「お前を愛することはない」と王子が仰るので、平伏させてあげますわ
「ソフィア! 私がお前を愛することはない!」
パーティー会場の真っ只中。
第一王子ルシアンは、大勢の貴族の前で私に冷酷な言葉を言い放った。
愛のない政略結婚から半年後、王族にはよくある話だ。
夫婦になっても相変わらず高圧的な彼だが、ドSな元公爵令嬢の私は黙っていない。
「……殿下、そのお考えを変えるおつもりはないのですか?」
「ふん、当然だ! 貴様のような女を愛するわけがなかろう!」
「ふふふ、わたくし固有スキルがありますのよ? 本当に大丈夫ですか?」
私の問いかけに、王子は鼻で笑った。
「ハッ、脅しのつもりか? この俺には王家に伝わる絶対防御スキル『王家の威光』がある! どんな攻撃、魔法だろうと、この俺の体に傷つけることなど一切不可能なのだよ!」
なるほど……物理的なダメージは受け付けない、と。
私はゆっくりと……固有スキルを発動させた。
『言語掌握』
「フン、何度でも言ってやる! お前を――」
威風堂々と叫ぼうとした王子だったが、その口から飛び出したのは予想外の言葉。
「お前を愛することはないでちゅ!」
「……はい?」
会場にいた貴族達が、一斉に首を傾げる。
ルシアン自身も、自分の口を押さえて目を丸くした。
「な、何でちゅかこれわ!? 口が勝手に……くっ、何故か無性におミルクが飲みたいでちゅー!!」
「ふふふ、私のスキルは、対象の発言を強制的に『赤ちゃん言葉』に書き換えるのですわ。そして行動や欲求まで、その言葉に寄ってしまうのです」
バタバタと地足を踏み鳴らし、ハイハイしそうな勢いでぐずる王子。
「おのれぇぇ! 怒ったでちゅー! 許さないでちゅー! ばぶーっ!」
「まあまあ、そんなに泣かないで。夜会でハイハイされては目障りですわね。では、別の言語に変えて差し上げましょうか?」
『言語掌握』
すると、王子のまとう雰囲気が一変した。
「わ、わしを元に戻せ! ばっかもーんッ!!」
「……殿下?」
「なんだ、急にお酒が飲みたくなってきたぞ。おい、なあマスオくん」
王子は、すぐ後ろで控えていた自身の執事の肩をぽんと叩いた。
幼少期から王子に仕えてきたベテラン執事は、静かに深く一礼する。
「殿下、私はマスオではございません。セバスチャンでございます」
「なにを言っておるんだマスオくん! 早く家に帰ってビールを飲むぞ! いいじゃないか今日くらい!」
昭和の頑固親父よろしく、セバスチャンの肩を揺さぶる。
だが、スキルの効果は言葉と行動だけにとどまらなかった。
「ふふふ、そろそろかしら。仕上げの時間ですわね」
私は更にもう一段階、スキルの浸透度を深める。
すると――バササササッ!!
「うわああああっ!?」
夜会会場の眩い照明の下で、王子の自慢の金髪が一瞬にしてフワフワと抜け落ちた!
王族の象徴であった美しい金髪がフロアへと散らばり、一瞬で王子の頭部は光り輝くツルツル状態に。
そして頭頂部の真ん中にだけ、一本の太い毛が寂しそうに『ぴょこん』と立ち残った。
「うわぁ!? 髪が! 髪が抜け――……ぬ? ぬうう……?」
頭を抱えようとしたルシアン王子だったが、頭頂部に残った一本毛に触れた瞬間、なぜか急に表情が和らいだ。
「ふむ……? なぜかしっくりくるぞ? むしろこの一本毛こそが、わしのアイデンティティのような気がしてきた……」
「ふふふ、言葉とキャラクターに引っ張られ、ついに頭部(見た目)まで完全に適応しましたわね」
会場内の貴族達は、もはや静観を決め込む余裕はなく、誰もが腹を抱えて震えている。
私は十分に満足したため、ゆっくりと指を鳴らした。
『言語掌握』――解除。
「はっ……!? あ、言葉が元に戻っ……て、え? なんでこんなに頭上が涼しいんだ……?」
違和感を感じた王子は、セバスチャンから手鏡を奪い取り、己の姿を映し出した。
鏡に映っていたのは、ツルツルの頭頂部にぽつんと一本だけ毛が生えた、情けない男の顔だった。
「ひやあああああああッ!? 嘘だろぉぉぉぉッ!? 私の自慢の金髪がァァァッ!!? 頭の上に一本しか残っていない!!? なんだこの一本毛はぁぁぁッ!?」
「あられも無き叫び声を上げないでくださいませ、ルシアン殿下」
私は手鏡を見てのたうち回る王子を、冷ややかな視線で見下ろした。
「……さて、ルシアン殿下? まだ私に『お前を愛することはない』と言えますかしら?」
頭の上の圧倒的一本毛をぷるぷると揺らしながら、王子はその場にへたり込み、地べたに頭をこすりつけた。
「申し訳ございませんでしたぁぁぁッ!! 私が間違っておりました! 愚かなのは私です! どうか、どうか私の髪の毛と威厳をお戻しくださいぃぃッ!!」
「ふふふ……まあ、反省されたのなら考えて差し上げますわ」
こうして、高圧的だった王子は完全に改心し、会場にはスカッとした盛大な拍手が響き渡るのであった。




