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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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45.お茶に誘われました。 1

※続きを書いたため、ナンバリングを変更しました。

「いやぁ、面白かったぁ!」


 講義室からゆっくり歩きながら、ジェイドの目がきらめく。講義室を出たところでも同じように嬉しそうに叫んでたっけ。

 ガルフの講義は面白かった。ぐいぐい引っ張りこまれるというか、思ったより話術がうまい。

 普段はあんまりしゃべらないイメージなんだけど、意外と教師に向いているのかも。


「それにしても講義室、いっぱいだったね」

「それもびっくりしたんだよねえ。講義室を使うなんてめったにないのよ。シオンも見たでしょ、あの部屋の広さ」


 素直にうなずく。すり鉢状になった部屋で、テーブルと椅子が階段上に半円にしつらえてある。大学の講義室なんかで時々見るあれだね。たぶん、満員だったから二百人ぐらいは座ってたんじゃないかな。それでもあふれて、立ち見がいたっぽい。

 そんなにここの学院って在籍者いたんだ。そう思って聞いたら。


「ああ、あれはね、卒業生とかもいたから。教授陣もほとんどいたんじゃないかな。あの人が魔具作成で講義するって聞いてあちこちから人が来たっていうしねぇ」

「そんなに有名な人なんですか?」


 そう問い返すと、ジェイドは苦笑を浮かべた。


「だからぁ、敬語はいらないってば」

「あっ、ごめん」


 知り合ってまだ数日だけど、ジェイドは本当に素直に接してくれる。だからわたしもしゃべるときの緊張はだいぶほどけてきたと思うんだけど、つい口調が戻っちゃう。


「そんなにも何も、魔術騎士団の団長だし、類まれなる魔力量の持ち主って言われてて、卒業後すぐに魔術騎士団にスカウトされたしね。本当は王宮付きにって声もあったらしいけど」

「そうなんだ」

「でも、魔具の開発とかが得意だから、本当は学院にそのまま残って研究続けたかったらしいんだよね。でも、結局魔術騎士団に行ったんだって。忙しいからって講義の依頼があっても断ってたのに、どういう風の吹き回しだって、中級の先生が言ってた」


