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A-氏家則明

新章です。御舟潜入編となります。主人公の活躍はちょっとだけ遅れてになる予定です。しばらくは氏家くんの活躍に期待して下さい!

できれば、是非感想などを頂けるととてもとても嬉しいです。ご協力よろしくお願いいたします.

 氏家則明は木陰に倒された。

 ずきずきと腫れる頬を触り、自らをこんな目に合わせた輩を見上げた。

「あ? なんだその目? ウジ、てめえ俺らに反抗するのか?」

「まあまあ、イッシー。かっかするなよ」

 彼を見下ろし嘲笑うのは、二人。

 金広涼と石動陽太だ。

 大きな体格の少年は、金広が宥めたにも関わらず、憮然とした表情で氏家に手を向けた。

「【キネシス】」

 そう呟いただけで、氏家の小さな身体がみしみしと音を上げ、全身を締め付けられる。

「ぅぅ……!」

「糞みてえな【バイザー】が、俺らに喧嘩売ってんのか? ウジ、答えやがれ!」

「ハハハ! イッシー。駄目だよ、そんなに締めたらなにも喋れないじゃないか。やるんなら、もっと」

 そして金広が手を構えると。

「情熱的に。――【ウェイズ】」

 その言葉と共に。

 見る見る間に、氏家の全身が炎に焼かれた。

「ぁぁあああああああああ! 熱い熱い熱いあづい!」

「アハハハハハハ! アッハハハハハハハ!」

 燎原の火のように燃え広がり、貪欲に彼の皮膚を覆った。

 熱の責苦から逃れようと、氏家は地面を転がり跳ねとにかくもがいた。

 そんな無様な姿を指さし嗤う悪鬼が二人。

 石動は【キネシス】の能力者ホルダー。レベルはⅠである。

 そして金広は【ウェイズ】と【キネシス】の二つ持ち(セカンズ)。レベルⅡ待遇を与えられている。

 レベルこそが、この学園においては絶対であった。

 二つ持ちはそれだけで天才と称され、選ばれし者の人生を約束される。

 学園としても、多少のことでそれら天才の将来を潰すわけにはいかず、自然と優遇することが多くなる。

 例えば、こんないじめくらいなら見逃してくれるくらいに。

「氏家! ほらそろそろあの気持ち悪い魔法を使わないとホントに死んじゃうよぉ? アハハハ!」

 人の身体で燃え上がり、火勢を増す炎。

 その中で延々と焼かれる氏家の体表が、突如ぽろりと剥がれた。

 それから次々と皮膚が零れ落ちていく。

 完成したパズルをひっくり返したみたいにして、火が踊る皮膚が剥がれると。

 その中からは火傷一つ無い氏家の姿が現れた。

 その様子に、軽く口笛を吹く金広。

「流石『御舟』の制服。これくらいの炎じゃあ焼けないか。次はもっと強い炎じゃないとね。……それにしても」

 そう言って、彼は鼻を摘んだ。

「嫌な匂いだ。虫をバラ撒く【バイオス】なんて……汚いねえ」

 そう。氏家の身体から落ちた皮膚は全て虫に変化していた。

 蜻蛉に甲虫に飛蝗に蜘蛛に蝉に蟋蟀に。種類はバラバラだったが、総じて虫に変化していて、未だ燃え盛る炎にもだえていた。

 これが彼の【バイオス】。身体から自由に虫を生み出すことができる。

 そして同時に、これこそが不遇の理由でもあった。

【バイオス】は身体をコントロールする超能力である。しかし、言い換えればそれは肉体の鍛錬の延長線上の力である。人知を超えた存在を自負する他の能力者からは軽視されやすい傾向にあり。

