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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
リドリス領編
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6.店の子たちは元気です 1

 ランチタイムが終わって、アンヌの言いつけ通りに店の子たちとまかないを食べる。今までなら同じテーブルについていてもそそくさと食べ終わったわたしは話をすることもなく仕事に戻っていたのだが、それはアンヌからはダメ出しされたし、ディナータイムまでは休憩するように言われてる。それに、いろいろ買いにいかなきゃならないものもある。


「シロくん、住み込みになったんだって?」


 いつものくせで話をなんとはなしに右から左へ流していたわたしは、いきなり話を振られて我に返った。

 昼番の女の子達八人の視線がわたしに突き刺さる。


「えっと、はい。昨日から」

「いいなぁー。この上の部屋でしょ? 通勤時間ゼロ分の職場っていいよねえ。朝ギリギリまで寝られるし」


 そう言ったのはエミリー。昨日は夜番にも入ってた子だ。赤毛のおさげとそばかすが、まるで赤毛のアンを思い出させる。


「家賃いくらとか聞いてる?」

「え、いえ。給料から差し引きって言われただけで……」

「前にあたしも住み込みさせて欲しいって言ったことあったんだけど、ダメって言われちゃったんだよねー。ここ、誰も住んでないから女の子を預かるわけには行かないって」

「そうなんですか」


 素直に驚いた。単に宿無しだから貸してくれたわけじゃないんだ。これでわたしが女だとバレたらやっぱり追い出されるんだろうなあ……。


「ね、このあとみんなで見に行ってもいい?」

「えっ? 何を?」


 びっくりして問い返すと八人とも興味津々な顔をしていた。


「もちろん、上の部屋。シロくんのお部屋。どんな部屋なのか、見てみたくて」

「えっと……それはアンヌさんの許可がないと」


 とっさにしどろもどろに答え、アンヌを探す。今誰かに立ち入られて困るようなもの、置いてたっけ?

 一応、女は連れ込むなとは言われなかった。でも、八人も?


「エティ……じゃなかった、アンヌさん、シロくんが借りてる上のお部屋、覗きにいってもいいですかぁ?」


 こういうことには食いつきのいいレダが早速アンヌに声をかける。栗毛色のツインテールがかわいい子だ。


「ああ、シロが構わないならあたしはいいよ。二日かけて掃除したばっかりだから、汚さないようにね」

「はーい。ほら、シロくん行こ?」


 すでに食べ終え、お茶をしていた女の子達に引っ張られ、わたしは慌てて立ち上がった。


 ……住み込みってこういう突撃チェックが入るという可能性を全然考えてなかったわたしが、いかに甘かったかを思い知らされることになった。





 八人の女の子達は嵐のごとく部屋を蹂躙していった。ありとあらゆる棚や収納場所を開け、中に入っているものを逐一チェックする。


「あら、結構かわいい柄の茶器が揃ってるじゃない?」

「風呂場広いー」

「キッチンはまあまあよね」

「明かりが暗くない?」


 突撃お宅拝見されてる気分だ。わたしの荷物はほとんどないから安心して見ていられるけど、着替えとか増えたらどこに隠そう。彼女たちの手にかかれば隠し扉とかも一つ残らず見つけられそうだ。


