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第0話 序論

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってもらっていい?」

 紺色ジャケットに灰色パンツを履いたスポーツ刈り男の子がおどけたように声をかければ、萌黄色のワンピースを着た茶髪セミロングの女の子が俯いたまま、小さく二度三度首を縦に振る。


「えっ、えっ、えっとぉ、こ、こ、これはどういう状況?」

 当惑がかった声で、心の声がダダ漏れしてしまう男の子。

 すると、女の子はうっすらと紅く色着いた頬を膨らませながら、男の子に真っ直ぐな視線を向ける。

「デートよっ!

 他に何が有るって言うの?」

 リンと響く言葉で答える女の子は、男の子が誰よりもよく知っている異性(ともだち)だった。

 ただ、いつもの彼女(ともだち)と違うのは、黒い太縁のメガネをかけておらず、制服や道着姿(ふだんのすがた)でもない。

 ましてお化粧まで乗ってきた日には、男の子だって否応無く緊張してしまう。


「立てばシャクヤク、座れば牡丹、歩く姿はユリの華…ってヤツか。」

 相変わらず心の声がダダ漏れ中の男の子。

「何の話?」

 ちょっとご機嫌斜めな返答をする女の子に気付き慌てる男の子。

「あ、ああ、大和撫子(びじん)を愛でるときの常套句…だよ。」

 恐らく諸先輩方が彼に吹き込んだ言葉なのだろう…古典物(ビンテージ)の口説き文句だ。

 否、口説き文句と理解出来ているかも怪しい男の子の受け答えっぷりに、女の子は頬に左手を添え

「それって、私のことよね?」

 あえて質問を投げかければ、勢いよく二度三度首を縦に振る男の子。


「そっ!

 それなら問題無いわね。」

 そう言うと、頬にあてていた左手を男の子の右手に重ね、ギュッと握りしめる女の子。


「じゃぁ、デートに行きましょう♪」

 男の子の手を引いて、振り返った先の雑踏に飛び込む女の子。

 女の子が怪我をしないように、慌てて寄り添ってサポートに入る男の子。


 ここは、渋谷109ビル正面玄関前。

 デートスポットのど真ん中で、ようやくスタートする彼らのデート。

 今日は2月14日の土曜日、気心が知れているのかいないのか…そんな二人が恋に落ちはじめる、このお話はそんなありふれた日常の物語。


「コラァ~、サダノブぅ~!

 乙女の足を踏ん付けるなぁっ~!!」

 雑踏からあの女の子の奇声があがる。

「ス、スンマセーン。」

 あの男の子の声もかえってくる。


 …この二人大丈夫なんでしょうか?

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