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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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38.中庭と噴水 1

「そういえば、寮への移動は魔法かからないんですか?」


 一歩先を歩くアリアに声をかけると、彼女は巻き毛を揺らして振り向いた。


「いいえ? 寮からの移動も魔法がかかっているわよ。ただ、今は案内中だから魔法をリセットしているの」

「リセット?」


 驚いたように声を上げたのはジャックだ。


「そんなことできるのか?」

「ええ、ジャック先生。これは生徒代表にのみ許された特権なんですの。だから、新入生や新任の先生がいらしたときに構内を案内するのは私の役目ですわ」

「へえ、なるほどね。ウルクは知ってたのか?」

「んー、そういえば生徒代表だった子がよく呼び出されてたのは覚えてる。そっか、そういうことだったのね」

「まあ、それ以外にもいろいろ雑務がありますから、それだけではありませんけど」


 茶色いタイルを踏んで進む。時折混じる黄色いタイルは通せんぼしてるかのように横道の前に並んでいる。これが先ほど言っていた「入ってはいけない場所」の目印なのだろうか。

 そのうちの一つの前でアリアは立ち止まった。


「ここをまっすぐ行けば先生たちの寮があります。お部屋へは後ほどご案内します。まずはパートナーたちの登録をしましょう」

「登録?」

「ええ、お二人のパートナーはサイズが大きいので、こちらからは入れないんです。魔獣用に別の入り口がありますからそこを使えるようにします」

「外から直接あたしたちの部屋に入れるの?」

「へえ、それは便利だな。逆にそこからヴィルクと一緒に出掛けたり一緒に入ったりとかはできるのか?」

「ええ、もちろん。そのほうが便利ですから。こちらへどうぞ」


 アリアは渡り廊下を右に曲がった。その先は庭に続いているらしく、ピートが嬉しそうに先に走り出ていく。ヴィルクがよたよたと羽を少しだけ広げてバランスを取りながら歩いていく。

 アリアに続いて外に出ると、気持ちの良い風にさらされた。渡り廊下の中にはそよとも吹き込んでいなかったのも魔法の力だろう。館の中は完全に守られているのだ。


「気持ちいいわね」

「ああ。ヴィルクも喜んでる」


 アリアは庭の真ん中にある噴水に近寄った。流れ落ちる水音がきらきらと輝いて聞こえる。


「ではどうぞ。まずはウルク先生。パートナーに触れた状態で噴水に手を入れてください」

「ああ。ピート、来い」


 ウルクの言葉にしなやかに走りよると、ピートはウルクの差し出した手に鼻を押し当てた。優しく鼻づらをなでながら、ウルクは噴水に手を差し込む。

 アリアが短く呪文を唱えると噴水から水しぶきが上がった。


「もう大丈夫です。噴水がお二方を覚えました」

「噴水が? ということは水鏡の応用か」


 ウルクの言葉にアリアはにっこりと微笑んだ。


「さすがはウルク先生ですわね。その通りです。先生方の各部屋には水盤が配置されていて、そことこの噴水を繋いでるんです。部屋へ入りたいと思うだけで入れるようになりますわよ」

「今は無理なんだな?」

「ええ、まだお部屋に案内してませんから。あとでお部屋に入ってから存分に確かめてください」

「わかった」


 ウルクはうなずいてピートの背に手を置くと噴水の前から立ち退いた。


「ではジャック先生。同じように、パートナーに触れた状態で噴水に手を入れてください」

「おう。……こうか?」


 ジャックは近寄ってきたヴィルクの片羽根に触れながら手を差し込んだ。ウルクの時と同じように水しぶきが上がり、びっくりしたヴィルクがもう片方の羽根を羽ばたかせた。


「こら、落ち着けってば」

「彼は水が嫌いですのね?」


 くすくすとアリアが笑いながら言うと、ジャックはうなずいた。


「そうなんだよ。水浴びは好きなくせに。えっと、今のでよかったのか?」

「ええ、大丈夫です。ジャック先生も後ほど出入りを確かめてみてください」

「ああ」


 答えながらジャックは毛羽立てているヴィルクをなだめるように撫でまわした。


「さ、では生徒の寮に参りましょう。先生方はこちらでお待ちになりますか?」

「そうだな……」


 ヴィルクをなだめているジャックを横目にウルクがこちらをちらりと見た。

 明日からの話も少しは聞いておきたいし、いきなり一人になるのも心もとない。

 そんな思いが顔に出ていたのだろうか。ウルクはふんわりと微笑むとアリアのほうに向きなおった。


「いや、彼女の部屋を確認させてもらうよ。……君は我々二人が来た理由を知っているのだろう?」

「ええ、シオンの専属教師兼護衛、ですわよね。伺っております。シオンが力に見合う魔法を覚えて、上級クラスに入れるようになるまでは別室で授業を受けると」


 わたしはびっくりしてアリアを見つめた。


「なら話は早い。彼女については後見人から世話を頼まれていてね。何かあれば部屋に行く必要もあるだろうから」

「わかりました。では、ジャック先生はこちらでお待ちください」

「えっ、俺だけ?」


 驚いたようにジャックが振り向くと、ウルクは眉根を寄せた。


「あんたね、女子寮に入ろうっていうわけ? ぶっ飛ばすわよ」

「あ、女子寮ね。……行ってらっしゃい。おとなしくここで待つよ。ピートも預かろうか?」

「そうね。……じゃあ、お願い。ピート、ここでおとなしくしていて」


 ピートは耳を後ろに向けて嫌そうに首を振ったが、ウルクにたしなめられてその場に腰を下ろした。


「では、行きましょう。ジャック先生、すぐに戻りますから」


 アリアは渡り廊下に戻っていく。わたしもジャックとヴィルク、ピートに手を振って、後についていった。

続きは明日になります。ごめんなさい

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