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F-決心

ずっと隠していた、大金の入ったマネーカード。だが、金広と石動は何故かその存在を知り、突如暴力で奪おうとした。困惑する氏家。しかし、そういう時には必ず、救世主が現れるものだった。地に伏す氏家の下へ久世晴佳が現れるが……様子がおかしい。彼女らしい覇気がまるでなく、弱々しい。二人は暴虐を尽くし、彼女の宝物すら奪っていった。突如訪れた地獄。彼は打ちひしがれたまま寮に帰るが――そこで知った真実は、大きな衝撃を与える。

「衝撃! 御舟学園への宣戦布告か? 謎のメッセージ! 」


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―コメント一覧―

15:Anony

 大事件のニオイ。人々を管理しようとする政府への叛逆だ!


18:Anony

 爆破テロはまだですかー?


19:暇人マン

 >>15

 通報完了


22:Anony

 どーせ酔っぱらいの悪戯だろうな。前みたいに。


23:Anony

 気を付けろー事件を握りつぶそうとしている勢力がいるぞ―


27:UZI

 購買部や食堂に食料を配達する業者がいる。


29:Anony

 この記事色んなとこ転載されてんのな


31:Anony

 ネットだけこんな騒いでるな、温度差。


35:家

 そいつらのカードをなんとかすればもしかしたら


39:Anony

 嵐大杉


45:ALIEN

 こっちの店は24時間制。深夜に運ぶところも少なくないから、隙があるとすればそれ


52:Anony

 管理人規制しろー!


53:ALIEN

 がんばってくれ


 …………………………


 蝿の王という小説があった。

 内容は、十五少年漂流記を悪意たっぷりに咀嚼して吐き出したようなもので、無人島に漂流した少年たちが互いを憎しみ合い、殺しあうといったものだった。

 感想文を書かなくちゃいけなくて、適当にそれっぽい文学を、電子図書館でレンタルしようとしたのが出会いだった。

 僕はこの小説が嫌いだった。

 どうしてわざわざこんな胸糞が悪くなるような構成にしたのだろうか。

 主人公も、敵対するリーダーも、それに追従する奴らも、登場人物みんなが嫌いだった。

 誰かが威張って誰かが従って誰かが虐げられる。共通しているのは、誰もが傲慢だったということで。

 僕は、このどれにもなりたくないと思った。

 どうしてこれほど嫌っていたのだろうか。

 今考えると、あの本は、どうしようもなく現実を暴いていたから、目を背けたかっただけなのだろう。

 虐げられる側になって、やっと分かった。




 ニュースサイトに最後のコメントをポストして、PDAを閉じた。

 それと同時に、こいつが語っていた数々の物語が蘇る。

 この社会の闇と向き合って、それでも自分で闘うことを決めた人々を思い浮かべる。

 ――おばあちゃんとの、約束、かな。

 僕は所詮負け犬だ。誰に、どんなことをされようと、決して自ら吠えようとはしない。

 だけど、あいつらは。

 久世さんに、手を出した。

 あの懐中時計に、どれほどの価値があるのかは知らない。

 だけど、僕は。

 あいつの物語が、なんらかの影響を及ぼしたのかもしれない。

 本当に存在すると知って、それまで虚ろだったものに肉が付いて、僕の内面に息づいた。

 逃げいてたツケを、少しだけ払わないといけない。

 久世さんの時計を、必ず取り戻す。

 それが、僕の戦いだ。

 

 ベランダにでると、昨日と同じような、蒸し暑い夜の風が吹いた。

 空に向かって、火傷の跡の残る右手を伸ばす。

 その掌に、一匹の虻が止まった。

 と、みるみるまに虻の体組織がどろどろと溶け肌色に色彩を濁らせていって、完全に皮膚の中に吸収された。

 ちっぽけな虫、一匹分の栄養と、情報(、、)が身体に入り込んでくる。

 僕の【バイオス】は、肉体を虫へと変換し、また、変換した虫を肉体へと戻すことができる。

 これで、それほど大きくない傷なら塞ぐことができ。

 虫が見たり聞いたりした情報すらも取り込むことができる。

 ――そう、あの時。

 二人が立ち去る時、金広の制服に、虻を付けておいた。

 虫を出しても、一度身体に戻さなければならないので、偵察に使うにしてもその分のタイムラグがネックとなる半端な力だったが。

 お前らの行方を探るには、十分すぎた。

 瞼の裏に、断片的な映像が流れる。

 建物。道路。太陽。建物。笑い声。マント。階段。制服。人達。雑音。

 多すぎる情報がいっぺんに注がれ、少し目眩がする。

 それらを整理することができず、細かいことはわからなかった。

 ……だけど、見つけた。

 部活棟のある地区の、奥まった場所の建物。

 二人は最後、この中に入って出てこなかった。

 目を開け、向かうべき場所を見る。

 時計を探して、帰って、久世さんに返す。

 そうだ、それは宣言なのだ。

 彼女を巻き込んだりするな、という。

 もう逃げない。

 僕は、お前らと、真っ向から闘う。

 これは、とても重要なことだ。

「よし」

 寮のみんなに気付かれないように、静かに扉を開けて、僕は出て行った。

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