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立場逆転シリーズ

「お前を愛することはない」と王子が仰るので、平伏させてあげますわ

作者: 黒の課長
掲載日:2026/10/26

「ソフィア! 私がお前を愛することはない!」


 パーティー会場の真っ只中。

第一王子ルシアンは、大勢の貴族の前で私に冷酷な言葉を言い放った。


 愛のない政略結婚から半年後、王族にはよくある話だ。

夫婦になっても相変わらず高圧的な彼だが、ドSな元公爵令嬢の私は黙っていない。


「……殿下、そのお考えを変えるおつもりはないのですか?」


「ふん、当然だ! 貴様のような女を愛するわけがなかろう!」


「ふふふ、わたくし固有スキルがありますのよ? 本当に大丈夫ですか?」


 私の問いかけに、王子は鼻で笑った。

「ハッ、脅しのつもりか? この俺には王家に伝わる絶対防御スキル『王家の威光(ロイヤルオーラ)』がある! どんな攻撃、魔法だろうと、この俺の体に傷つけることなど一切不可能なのだよ!」


 なるほど……物理的なダメージは受け付けない、と。


 私はゆっくりと……固有スキルを発動させた。

 

 『言語掌握(ワードロック)』



「フン、何度でも言ってやる! お前を――」

威風堂々と叫ぼうとした王子だったが、その口から飛び出したのは予想外の言葉。


「お前を愛することはないでちゅ!」


「……はい?」

会場にいた貴族達が、一斉に首を傾げる。


 ルシアン自身も、自分の口を押さえて目を丸くした。

「な、何でちゅかこれわ!? 口が勝手に……くっ、何故か無性におミルクが飲みたいでちゅー!!」


「ふふふ、私のスキルは、対象の発言を強制的に『赤ちゃん言葉』に書き換えるのですわ。そして行動や欲求まで、その言葉に寄ってしまうのです」


バタバタと地足を踏み鳴らし、ハイハイしそうな勢いでぐずる王子。

「おのれぇぇ! 怒ったでちゅー! 許さないでちゅー! ばぶーっ!」


「まあまあ、そんなに泣かないで。夜会でハイハイされては目障りですわね。では、別の言語に変えて差し上げましょうか?」


 『言語掌握(ワードロック)』



 すると、王子のまとう雰囲気が一変した。


「わ、わしを元に戻せ! ばっかもーんッ!!」


「……殿下?」


「なんだ、急にお酒が飲みたくなってきたぞ。おい、なあマスオくん」

 王子は、すぐ後ろで控えていた自身の執事の肩をぽんと叩いた。


幼少期から王子に仕えてきたベテラン執事は、静かに深く一礼する。

「殿下、私はマスオではございません。セバスチャンでございます」


「なにを言っておるんだマスオくん! 早く家に帰ってビールを飲むぞ! いいじゃないか今日くらい!」


 昭和の頑固親父よろしく、セバスチャンの肩を揺さぶる。

だが、スキルの効果は言葉と行動だけにとどまらなかった。



「ふふふ、そろそろかしら。仕上げの時間ですわね」

私は更にもう一段階、スキルの浸透度を深める。


 すると――バササササッ!!


「うわああああっ!?」

夜会会場の眩い照明の下で、王子の自慢の金髪が一瞬にしてフワフワと抜け落ちた!


 王族の象徴であった美しい金髪がフロアへと散らばり、一瞬で王子の頭部は光り輝くツルツル状態に。

そして頭頂部の真ん中にだけ、一本の太い毛が寂しそうに『ぴょこん』と立ち残った。


「うわぁ!? 髪が! 髪が抜け――……ぬ? ぬうう……?」


頭を抱えようとしたルシアン王子だったが、頭頂部に残った一本毛に触れた瞬間、なぜか急に表情が和らいだ。

「ふむ……? なぜかしっくりくるぞ? むしろこの一本毛こそが、わしのアイデンティティのような気がしてきた……」


「ふふふ、言葉とキャラクターに引っ張られ、ついに頭部(見た目)まで完全に適応しましたわね」


 会場内の貴族達は、もはや静観を決め込む余裕はなく、誰もが腹を抱えて震えている。


 私は十分に満足したため、ゆっくりと指を鳴らした。


 『言語掌握(ワードロック)』――解除。



「はっ……!? あ、言葉が元に戻っ……て、え? なんでこんなに頭上が涼しいんだ……?」


 違和感を感じた王子は、セバスチャンから手鏡を奪い取り、己の姿を映し出した。

 鏡に映っていたのは、ツルツルの頭頂部にぽつんと一本だけ毛が生えた、情けない男の顔だった。


「ひやあああああああッ!? 嘘だろぉぉぉぉッ!? 私の自慢の金髪がァァァッ!!? 頭の上に一本しか残っていない!!? なんだこの一本毛はぁぁぁッ!?」


「あられも無き叫び声を上げないでくださいませ、ルシアン殿下」

私は手鏡を見てのたうち回る王子を、冷ややかな視線で見下ろした。



「……さて、ルシアン殿下? まだ私に『お前を愛することはない』と言えますかしら?」


 頭の上の圧倒的一本毛をぷるぷると揺らしながら、王子はその場にへたり込み、地べたに頭をこすりつけた。


「申し訳ございませんでしたぁぁぁッ!! 私が間違っておりました! 愚かなのは私です! どうか、どうか私の髪の毛と威厳をお戻しくださいぃぃッ!!」


「ふふふ……まあ、反省されたのなら考えて差し上げますわ」



 こうして、高圧的だった王子は完全に改心し、会場にはスカッとした盛大な拍手が響き渡るのであった。


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― 新着の感想 ―
小説で表せる良いスキルでしたね! ルシアン殿下に婚約破棄をやめさせる価値があるかなぁと思いつつも、ドSですから許せないのですね、破棄されることは。(^◇^;) これからもカカア天下で夫婦生活を過ごして…
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