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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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44.友達に誘われました。

 トレイを持って食堂の順番を待つ列に加わる。

 初日に変な幻を見た以外では特に変わったことはない。

 朝の授業は主に座学で、内容はリドリス領主の館で受けた内容の続きだ。

 ジャックからは魔獣や魔族を中心に講義を受ける。

 学院の図書館には魔獣の研究結果をまとめたものがあって、それを読みながらジャックの補足が入る。

 クロが急に大きくなったのは、わたしの力を吸ったせいなのだろうと思ってはいる。

 だからその裏付けがほしい。

 クロが今のサイズでとどまるのか、今後もっと大きく……例えばピートぐらいのサイズになるのか、ということも含めて知りたい。何をすれば大きくなるのかも。

 そうジャックに告げると、明日の午後は図書館に行く話になった。

 クロのことだけじゃなくて魔王や勇者のことももっと知りたいからちょうどいい。

 ウルクからは魔法の理論的な側面や構築、効率的な展開の方法などの手ほどきを受ける。

 午後からは午前中の内容を踏まえた実践の時間。

 今までわたしが使ってきた魔法といえば、水を出す、お湯を沸かす、風を起こす、温風で乾かす程度のもので、しかも呪文を使わない。それ以外も入門書にはあったけれど、使うチャンスはなかった。

 でもここでは、魔術の構築を理論的にとらえ、構築する。

 何をどう組み合わせると何ができるか、というあたりは理科の実験を思い出す。本当はもっと緻密なものらしいけど。

 魔法の基本は呪文。低レベルの魔法は短い呪文で発動するが、複雑な魔法は複数の魔法を様々に織り上げなければならない。

 同じ魔法を繰り出すにしても、それをどう織り上げるかは人それぞれだ。より効率的に組み替えたり、美しい旋律にそろえたり。

 目的によって組み方はそれぞれで、これという答えはない。

 わたしには幸いブランシュであった記憶があるから、どう組み合わせるかはわかる。

 ただ、ブランシュのやり方はそれとして、ウルクのやり方を学びたいとも思う。

 ブランシュは式典などで披露する魔法の組み方をしていた。つまりは『魅せる』『聴かせる』魔法なのだ。

 実戦では美しさよりは正確さや速さが求められる。

 わたしが――勇者である以上、実践を前提とした組み方を覚えたほうがいいのだろう。

 呪文に、さらにより強力な魔法を固定して展開するための魔法陣が加わる。

 初日に床に描かれていたもののように、あらかじめ場所を定めて描いておくものと、必要に応じて呪文を唱えながら織り上げるものとがある。

 魔法陣はまだだけれど、今日の見極めでウルクから許可が出れば次は初級クラスの魔法に入ると言われた。

 複数の魔法を組み合わせる魔法は今までも使ってきたけれど、思い描くだけでできたからやり方が違う。

 だから今日の授業も楽しみだ。


「おはよ、シオン」


 いつものように食堂のおばさんたちに今日のメニューを盛り付けてもらって座ったところで、この間の赤毛の彼女が声をかけてきた。


「おはようございます、ジェイドさん」

「相変わらず硬いなあ。もっと砕けた口調でいいよ? 名前も呼び捨てでって言ったのに」


 自分の分のトレイをもってわたしの前に座ったジェイドは、ぷんと頬を膨らませる。

 いきなり絡まれて以来、なぜか食事時に気がついたら目の前にいることが増えた。

 中級クラスで、体はわたしと同じぐらいだから、十四、五ってところだろうと思う。

 新人ってことで気にかけてくれてるんだろうか。


「どう? ここの生活には慣れた?」


 にこにこと笑みを向けてくれるジェイドは、最初に見せたような冷たい表情をわたしに向けることはあれ以来ない。いい子だ。

 わたしも自然、表情がゆるむ。部屋にいてもぎすぎすしてる分、彼女の笑顔を見ていると本当にほっとする。


「はい」

「それはよかった。授業はどう? ついていけてる?」


 パンをちぎりながら小さく頷く。個人授業を受けてることは言わなくてもいいだろう。


「そっか。わかんないところとか、自習するんなら付き合うよ」

「ありがとう」

「遠慮しなくていいからね。あ、それと聞いた? 今日の午後に魔具作成の特別講座があるんだって」


 それ、ガルフの公開講座だよね。確か今日はそれがあるからこっちには来られないって言ってた。だから、今日の午前はウルクの見極めの時間になったんだっけ。


「でさ、知ってる? あの小型魔力測定器作った人が講師だって。シオンも受けない? 授業はどのクラスも特別講座に合わせて休講になってるはずだから行けるはずだよ」

「あ、はい」


 もともと受ける予定だし、と頷くと、ジェイドは嬉しそうに微笑んでわたしの右手を両手でつかんだ。


「やったっ、じゃあお昼食べ終わったらここの入り口で待っててくれない?」

「え?」

「大丈夫、講義室への道はあたしが知ってるから誘導するから」


 嬉しそうに言いながらジェイドはあっという間にトレーの中身を平らげると、手を振って食堂を出て行った。

 あまりに嬉しそうな彼女に、口角が上がる。なんだか胸の中がほわっとあったかくなった。


「元気だなぁ」


 ニャア、とクロが足元で鳴く。手を伸ばすと頭をごっつんとこすりつけてくる。

 これはがんばってウルクの見極めをとっとともらわなきゃ。


 ◇◇◇◇


「お待たせ! ごめんな、ちょっと教授に呼び出されちゃって」


 約束通りに食堂の前に立っているとジェイドがやってきた。

 すぐそばに立っていたウルクがそっと離れる。

 今日の講義にはウルクと一緒に行く予定だったのを変更してもらった。

 一応どんな子か見たい、と言うので、すぐ近くで待機してくれていたのだ。


「大丈夫。でも、ジェイド。お昼は?」

「食べてる時間ないからいいよ」

「え、でも」

「講義のほうが大事。後で食べるから行こう」


 荷物をもってクロを抱っこしているのと反対の手をするりと握られて目を見開くと、ジェイドはにっこり笑った。


「じゃあ、行こ。早くいかないといい席なくなっちゃうからさ」

「あ、はい」


 彼女に引っ張られて走り出す。どこに行くのかわかってないから、移動魔法は使えないんだろう。

 家族以外で手を握られたり引っ張られたりしたなんてすごく久しぶりで胸がドキドキする。

 子供のころはよくこうやって手をつないで歩いてたな。

 そんなことを思い出しながら、彼女に負けないように走り出した。

二十歳過ぎてから全力疾走すると翌日がつらいです……。

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