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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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43.お風呂はどこですか。

 部屋に戻ると荷物を枕元におろしてベッドに座る。クロはニャア、と鳴きながらベッドの上に飛び乗って足元のあたりでふにふにと前足を動かしている。


「疲れたね、クロ」


 そう声をかけると顔を上げたクロはご機嫌そうにニャア、と答える。

 なんだか表情が豊かになったような気がする。これも少し成長したせいかな?

 魔力量の計測のあと、一回り大きくなったクロは明らかに重さも増えてて、肩の上に載って頭の上にのしかかるポーズをするとずっしり頭が重くなる。

 かわいいしあったかいし、好きなんだけど肩こりそうだなぁ。

 そういえばお風呂ってあるんだっけ。浄化の魔法が使える人ばっかりならお風呂はなさそうだけど、初級クラスの子供たちがいるんなら、お風呂もありそうな気がする。

 部屋の外がにぎやかになってきた。ということはもうほかのクラスの授業も終わったんだろう。

 アリアさんのところに行ってみようか。

 そう思ってベッドから立ち上がって荷物を取り上げたところで入り口の扉が開いた。

 びくっとして振り向くと、制服のローブを着たルームメイト……テイルノールが立っていた。

 わたしと視線が合うと、あからさまに不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。


「……何?」

「あ、いえ、あの」


 緊張してしどろもどろになる。

 他の人と同室なことに慣れなくちゃとは思うけど、あからさまに悪意をぶつけられるとやっぱりひるむ。

 アンヌの店に住み込みしてた時は店の子たちが使ってた部屋とは別だったからそれほどつらくなかったけど。

 彼女は手早くローブを脱ぐと身軽な服装に着替えていく。かわいらしいミニ丈ドレスからズボンに履き替えたところでじろりとにらみつけられた。


「……何なの? あたしに用があるんならさっさとして。時間ないんだから」

「えっと……その」


 手にしたカバンを握りしめる。


「用がないなら人の着替え見てないでとっととどっかいきなさいよ」

「あっ……ごめんなさい」


 慌てて視線を逸らす。そうだよね。着替えをじっと見られるのはわたしも苦手だ。

 クロを抱き上げると出口に向かう。

 しょっぱなから嫌な思いをしたけど学院にいる限りは同室なんだし、せめて最低限の会話ぐらいはしたい。

 そう思って振り返ると、彼女はエプロンをつけて髪の毛を三角巾でまとめていた。

 なんでそんな恰好するんろうと思って、思い出した。アリアさんに罰掃除言いつけられてたっけ。

 それなら、もしかしたら知ってるかもしれない。


「……何よ」

「いえ、あの。……お風呂がどこか、知りませんか?」

「……はぁ?」


 彼女の顔にはくっきりはっきり侮蔑の表情が浮かんでいる。

 ああ、やっぱり。


「あんた、浄化もできないの? あっきれた。そんなのでよく学院入れたわねえ」


 うつむいて胸のあたりで手を握りしめながら、震えそうになる唇をかみしめる。

 この世界では魔力があれば幼いころから魔法の使い方を学ぶ。わたしのように魔力がありながら魔法を知らない人間はいないんだ。

 だから……アンヌの店の子たちやジェイドのようにすんなり受け入れてくれる人ばかりじゃないってことぐらい、最初からわかってたことじゃない。

 そんなことにいちいち傷ついたり後ろ向きになったりしないって心に決めたはず。

 わたしは顔を上げて苦笑を浮かべた。きっとひきつってるだろうけど、構わない。


「はい……まだ入門書をやってるところで」

「ほんとに呆れるわね。……風呂なんか使ったことないから知らないわ」


