジャックが付くことになると思うから」

「わかりました。……わがまま言ってごめんなさい」


 頭を下げると、ウルクは首を横に振った。


「シオン、こんなのわがままにも入らないよ。シオンを守るのはあたしたちの仕事であり使命だから、気にしなくてもいい。シオンは学院生活を大いに楽しみなさい。せっかくできたお友達を大切にするのは当たり前のこと。それとも、あたしたちに気を使って学院から一歩も出ない生活を送るつもり?」


 ウルクの言葉にわたしも首を横に振った。

 そんな生活、リドリスで過ごした一か月でもう十分だ。


「でしょ? だから遠慮しないの。守る方法を考えるのはあたしたちの仕事。たっぷり楽しんでらっしゃい」

「はい」


 ウルクの微笑みに、わたしも微笑みで返した。


「で、話を元に戻すわね。事務局に外出許可の手続きに行ったのね?」

「はい。……その時に慌てちゃってたから全部置きっぱなしで、クロを連れていくのも忘れちゃって」

「なるほどね。荷物は全部ベッドの上に置いてた?」

「はい。あ、クロのお皿だけはベッドの横の床に。本は読もうとしてたところだったからカバンから出して枕元に。お弁当箱と水筒は明日返さなきゃと思ってたから、借りた籠に入れてカバンの横に置いてました」

「……で、手続きはできたの?」

「あ、はい。もう窓口は閉まってたんですけど、事務局長さんが仮の許可証を書いてくれて」

「あー……そう。それで?」


 話の先を促しながら、ウルクは眉間にしわを寄せて額に手を当てている。相当まずいことだったんだろうか。


「で、その時になってカバンを持ってないのに気が付いて、すぐ戻ったんです。部屋に入ったら、クロも誰もいなくて、あの状態で……」

「お皿が割れてて、弁当箱が潰れてて、本が焼かれてた」

「はい……」


 ウルクの言葉にずきりと胸が痛む。


「部屋に入った時に魔法の気配はしなかった?」

「気配……」

「においとか、ピリピリした空気とか」


 眉根を寄せて記憶を手繰る。

 魔法の気配や魔力を感知することは訓練はしているものの、どうも芳しくない。わたし自身が魔法や魔力をないものとして考えているからじゃないかとガルフには言われた。

 そうなのかもしれない。

 もともとそんなものがない環境にいたのに、いきなりあなたは魔法が使えるなんて言われても……。

 思考がずれそうになって、慌てて首を振った。

 部屋に入ったあの時、何か香ったような気もしなくもない。でもそれがどんなものだったかはわからない。

 しばらく考えていたが、首を横に振った。


「わかりません……」

「そう。……まあ、そのあたりはアリアの調査結果を待ちましょう」

「え?」

「現状保存したシオンの部屋の調査をやってるはずだから。それと、ルームメイトの確保とか、目撃者の調査とかね」


 その言葉にわたしは目を見開いた。

 アリアが用事があるからと去っていった時、生徒代表だから忙しいのだろうとしか思わなかった。こんな時にと少し思ったけど。

 調査のために席をはずしてるだなんて、思いもしなかった。


「そうだったんですか……」

「誤解してたでしょ。顔に書いてあった」


 ぱーっと顔が熱くなった。くすっとウルクが笑う。


「安心しなさい。アリアは生徒シオンを絶対見捨てない」

「うん……あ、でも、本」

「本? 図書館の本?」

「はい。……燃やされちゃって……」

「ああ、それなら大丈夫だと思うわよ?」

「え?」


 ウルクの明るい声に顔を上げると、彼女は笑みを見せた。


「図書館に行けばわかるわ。明日の午前中にもう一度行きましょう。面白いものが見られるから」


 くすっと笑うウルクに、わたしは首をかしげるばかりだった。

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