35.学院に入ります。
朝、届けられた荷物を確認する。ウィレムはちゃんと約束を守ってくれたようで、メディアの本がちゃんと収められていた。
いつも通り、Tシャツとスボンの上にローブを羽織る。
学院に入ったら制服が支給されるらしいので、それまではこれで凌ぐ感じかな。
正式なローブの着方とかもあるらしいんだけど、とりあえず上から羽織るだけでそれらしくなるから助かってる。
でも、ルームウェアの上にそのままローブ羽織ってるだけだし、もうちょっとマシな部屋着も欲しいし。
ああそういえば、泊まってたあの豪華な宿で下に着るものは一組だけ買ったんだった。
さすがに高級な宿だけあって、素材も肌触りも最高だった。
値段見た時には気が遠くなったけど。
……だって、アンヌの店でランチが三百回は食べられるんだよ?
貧富の差がこんなところにも、とか思っちゃった。
ノックの音にわたしは顔を上げた。
「シオン? そろそろ出るわよ」
ウルクの声だ。そういえば同じ並びに部屋をもらってたんだった。
鞄を取り上げて、擦り寄ってくるクロも抱き上げてわたしは部屋を出た。ウルクは今日は魔術騎士団の正装らしく、黒のローブに金の飾りがつけられている。飾り帯もいつもと違い、白い。
「おはようございます」
「おはよう。もう食事は済ませたわね?」
「はい」
「じゃ、行こっか。領主様にご挨拶していくでしょ?」
「はい、お礼も言いたいし……あの、ジャックさんは?」
「ああ、ジャックはヴィルクとピートのところで待ってるって」
「そうですか、わかりました」
ウルクの後を歩く。ここの館はそれほど複雑な造りをしていない。
「その格好、正装ですか?」
「これ? そう。魔術騎士団の正装で、今日はあたしもジャックも学院の任命式だからね。ジャックも王国騎士団の正装してるよ」
「任命式?」
「そう、学院の教師に任命されるんだよ。あとガルフ隊長も」
「ガルフさんも?」
「臨時の講師なんだけどね、一応任命式はやらないと行けないらしい。決まりだって。たぶん、宣誓でもさせられるんだろうと思うけど」
「宣誓って」
「あたしらは騎士団だから王国に対しては忠誠を誓っている。それと同じように学院に対しても忠誠を誓えってことなんじゃないかな。それと守秘義務の宣誓。あそこには様々なお偉いさんの子女が集まってるし、どんな醜態を目にするかわからない。三歳から入ってる子が粗相するのは仕方がないだろう? それを言いふらすなってこと。口にすれば契約違反で罰が下るってところかな」
ウルクはなんともない風に口にする。そんなにシビアなところに無理やり入らせてしまったのはわたしのせいなのだ。
ちらりと不安になってウルクを見上げると、彼女は足を止めてわたしの頭に手を載せた。
「まーた自分のせいだとか思ったわね? 自分で選んだことだから。シオンのせいじゃないから」
「うん……」
ウルクがこう言ってくれるだろうことは予想できていた。
「さぁ、さっさと領主様にご挨拶して、学院行こっか。きっとあちらもなかなか来ない新入生にやきもきしてるに違いないから」
ウルクの口調が妙に可愛らしくて、わたしはつい吹き出した。
「その顔」
「え?」
「シオンは笑ってなさい。なんかリドリス辺境伯に妙に気に入られてるみたいだけど、あんまり気にしないでいいと思うよ。気負わないこと。それに、あたしもジャックもガルフ隊長だっているんだから、何か心配事とかあったらさっさと相談しに来て白状しなさい。一人でぐだぐだ考えてても、大抵いい結果にはならないんだしね?」
「はい」
ウルクの言葉が嬉しくて、つんと鼻の奥が痛くなった。
「ほら、泣かない。あんたってばほんと、感情を表に出すのが苦手ねえ。いつもそれぐらい素直に出してればいいのよ。しかめっ面してないで」
「……うん」
泣きそうな感情の波をなんとかいなして、わたしは微笑んだ。
「それでは、よく勉学に励むように」
ウィレムへの挨拶はさくっと終わった。一応わたしが行方不明になった件の説明と、その後の顛末をかいつまんで説明してもらったけど。
結局わたしを迎えに来た王国騎士団第一隊の隊長オーファンは更迭、残る二人も降格処分されたそうだ。
気の毒だとは思うけれど、ウィレムと一緒にここまで来る予定を王命を振りかざしてねじ曲げたうえ、そのまま放置とかやっぱりありえないもの。わたしとしても迷惑をかけられたわけで、無罪放免にはできなかっただろう。
宿への支払いは迎えにきたジャックさんがしてくれたらしい。いくら支払われたのか知りたいような知りたくないような……。知らないほうがきっと精神の安寧が得られるに違いない。
そして、あの時、王都の門で出迎えたという学院の使いについては、学院の生徒及び職員は全員の潔白が証明され、完全に偽物だったことが確認された。
部屋を辞すと、わたしは大きく息を吐いた。やっぱり緊張はしていたみたいで、体がばきばき言っている。でも、なんだかスッキリした気分だ。
ウィレムの館に連れてこられてからの一ヶ月あまり、行動の自由も制限されていたし、やっぱりストレスになってたんだな、と実感する。
これで自由だ。学院に入るとしても、あの息詰まる感はないに違いない。
「挨拶も済ませたし、ジャックのところに行こうか」
「はいっ」
わたしは元気よく返事をして頭を上げた。




