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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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46.図書館に来ました1

「うわぁ……」


 一歩入った途端、目の前に地平線まで広がるかと思うほどの空間が目に入ってきた。

 見渡す限り、本棚。

 ウルクに案内してもらったのは、中庭から続く小道を歩いて行った先にある、さほど大きくない建物だったはずだ。

 石造りの外壁が黒く塗られているように見えたのは、びっちり取り付いた蔦の蔓のせいだとかなり近づいてから気がついた。

 あれは何だと問うと、ウルクが笑ってなんでもないといなしていたから、この空間魔法には関係ないものなんだろうけど。

 扉を開けて入った先は、無限に続くと思われる空間だ。

 すごい。

 空間魔法はまだ研究途上だと言っていたけど、とんでもない。

 これができるなら、いつも肩にかけているこの荷物も小さく収納してしまえるだろう。


「空間魔法って、覚えるのはまだまだ先ですか?」


 そう聞くと、ウルクは目を丸くした。


「え? 興味あるの?」


 え? 一般的には興味持たないものなの? こんなにすごいのに。


「はい。荷物をコンパクトにまとめるのって空間魔法ですよね?」


 ウルクは口元に手を当てた。


「うーん、確かにそうなんだけど、自分で魔法を覚えなくてもそういう魔具があるからねえ」


 あら、ゲームなんかでよく見る魔法のカバンって本当にあるんだ。


「空間魔法を学びたい理由がそれならやめといたほうがいいよ?」


 ウルクの口調からすると、学院では習得必須ではないし、むしろお勧めできない魔法の一つ、ということだろうか。


「それに、まだ系統立ってリリースされてるわけじゃないから、使える魔法を覚えようとすれば研究室に入るしかないんじゃないかな。どちらにせよ今のシオンでは無理」


 う、珍しくはっきりと言い渡されてしまった。

 移動の魔法とかも空間魔法だと言っていたと思う。安定しない魔法だから学院内で実地テストしてるんだろう。

 でも、やりたい。

 空間魔法。

 アリアが教えてくれた中庭から部屋に出入りできる魔法はまるっきりワープのように思える。

 あれは水鏡の応用だってウルクは言っていたっけ。

 それって中庭と部屋の双方に出入り口があるんだよね?

 部屋に入るときに扉に自分の魔力を流して入室許可を取るように、だれがどこに行けるかの設定をすれば使えるみたいなイメージ。違うかな。

 それなら、元の世界と異世界側に出口を作れば戻れるんじゃないかと思うんだけど、それってとても難しいこと、なのかな。

 元の世界に戻る手がかりになるんじゃないかと思う。


「まあ、基本マスターして、魔力の調節を覚えてからの話ね」

「はぁい」


 ウルクの言葉に落胆を隠さずため息をつく。

 どうもまだ使う魔力の調節がうまくできない。

 どこにもない手を使うようなもので、本当に手探りなのだ。

 自分では魔力というものを感じ取ることができないし、その流れも……あの時は見えていたのに、今のわたしにはまったく見えない。

 真っ赤な力の流れ、綺麗だったな。

 そのうちまたあれをやる、とガルフからは言われている。その時に、何か手掛かりになるような感覚が得られればいいんだけど。


「まあまあ、落ち込まなくていいわよ。魔力の調節はともかく、魔法はずいぶん覚えたみたいだし」


 ほめ言葉とウルクの笑顔に口角が上がる。

 一週間ほどの講義の間に、ウルクとは前より一層距離が近くなったように感じる。

 わたしの気のせいなのかもしれないけど、ちょっとした会話の中で見せてくれる微笑みや口調は、まさに教え子とか弟子のようだ。

 だからわたしも、わからないことや困ったことなどは素直にウルクに聞くようにしている。

 何せほぼ一日中一緒にいるのだ。しかも魔法の先生として。

 そのおかげか、アンヌの時と比べると、何かを聞くこと一つでも抵抗が少ないのだ。

 これは多分、アンヌが雇い主であり大家さんだったからなんだろうな。

 それと、こんなことを聞くと怒られるかもしれないという恐れ。


 うん、今ならわかる。

 アンヌもリーフラムも、ガルフもウィレムも、態度が尊大なんだ。

 うーん、言葉が適切じゃないかもしれないけど、尊大、というか……自信たっぷり?

 そんな人に何かを聞く時、こんなことも知らないのかと笑われたり怒られたりしないかと怖かった。

 でも、ウルクは違う。ジャックも、それから学院に入ってからのガルフも。

 リドリス領主の館で一か月みっちりこっちの世界の常識を詰め込んではあるけれど、身についたかといえばそれほどでもない。

 やはり二十年以上住んでいた世界の常識をぬぐいきるには一か月では物足りなかったみたいで、時折頓珍漢な答えをしてしまう。

 だからだろう、三人とも物を知らないわたしの目線に合わせてくれているのがわかる。

 イライラしない、せっつかない、失敗しても怒らない、笑わない。

 大人なんだ。

 だから、わたしは三人に話しかけるのも抵抗がなくなってきた。

 怖がって垣根を作ってたのはわたしの方なんだってことを再認識させられた。

 人は怖くない。

 気がついたのはジェイドとリリーのおかげだ。


「ん? どうかした?」


 何も言わずにウルクを見上げていたら、ウルクに声をかけられた。

 わたしは首を振るともう一度目の前の光景に視線を転じる。


「じゃあそろそろここの説明に入ってもいいかしら? ジャック」

「お、おう。頼む」


 声をかけられてようやく隣で立ち尽くしていたジャックが反応を返す。

 忘れてたけど、今日の課外授業ってジャックが言い出したことだったっけ。

 ウルクに連れられて、わたしたちは足を踏み出した。

※更新頻度が再び落ちます。すみません。

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