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異世界猫と転生姫  作者: と〜や
魔術学院編

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37.着きました。 1

 門で入学許可証と身分証明の石を差し出すと、すんなりと通してもらえた。

 クロについてもちゃんと通達は行ってたらしい。首のリボンを確認され、一通りチェックされた後、行ってよろしいと手で示された。

 王宮の内と外を切り離している壁はかなり分厚い。というかたぶんこの壁の中も利用されているのだろう。

 確かどこか……ヨーロッパの城だったか、そういう構造の城壁だったと聞いたことがある。

 壁自体が分厚い上、壁の中に兵士の居住空間を作ることで壁をぶち抜いて侵入されるのを防ぐのが目的だったかな。

 もちろん兵器の貯蔵庫としても使えるし、食料の貯蔵庫としても使える。

 そして壁の上部には哨戒用に通路もあるという作りだ。

 この世界には魔法があるのだから、魔法で守れば、とも思うけど、魔法の障壁も展開したうえで、この分厚い壁があることでどうやってもぶち抜けないという心理的障壁にもなるのだろう。

 魔法は魔力が切れれば終わりだし、この世界に住む全員が強い魔力を持ってるわけじゃないことは知っている。もし何かあった時のための備えは、やっぱりしっかりしておくべきだ。

 でもこれ、魔王対策ではないよね……たぶん。

 あの圧倒的な力の持ち主を防ぐにはきっとこれでも足りないんだろう。

 ちょっと恐怖心がフラッシュバックして、腕の中のクロを抱きしめて立ち止まる。

 ニャア、と心配したように顔を舐めはじめるクロのおかげで少しずつ回復してくる。足の震えが止まったところでようやく顔を上げた。


「さ、行こっか」


 ニャア、と返事するクロをなでて、わたしは足を踏み出した。





 壁を抜けたところに人が立っていた。濃い臙脂のフードつきローブで頭からすっかり隠している。王宮の中ということもあって、至るところに衛兵が立っているのだが、衛兵も一瞥もしない。

 誰も気がつかないのだろうか。兵はすぐそばを通っても何も反応しない。

 誰かを待っているのかもしれない。

 声をかけてみようかと思ったけれど、人に見つからないようここに立っていること自体が何かの修行なのかもしれない、と思い直す。

 魔術騎士団のローブとは違うから、やっぱり学院の人なんだろうか。

 こちらを見ているわけでもないし、視線も感じない。

 まあいいか。

 それより、ここからどうすればいいのかがわからない。この道、まっすぐ行けばいいのかな。

 王宮の敷地内だって言うから王宮が見えるのかなと思っていたけれど、残念ながら見えない。

 壁の中は相当広いみたいだ。果てまで続く芝生にちょっとだけ絶望感を味わう。

 どこまで歩けばいいのだろう。

 でも、歩かなければどこにもいけない。

 何も見えないところにじっとしていたって意味はない。

 わたしは学院に入りにきたんだもの。

 とりあえず歩いてみよう。

 迎えが来るのかなとかちょっと期待してた分、がっかりした。

 こんなことならウルクと一緒に行けばよかったのかもしれない。

 迷ったりすることはなかっただろうから。

 わたしは顎を引くと足を踏み出した。





 一歩。

 たった一歩。

 踏み出した途端に目の前にクリーム色の壁と茶色の扉が見えた。


「え……?」


 びっくりして振り向くが、そこに王宮の城壁はない。あるのは石畳の道と、青々と茂る並木。

 何が起こったのか分からずにキョロキョロ見まわしてみる。仰ぎ見るほど大きい建物で、左右にずっと続いている。どうやらかなり大きな建物のようだ。

 がたんと音がして、扉の方を見ると、開いた扉の隙間から黒いローブの人が出てきた。ウルクでもない、ジャックでもない。

 金髪の巻き毛を両肩に垂らしたその人は、わたしよりも幼く見えた。この世界でわたしより幼いということは、たぶん八歳ぐらいの子どもだろう。女の子だと思うけど。

 その子はニッコリ微笑むと、階段を降りてわたしの方に歩み寄ってきた。


「早かったのね。びっくりしちゃったわ。あの結界を一歩で越えるなんて人、今までいなかったもの」

「え……」


 結界?

 何もないように見えたのは魔法で目くらましをかけられていたのだ。


「壁をくぐったところで何か見なかった?」


 彼女が目の前に立つ。今のわたしとほぼ同じ視線の高さだ。エティーファと同じぐらいだろうか。とすると十歳ぐらいだ。

 何か、というのはあの臙脂色のローブの人のことだろうか。

 黙っていると、彼女は首を傾げた。


「あら、気がつかなかった?」

「え、いえ。あの……臙脂色のローブの人のことでしょうか」


 そう答えると途端に彼女は顔を曇らせた。


「臙脂色? そんなローブの色は聞いたことないけれど。ここのローブはみんな黒よ?」

「え?」


 彼女は不意に懐から何やら取り出すと口に当てた。勢い良く息を吸って吹いたそれは鋭く切り裂くような笛の音を鳴らした。

 バタンと扉や窓が開かれて、黒いローブの人たちがぞろぞろ出てくる。


「不審者が侵入した。臙脂色のローブの人物。目撃地点は壁周辺」


 怖い顔をしたままおう、とかはいとか口々に言って、黒ローブの集団はすごい勢いで散り散りに走っていった。


「あの、一体」

「ごめんなさいね。貴方が見たのは不審者なの。最近時々侵入されているみたいで、皆ピリピリしてるの」

「王宮の中なのに……?」


 すると彼女は苦笑を浮かべた。


「ええ。内側から手引されると無意味なのよね。さ、行きましょうか。入院の手続きをしましょう。それに、あなたは大事な目撃者だし、話を聞かせてくれる?」

「はい」


 促されるまま、わたしは階を上がる。

 この人は、もしかしたら見た目通りの人ではないのかもしれない。あれだけの人が一斉に従うのに、十歳の子供であるはずがないよね。

 とすると、わたしと同じくエランドルの人たちとは違う種族の人なのだろう。

 大きく開かれた扉をくぐると背後で扉は閉まった。


「ようこそ、魔術騎士団付属学院セントラルへ、シオン」


 振り返った金髪の少女はニッコリと微笑んだ。

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