 どうもこうもない、わたしのわがままだ。それに関しては罪悪感はあるけど、それも講義を受けてみてだいぶ薄まった。

 面白かった。ジェイドも言ってたけど、過去ガルフが作ったという魔具の話とか、今後作ってみたい魔具の話とか、いろいろ聞いてたら自分でも作りたくなってきた。

 もちろん、様々な魔法や知識が必要だからまだまだいろいろ勉強しなきゃ無理だけど、受けられてよかったと本当に思う。

 明日会ったらちゃんとお礼言っとかなきゃ。


「さてと、この後って何か予定ある? なかったらあたしの部屋でお茶しない? この間クッキーもらったんだ」

「えっ? いいの?」


 お茶って、お茶だよね? クッキー食べながらお喋りとか、やってみたかったんだ。


「シオンがいやなら無理にとは言わないけど……どう?」


 ちらちら不安そうに見てくるジェイドの若草色の瞳に、わたしは首を思いっきり横に振った。嫌なんてことあるはずがない。


「その、そういうのに呼ばれたことなくって……うれしい」


 そう告げた途端、ジェイドはぱぁっと明るい顔をした。


「やったっ、じゃあいこっ」


 やはり自然に手を取られて、ジェイドについて走り出す。今日はよく走る日だ。


 ◇◇◇◇


「さぁ入って入って」

「お邪魔します」


 扉を大きく開けられて、おっかなびっくり戸口をくぐる。

 部屋の間取りは一緒で、少し広い気がするのは、中級クラスだからなのかな。

 ベッドが二つあるのを見て、はっとする。


「あの、同室の人は」

「ああ、彼女も講義聞いてたから、そろそろ帰ってくると思うよ?」

「勝手に入っちゃって、怒られたり……」

「大丈夫」


 テーブルでお茶の用意をしながらジェイドはこっちを振り向いた。


「いい子だし、シオンと話、あうんじゃないかな」

「え?」

「シオンの話したら会ってみたいって言ってたんだ。だから、ちょうどいいかなと思ってさ」


 手元を見れば、すでにティーカップが三客準備されている。

 促されてベッドの端に腰を下ろすと、どこからか引っ張り出してきたワゴンにクッキーの缶とティーカップを乗せてジェイドもベッドに腰を下ろした。


「そういえば、いつも連れてる黒猫くん、今日はいないんだ?」

「あっ、そういえば中庭に置いてきちゃった……」

「そっかぁ。残念。リリーが猫好きだったから。あ、リリーっていうのがあたしのルームメイトね」


 紅茶のいい香りが広がる。勧められてティーカップを手に取ったところで扉が開いた。


「ただいまぁ。……っと、あれ。お客さん?」

「お帰り、リリ。言ってた子だよ。シオン」


 入ってきたのは背の低いシルエットだ。ローブのフードからはピンク色のふわふわな髪の毛がはみ出ている。


「お、お邪魔してます。シオンと言います」


 慌ててカップを置いて立ち上がり、礼をすると、彼女はにっこり微笑んだ。


「いらっしゃい、リリーです。リリーって呼んでね。わたしもシオンって呼ぶから」

「あ、はい」

「ふふ、ゆっくりしてってね」


 立ってみるとわたしよりも背が低い。ジェイドよりも年下なんだろうか。それにしては物腰が大人っぽい。眼鏡のせいかなと思って見ていると、ローブから簡単なワンピースに着替えたリリーは眼鏡をテーブルに置いて、反対側のベッドに座った。

 そして上げた眼鏡なしの顔は、より魅惑的に見えた。……体は未熟なのに表情だけ色っぽいお姉さんが目の前にいた。


「あら、ごめんなさい。座っててくれてよかったのに」

「リリ、なんかむずがゆいからその口調やめて」


 口元を覆ったままジェイドがいうと、リリーはプンとむくれて見せた。


「そりゃお客様だもの、丁寧に応対したいと思うじゃない?」


 ねえ? と首を傾げられて、思わずうなずく。


「もういいってば。ほんとかゆくなりそう」

「あたしのせいじゃないもん」


 そう言ってもう一度唇を尖らせたリリーは本当の子供に見えた。


「これであたしより年上なんだからなー。調子狂うったら」

「いいじゃない、ここにいるのはジェイドのほうが長いんだから、敬わなくっちゃ」


 ジェイドより明らかに若く見えたリリーのほうが年上とか、すごく気になるキーワードが聞こえてくる。

 くすくす笑いながら二人の会話は続く。


 ――ああ、こういう関係、いいなぁ。


 どうやったらこんな楽しい会話ができるんだろう。


「どうかした? シオン」

「え? ううん、なんでもないです」


 あわててごまかしたものの、ジェイドはじとっと視線を送ってくる。観念してわたしは口を開いた。


「あの、リリーさんがとっても大人っぽく見えたから……」

「リリーって呼んでって。実はあたし、魔族の血を引いてるの」

「えっ……」


 魔族の血……ということは、先祖に魔族がいるってことだよね?

 人と魔族の間に子供、できるの?

 ジャックの魔族講座でも聞いたことがない。

 目を丸くしてリリーを見つめていると、隣から笑い声が漏れた。ジェイドが肩を揺らしている。


「シオンってば……素直すぎっ」

「ええっ?」


 リリーも吹き出した。ちょっと、嘘ですかっ?


「やだ、本気にした人、初めて見るわ。ごめんね、シオン。引っかかる人がいるとは思わなくって」

「魔族と人の間に子供はできないよ」

「なんだ……びっくりしちゃった」


 ふぅ、とため息をつく。ため息をつきながら、なぜか落胆している自分がいた。


「うん、一般的にはそうだよね。例外は魔王と勇者だけで」

「えっ、例外?」


 なんだか心臓がうるさい。ドキドキしてるのが二人に聞こえるんじゃないかってぐらい。変だ。


「あれって本当なのかな。おとぎ話じゃないの?」

「まぁねえ。魔王と勇者の恋物語とか言い伝えられてるけど、吟遊詩人の書いたおとぎ話って説もあるしね」

「恋物語……」

「あれ、知らないの? シオン」


 ジェイドが覗き込むようにこっちを見ている。

 小さく頷くと、ごまかすようにワゴンの上のティーカップを取り上げて一口飲んだ。


「有名な話だよ。ただ、伝説としては真偽のほどが確かめられないからって学院では教えないんだっけな。図書館にはあると思うよ」

「そう……」


 ちょうど明日は図書館に行くことになってる。

 探してみよう。

 あの人の姿が脳裏に浮かんだ。でも、それは夢で見た、机に座って微動だにしない姿だった。

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