遭う
噂は聞いたことがあった。
「キミ、なかなか上手いわね」
彼女はシニカルに笑う。
『放課後誰もいない音楽室から誰かの歌声が聞こえてくる』
全く信じていなかった訳ではなかった。
「じゃ、これは素敵な演奏のお返しね」
彼女は静かに目を閉じて、凛とした音を紡いでいく。
どこかで聞いたことあるような美しいメロディだった。
彼女は唄いながらゆっくりと歩み出す。
僕が弾いていたグランドピアノをすり抜けて。
まるで其処に存在しないかのように。
唄い終えた彼女は、くるりと僕の方を振り向く。
「キミ、名前は?」
僕はあまりの非現実に逆に冷静になっていた。
「――――――――――2年B組、三浦 秋人」
「ふーん、ミウラ アキヒト・・・・」
彼女はすとん、とグランドピアノに腰を掛け、華奢な足をぶらぶらとさせた。
「アキヒト・・・・うーん・・・アキたろー・・・アッキー・・・・」
途端、彼女の瞳が輝く。
「アッキー!!!うんっ、いいわね!!よしっ、キミは今日からアッキーよ!!!」
彼女は嬉しそうに僕を指さす。
「――――――私は草薙 恭子。元2年A組よ。よろしく、アッキー!!」
彼女が笑ったとき、僕は思わず目を細めた。
はっきりと言うと彼女は美人だ。ストレートの黒髪は風が起こるたびさらりと妖艶に輝く。頬は薄桃色に染まり、笑うとぱちくりとした瞳が楽しそうに微笑む。思わず見とれてしまうのだが、僕が目を細めたのはそれが理由ではなかった。
単に、彼女の華奢な体を透き通ってオレンジに輝く太陽が眩しかっただけのことである。
あまり長くならないとは思いますが、連載と致します(*^^)
なるべく早く更新しようと思います(`・ω・´)ゞ