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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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47.外出許可証とお弁当

※しばらくの間、いじめを思わせる内容が続きます。ご不快になる方もいらっしゃるかと思いますので、飛ばしていただきますようお願いいたします。

 図書館を出るとそろそろ日が傾く頃だった。夕食には少し早い時間だけど、一度部屋に戻って本を読み始めたら夕食なんて忘れてしまいそうだから先に食堂へ行く。


「あら、新人さん、ずいぶん早いわね?」


 いらっしゃい、と言いつつ厨房の中から声をかけてくれるのはいつものおばさんだ。


「はい、本をゆっくり読みたいので」


 お盆を手にそう言うと、おばさんは肩にかけたカバンから覗く本にちらりと目をやったあと、にっこり微笑んで頷いた。


「じゃあ持ち帰りがいいわね。ちょっと待ってて」


 おばさんはそう言って奥へと引っ込んでしまう。受け取り口で待っていると、ものの十分ほどで蔓を編み込んだ籠を持って帰ってきた。その中には箱と水筒が入っている。


「はい、これ。片手でつまめるようにしてあるから。それとこっちはスープ。保温の魔法をかけてあるから冷めないわよ。入れ物は明日にでも返してくれればいいから」

「すみません、ありがとうございます」


 頭を下げて籠を受け取ると、おばさんはにっこり微笑んだ。


「いいのよ。あ、そうだ。猫ちゃんの分も要るわね。あら、そういえば猫ちゃんは?」

「あ、中庭に置いてきちゃった……」


 またクロに怒られちゃう。昨日もジェイドの部屋でのお茶会でつい時間を忘れちゃって迎えに行くのが遅くなったら、しっぽびたんびたんさせてたのに。


「あらまあ、きっと猫ちゃんはおかんむりだわね。じゃあ、これも持っていきなさい」


 クロの食事と皿、それから何か白い卵のようなものを籠の中に収めてくれた。猫の好きな何かなのかな。クロにあげて様子を見てみよう。


「ありがとうございます。じゃあ、器を借りていきます」


 ぺこりと礼をすると、わたしは中庭に引き返した。

 中庭に入ると肌に感じる空気が冷たい。もうだいぶ気温が下がってきてるみたいだ。

 クロはとみれば、お気に入りの場所なのか、噴水のそばのベンチに丸くなっていたが、わたしに気が付いてすぐ迎えに降りてきた。

 昨日はぶんむくれて隣に座って頭をなでるまでちらともわたしのほうを見なかったのだけれど、今日はまだ機嫌はいいみたい。


「お待たせ、クロ。晩御飯もらってきたよ」


 手に持った籠をクロに見せると、クロはくんくんと鼻を寄せ、耳としっぽをぴんと立ててニャア、と声を上げた。

 それからあっという間に肩に飛び上がるといつもの定位置に収まった。よほどこの場所が好きなのだろう。少し体が大きくなってからはちょっと苦しそうなんだけどね。

 クロをのっけたまま、部屋に戻る。まだ授業中なのかわからないけれど、今日はだれともすれ違わなかった。


 持ち帰った夕食はとてもおいしかった。本を読みながら食べるのを考慮して、ロールパンに惣菜が挟み込まれたものが四つ入っていた。ちょっと食べすぎかと思ったけれど、あまりにおいしくて本を読みながらじゃなくてあっという間に食べてしまった。スープもとってもおいしくて、それだけで幸せに感じる。

 クロもぺろりと平らげた後にあの白い卵をお皿に乗せたら、すごい勢いで食らいついていた。猫って卵好きだったっけ? 猫じゃなくて魔獣だった。あんなに食らいついたのは初めて見た。

 さらにおかわりも欲しがってる風だったのにはびっくりした。アンヌの店ではどの食事にもいまいち食いつきが悪くてお肉しか食べないもんなんだと思ってたのに。

 明日入れ物を返す時に聞いてみよう。

 そういえば、明日はジェイドたちとお買い物に行く約束をしていたのを思い出して、慌てて部屋を出ると事務局に向かった。


「すみません」


 ノックをしても応答がないので扉を開けて首を突っ込んだ。

 部屋の中はまだあかりはついていたけれど、制服を着た職員さんの姿は見えない。こんなことならウルクに話をしておいて、図書館に行く前に手続きだけしておけばよかった。

 もう一度奥に声をかけると、奥の扉が開いて銀の髪の毛が見えた。


「おや、あなたは。何の用かな?」


 眼鏡をずり上げながら入口までやってきたのは、あのロマンスグレーだった。事務局長さんだっけ。そういえば名前を聞いたことがなかった。


「すみません、明日外出したいので、手続きをしたいのですが……もう業務は終了でしょうか」

「ええ、職員はみな帰りましたから」

「そうですか……」


 失敗した。前も早々に店じまいしてて鍵がかけられていたのに迂闊だった。

 仕方ない、帰り際にジェイドの部屋に行って謝ってこよう。


「お騒がせしてすみませんでした」

「誰かと約束があるんですか?」


 頭を下げて退出しようとすると、ロマンスグレーは声をかけてきた。


「はい。友達と少し」

「そうか。シオン君だったね。……少し待っててください」


 そう言うと事務局長はカウンターの内側に回ってあちこちの引き出しを引っ張り開けると一枚のカードを取り出した。カウンターの羽ペンを取り上げてさらさらと何事か書き付けているらしい。


「正規の外出許可証ではありませんから、次回は早めに手続きに来てくださいね」


 事務局長はそう言いながら手にしていた指輪を抜き、カードに押し付けてわたしに差し出してきた。


「はい、申し訳ありません。ありがとうございます」

「では、明日は楽しんでいらっしゃい」


 にっこり微笑む事務局長に見送られてわたしは事務局を後にした。

 いつもの癖でカバンに仕舞おうとして、何も持っていないことに気が付いた。

 ざっと血の気が引いた。

 荷物もクロも本もお弁当の箱も。

 ルームメイトが帰ってきていませんように、何もされていませんように、と祈りながら部屋へ取って返す。

 祈りも虚しく、部屋に入ったわたしが見たのは、割られたクロのお皿と壊された弁当箱と、燃やされた本の残骸だった。

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