13.スカウトされました 2
本日は二話更新です。
13.スカウトされました 1を未読の方はそちらからお読みください。
「どうしよう……ねえ。クロ」
部屋に戻るとベッドは綺麗にベッドメイクされていた。今日の夜にでも出ていこうと思っていたのに、なんでこんなことになったんだろう。
隣の部屋に行き、お風呂の準備をする。クロは眠そうにしてたけど、お風呂と聞いてついてきた。いつものように桶に入れて蓋の上に置いてあげる。
お湯を張って体を沈めると、ようやく指先のちくちくした痛みが和らいだ。針でつついたような痛みって実際に刺されてないのにいつまでも幻影のように痛みが残るのね。知らなかった。
「クロ、色々大変だったね。一緒にあったまろ?」
ニア、と鳴くクロを桶のまま湯船に沈める。暖かいお湯が桶に入ってちょっと暴れるけど、すぐ慣れた。濡れた手で喉のあたりをかくとゴロゴロと喉を鳴らす。鼻を近づけるとクンクンと匂いながら鼻先を舐められた。ザリザリした舌の感触がちょっとだけ心地よい。
うん、これが猫でなくてなんだというのよ。魔獣? そんなの、関係ないじゃない。
クロはわたしの最初の仲間なんだから。
首に巻かれてしまった飾り紐をそっと撫でる。本当はこんなものもつけたくなかった。でも、これがないと魔獣として駆逐されるっていうんだもの。
「ごめんね、クロ。ほんとは嫌だったんじゃない?」
首を傾げてクロはわたしの顔を見る。真っ黒な毛並みにオレンジと白のストライプ柄はよく似合っていた。わたしも同じような色のリボン探してみようかな。
「いいお湯……」
ぬるすぎず熱すぎずちょうどいいお湯だ。
そういえば、下に降りる前にアンヌに浄化の魔法、かけてもらったんだっけ。すっかり忘れてた。でも、こうやって湯船で体を伸ばしたほうがやっぱり気持ちいい。
「アンヌはわたしのこと、引き止めたりはしなかったよね」
ここから出ていこうと荷物をまとめているのを知っても、特に引き止めはしなかった。それはそれで微妙に寂しい気分ではあったけど、いつまでもここにお世話になる訳にはいかないってわたしも思ってた。
うん、もともと長居するつもりはなかったもの。
「魔法騎士団かぁ……そりゃ、元の世界に戻る方法を探るには、どうにかして魔術師見つけて、協力してもらってって思ってた。でも、わたし自身がそうなるのもありなのよね……。王都にあるなら、図書館で情報探すのもできそうだし……」
出身も身分も性別も年齢も関係なく実力で判断してもらえる。それなら今のわたしでも生きていける。場所をもらえるということがどれだけ心強いか、わたしはこの世界にきて思い知った。
「問題は、このチートよね」
手をかざして湯を願えば出てくるお湯。呪文も魔法陣も何も要らない。思い描く通りに発動する魔法。
「普通の魔術師じゃありえないもんね」
ぺろり、とクロが鼻先を舐める。
「まあ……いっか。まだ当分ここにいるって言ってたし」
気疲れというのだろう。体は全然動かしていないのに、なんだか頭の中が空っぽだ。体もクタクタで動かしたくない。
足の先からどろどろに溶けていってしまいそうなくらい眠い。
重たくなってきた瞼に逆らえず、わたしは目を閉じた。
クロがニャア、と鳴いてるのが遠くから聞こえた。
目覚めるとベッドの中だった。寝間着に着替えて、ちゃんとお布団の中にいる。もぞもぞと体を動かすと、布団の中からニャア、と声がした。
布団をめくるとクロが顔を出してわたしの鼻先と口をぺろぺろ舐める。汗かいたみたい。
「クロ、おはよ」
ニャア、といつもの挨拶をして。起きようとして今日もまだベッドで安静にするようにって言われてたのを思い出す。
うん、夕べの疲れは綺麗に取れたみたい。お風呂にのんびり入ったおかげかな。
あれ、でもお風呂から上がって着替えてベッドに入った記憶がない。もしかしてアンヌが運んでくれたのかな。あの時間に店の子たちは入ってこないし、他の人も来るはずがないよね。
お酒飲んだわけでもないのに、記憶がなくなるなんてね。
「もしかして、クロがお風呂から運んでくれたの?」
くすくす笑いながら言うと、クロはニャア、と鼻を舐めてくれた。
「まさかね。さ、下に降りて朝ごはんもらってこよっか」
ニャア、とクロはやっぱり鳴いた。