「それにしても、おっきな寝台よねえ」


 女の子達は遠慮会釈なく寝台に飛び乗ってスプリングを確認している。

 これ……本当にわたしが男の子だったら絶対やめてくれって叫んでるところだよなあ。と思い至って、控えめに主張をしておく。


「あの、借り物だし、下にも響くから、飛び乗るのはやめてくれる?」

「ああ、ごめんねー。それにしてもシロくん、なんにも荷物がないのね。驚いちゃった」


 そういうのはベッドから降りもせずにゴロゴロしてるレダだ。


「うん。あ、そうだ。シャンプーとか石鹸とか買えるところ、教えてもらえない? 風呂はあるんだけど体を洗うものがなくて」


 そう言うと、彼女たちは一様にきょとんとして顔を見合わせた。


「しゃん、ぷー? 石鹸って食器洗うあれ?」

「え?」


 こっちの人たちってお風呂、入らないの? お風呂はあっても石鹸やボディーソープで洗うことはないのかな。


「お風呂があるならあとは香油があれば十分じゃない?」

「香油って何?」


 すると女の子達はころころ笑い出した。


「だめよレダ。男の人は使わないでしょ?」

「ああ、そうだっけ。じゃあ、特に何も要らないんじゃない?」

「……えっと、じゃあお風呂に入るとき、どうやって体を洗ってるの?」


 彼女たちが困惑してるのが分かる。ああ、大して会話もしないから覚えてないんだね。


「ああ! そういえばシロくんって記憶、ないんだっけ」

「そうなの?」

「あ、はい」


 頷きながらも、半分以上の子がわたしの事情を覚えてなかったのには軽くショックを受ける。いや、これもわたしが仲間づきあいをしてこなかったせいだよね。


「それでかぁ。アンヌさんも放っておけなくなったんだろうね。えっと、生活魔法は使える?」


 エミリーが口を出す。


「この間、初歩の魔法を三つアンヌさんに教えてもらって……入門書を貸していただくことになってます」

「そっか、そこからかぁ。じゃあ、体洗い用の道具は必要だね。普通はね、魔法の組み合わせで体や着ているものの汚れを浄化・分解するの。だからお風呂は美容目的か、全身を磨き上げる時以外は使わないのよね。それにお水も一杯使うから、普通の家じゃあめったに使わない」

「そうなの?」


 毎日お湯貯めてゆっくり体洗って、服も洗ってから流してたから、もったいなくはない、よね? 多分。


「その魔法ってどれくらいで覚えられるの?」


 エミリーはうーん、と悩んでから答えてくれた。


「十歳ぐらいまではお母さんにしてもらってたのよね。だから、中級くらいかな」

「中級って?」

「そうね、入門書を卒業したら初級、その次が中級だから、早くても三年ぐらいかかるかも」


 三年。その頃までわたしはここにいるだろうか。分からない。今この一瞬だって、次の瞬間がわからないように。


「でも、その魔法が使えるまではお風呂入るしかないもんね。いいよ、あたしが知ってるお店に確か置いてあったと思うから。連れてったげる」


 エミリーの言葉にわたしはぱっと顔を上げた。


「ほんと? ありがとう。助かるよ」

「エミリー、もしかしてその店って二つブロック先のジュディ商店? ならわたしも行く!」


 ベッドからぱっと飛び降りてレダが寄ってきた。


「うん、あそこ。今からならディナータイムまでに時間あるから」

「分かった」


 残る六人のうち、クロエとサーニャの二人は他の用事があると言って帰っていった。残る四人は……。


「行ってらっしゃい。帰ってくるまでここでおしゃべりしてていい?」

「そうね、私達が留守番してるから、行ってきて?」


と、アーティとベルはお茶を入れてくつろぎ始めている。


「えっ……いや、それは」

「そうよ、こんな寝心地のいいベッドなんだもの、お昼寝ぐらいさせてよ」

「それいいわね。どうせ今日も夜番だし、それまで寝させてもらうわね?」


 ウルスラとユーティはさっさとベッドに潜り込んでしまった。


「それとも、おねーさんとイイことする? シロくんならいろいろ教えて上げるわよ?」


 ベッドから引っ張り出そうとして逆に耳に息を吹きかけられて、わたしはほうほうの体で逃げ出した。





 教訓。

 学校や職場に近い一人暮らしの部屋は、たまり場になりやすい……。





 ちなみに、諸々必要な物を購入して三人で戻ってきた時、まだ四人は奥の部屋で昼寝&茶会を繰り広げていた。

 部屋の鍵だけは誰にも貸さないようにしよう……。

長いので続きます

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