 となるとやっぱりアリアさんに聞くしかない。


「そうですか……ありがとうございました」


 一つ頭を下げると部屋を出た。


 ◇◇◇◇


「あれ……?」


 なぜか事務局の前に立っていた。

 移動の魔法でアリアさんの部屋を思い浮かべたんだけど、もしかしてアリアさん、事務局にいるのだろうか。

 事務局の人に聞こうかと思ったけれど、授業が終わったからか扉には鍵がかかっていた。

 そういえば、公的な場所は思い浮かべるだけで行けるんだっけ。

 もう一度目を閉じて、お風呂を思い浮かべながら一歩足を踏み出す。

 ふわりと回りの景色が変わった。


「え……?」


 今度はお風呂場らしい。元の世界でも見慣れた青いタイルが目に入る。ただし、あちこちにひびが入っていて、水気もない。使われていないことは一目でわかった。

 子供たちが使っているようには見えない。ほかにもお風呂があるのだろう。

 扉から外に出てみると、同じ青いタイルの脱衣所。さらに外へ続く扉を開けてみてもどこだかわからない。が、移動魔法が効いたということはここから別の場所への移動もできるだろう。

 もう一度、今度は温かいお湯の満たされたお風呂を思い浮かべながら足を踏み出した。

 水のにおいがする。

 それとともににぎやかな声が耳に飛び込んできた。ばたばたと走り回る足音、シャボンのにおい。

 脱衣所らしい場所にお風呂上りだろう子供たちがきゃらきゃらと走り回っている。


「あらあら、新人さんね?」


 子供たちの世話係らしい女の人が気がついてくれた。

 くすくす笑いながら脱衣所から外へわたしを押し出すと、女の人は隣を指さした。


「ごめんなさいね。ここは男の子専用なんです。女の子は向こう。ただね……今の時間帯は幼年クラスの入浴時間なの。あなたが行くとたぶん、子供の世話をさせられることになるけど、大丈夫?」

「えっ……」


 小さな子と一緒にお風呂に入って、お世話するの?


「それにね」


 女の人はエプロンで手を拭きながらちらりとクロを見た。


「ペットを連れての入浴はできないわ。もし一緒に入りたいなら、今は使われていないお風呂に行くしかないけど」

「それって……青いタイルの、ひびの入ったお風呂のことですか?」


 子供たちがいた脱衣所は床が大理石だった。こっちが新しく作られてから、向こうは放棄されたんだろう。


「あら、知ってるの? そう。そこなら普段誰も来ないし、ペットとお風呂に入りたがる人も少ないから」

「そうですか、ありがとうございます」


 頭を下げてお礼をいうと、早速あのお風呂へと移動した。


 ◇◇◇◇


 青いタイルのお風呂を一通り調べて、小さな浴槽だけはひび割れがないのがわかった。サイズはアンヌの店にあったあのお風呂ぐらい。

 お湯を貯めて、持ってきたシャンプーなんかを並べる。

 クロは相変わらず嫌がったけど、せっかくだからと湯船に一緒に入る。

 湯船で抱っこして気がついたけど、やっぱり一回り以上大きくなってる。

 前は肩に乗ってもずり落ちるようなことなかったし、お風呂だと桶がないと溺れそうだったのに。

 今日は普通に子供を抱っこするみたいに前足の下に手を差し込んで向こう向いた状態で入っても溺れない。


「クロ、ほんとにおっきくなったね」


 こういう入り方は嫌いじゃないのかな。ニャア、と返事をするけど嫌がって湯船から出ようとはしない。

 重量的には十キロぐらいあるんじゃないかな。長毛種のおっきくなる猫ぐらい。小型犬ぐらい?

 肩乗りはそろそろ卒業かなぁ。

 体も髪の毛もクロも洗ってさっぱりしてから部屋に戻る。

 やっぱりぽかぽかして気持ちいい。浄化を覚えてもやっぱりお風呂には入りたいな。

 できればもっと大きな浴槽が良かったけど、直し方とかわからないし……。こういうのも魔法でちゃちゃっとできればいいのに。

 明日時間があったらウルクに聞いてみよう。

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