 しかも肉を虫に変換する能力なんて、侮蔑の対象でしかない。

 反撃をする術を持たぬ彼は、ただただリンチを耐えるしかなかった。

 金広は、手を差し伸べた。

「今日はもう飽きたかな。じゃ、ウジ」

「……その、もう」

 氏家は、首をふる。

 にっこりと微笑み、彼は。

「イッシー」

「応!」

 石動が大きく振りかぶり――拳を撃った。

 拳の先から濃密な衝撃派が撃ち出され、氏家が吹き飛ぶ。

「が――――あッ――――!」

 草むらに打ち付けられ、内臓に痛みが走る。

「ガハハハハ! いいねえ……そういうお前の顔、大好きだよ」

「意地貼るのもそれくらいにしときなよ。そら」

 今日こそは。

 今日こそは最後まで足掻こうと決めていたのに。

 リアルな痛みに氏家は早くも怯えてしまい。

 震える手で財布を出し。

 マネーカードを抜き取った。

「そうそう。それでいいんだよ」

 金広はにっこりと微笑み、それを奪い取った。

 マネーカードを口に当て、悪戯っぽく彼を見やる。

 身体は煤に塗れ、衝撃波と墜落の痛みがまだ残り、ひくひくと震えている。

「じゃあね。また明日――」

 そうして彼らは立ち去ろうとした。

 その時。

「あんた達!」

 寮の裏口から、こちらに向かってくる人影があった。

 その人物はスカートを揺らしながら近付いてくる。

 金広と石動は眉を顰めた。

「久世……」

 その女生徒――久世晴佳は彼らと対峙した。

 長い黒髪に、赤いカチューシャをとめている。

 彼女は、鋭い目付きで金広が指に挟むマネーカードを見やった。

「金広くん。そのマネーカード、返してあげなさい」

「……いやいや? なにを仰ってるやら? これは僕のだけど?」

「そんな嘘よく言えたわね! 氏家くんからとったんでしょう、いいから」

「おいおいおいおい。証拠も無いのによく言い切れるねえ。これじゃあどっちが泥棒かわからないよ」

「あなたねぇ……!」

「聞けばいいじゃないか」

 金広は、そう言った。

 悪魔のような笑みを浮かべ、氏家に顔を向けた。

「氏家くん。そこでなにをしてるのかわからないけれども。このカードは間違いなく僕のだよね? 違うかい?」

 そんな馬鹿みたいな質問。

 正直に言おうか。そしたらこのカードは返ってくるかもしれない。

 だけれど。

 明日はどうだ。

 そう考えるだけで、心が凍るような恐怖に襲われる。

「氏家くん! 正直に答えて!」

「アハハハ。さて、どうなんだい?」

「僕、の……」

「うん?」

「それは……僕の……」

 氏家は、草をぐっと掴みながら。

「…………カードじゃありません」

 金広は満足したように頷く。

「それじゃ、久世さん」

「アホな女だ」

 彼らは笑いながら、その場を去っていった。

「……あいつら!」

 ぎりりと歯を噛んで背中を見送る。

 その怒りを保ったまま、彼女は氏家の元までずんずんと歩いてきた。

「氏家くん! どうして!?」

 久世の白く細い指が、土に汚れた氏家の手に絡みついた。

「どうしてあんな嘘を?」

 そんなことを聞いてくる。

 彼にとってはわかりきったことだけど。

 どう説明したらいいのかわからない、から。

「怖かった、から」

 そんな丁度いい妥協で済ませた。

 大きくため息をつく久世晴佳。

「氏家くん。また困ったことがあったらすぐ相談して。あんなこと許しちゃ絶対駄目なんだから」

「……うん、ありがとう」

 氏家は溶けかけた眼鏡を直し、返答した。

 彼女の大きな瞳を直視することができず、少し目を逸らす。

 そんな少年の心境を知ってか知らずか、ぎゅっと手を強く握り、立ち上がらせた。

「保健棟行こ。早くしないと委員の人帰っちゃうかもしれないよ」

「あ……く、久世さん」

 そして氏家は、久世に手を引かれ、よたよたと歩き出した。

 ――どうして、この人は、僕なんかに優しくしてくれるのだろう。

 とても不思議に思うし、聞いてみたいが。

 それを口にすると、この関係が壊れてしまうかもしれないだなんて考えると、とてもできなくて。

 彼は今日も黙って、傷だらけになっていた。


 そんな日がいつまでも続くはずもないのに。

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