第三話 「カナル」
ユウゾウはいきなり攻撃を受けた。今までにはなかった展開である。ここの猫って結構まぬけとか意外と平和的とかフライがとにかく大事らしいとか思っていたので、翔は飛び上がるほど驚いた。
ユウゾウはシールドを張ったので被害はなかったが、船は少し揺れた。
「なんなんだ⁈ どうし……痛っ!」
動揺のあまりもつれさせたた舌を噛んだ翔を横目に、ブリッジの中央、段の高く、二つ並んだ━━いわば船長(と副長?)席のうちの一つについたフライは、口の端から覗いたカナエお手製タイヤキの尻尾を、口の中に押し込んで噛みながら、目を怒らせている。
ブリッジにはいろん機械があって、席もたくさんある。ユウゾウのオートメーションが利かなくなったとき、手動で動かすためらしい。翔はもちろんフライもそういうのできなさそうな気がするから、もしかしたらこれを動かせるロボットがいるのかもしれない。
「ちょーむかつく! まだ、焼き鮭と生のサバとカツブシごはんとか……食べてないの、たくさんあるのにぃぃぃぃぃっ‼︎」
ご飯中だったのである。このままじゃお返しに主砲発射とかしちゃいそうなフライである。今度の船はたった一隻だった。三角形の中型船。
「むかつくむかつくむかつくっ‼︎」
こんな時だが、翔はふと気になった。
今さらだが、フライのしゃべり方は少々統一性がない上に、なぜか地球のわりと今時の女の子っぽいしゃべり方をしたりする。なんでだろ? これって翻訳機が翔にわかりやすい言葉にしてくれるせい? それとも地球ブームの影響? まだまだわからないことは山積みだ。
そもそもしゃべり方とかいってる場合じゃない。なんか地球っぽいことはありすぎなのだ。……まったくわかんないことばっかでもヤだけど。
空中スクリーンに人影(猫影?)が現れた。もちろんフライのお母さんとかじゃない。三毛猫だった。ポロシャツ着てる。なぜか真っ赤なバラを持ってた。
「こんにちは。ぼく、賞金稼ぎのカナルです」
能天気に三毛は言った。
「賞金稼ぎ⁈!」
オウム返しにした翔。タイヤキ食べ終えたフライは、胡散臭そうにバラを見ている。
「なにそれ」
「え? 賞金稼ぎって知りません?」
「違うわよ、そのバラ」
「あ、これですか? 姫君に敬意を表してお渡ししよいうかと思って用意したのですが……」
「いらない。私、そういうキザっぽいの大嫌い。それにお花の死体なんてイヤ。かわいそう。どうしてそんなむごいことができるの?」
「死体⁈ キザ⁈ かわいそう⁈」
カナルはバラを画面から隠した。
「す、すみません。そういうつもりじゃ……」
「あんたなんなの⁈ キザなの⁈ 内気なの⁈ はっきりしなさい!」
「す、すいません。緊張してて……」
「すいませんじゃなくてすみませんでしょ!」
「す、すいま……いえ、すみま……」
賞金稼ぎ。ハンター。クライムバスター。くだらん言い争いなんかしている場合じゃない。
第一、あっちはいきなり砲撃してきたのだ。黄の龍のような光線で。フライの横で突っ立っていた翔は、いきなりフライの前に出た。
べつにフライを庇ったわけじゃない。ミケと話そうとしたのだ。
「ちょ、翔⁈ どいてー見づらいよぉ」
翔の横から空中スクリーンを見ようとしたフライは、翔の緊張した横顔に気づいて大しくなった。
横の席に座り直して、今まで自分が座っていた席を翔に勧める。
「翔、座ってー」
翔はそこに座った。
「出たな! 一億猫大判の大賞金首! 翔‼︎!」
いやさっきからずっといたんだけど。━━一億猫大判っていくらくらいなのかはわからんが、とにかくすごそうだ。
「賞金首……?」
「そう。あんたはフライ姫誘拐の大罪で指名手配されたんだよ。━━これ手配書な」
カナルはいかにもな紙を取り出して、見せつけた。この星の字なんか読めるわけないが、きっと「WANTED」とかそういう感じの意味だろう字がでかでかと書かれている。
で、その下にこれまた悪党然とした翔の顔絵。
はっきりいって全然似てない。こんなに凶暴そうな顔じゃない……と思う。ってか、絶対。
で、その下のは、たぶん一億猫大判とか書いてあるのだ。これもけっこうでかい文字。後は小さな字でなんかたくさん書いてある。
ああ、ついに指名手配されてしまった。紛れもない犯罪者扱いされてしまった。このままこの変な三毛に殺されちゃうんだろうか。
俺が一体なにをしたんだろう……?
「大犯罪者・翔。一億猫大判。生死問わず」
言うなり、カナルは再度砲撃してきた。攻め来る黄色い龍。ユウゾウはまたも揺れる。シールドって後どれだけ持つのだろう……?
「ば、ばかやろう! こっちにはフライがいるんだぞ⁈!」
猫の考えることはわけわからん。
「当たり前だ。姫にもしものことがあったら、こっちまで犯罪者にされちまう。━━でもね、あんなばかどにいつまでも任せておけない。なんかしたかったら見てるだけじゃだめだ。たとえ、力尽くでもなんとかしないとね」
「力尽く⁈」
翔は吠えた。説得とかする気は最初からないらしい。
「なんかこいつちょっとマイティに似ててヤだなぁ」
フライがぼやく。
「というわけで、フライ姫。今お助けに参上いたします」
とかいって三毛猫カナルは回線を切ってしまった。
「なんなのあれ?」
フライは回線を戻そうとした。三毛と再び話せるようにしてとユウゾウにお願いした。
「応答ありません」
ユウゾウが言った。初めて喋った。翔はびびった。
「なにそれ⁈ あいつ、言いたい放題言いやがってこっちの話は聞かない気⁈」
これからニセ自殺魔になるはずだったフライだが━━これでは、作戦を実行できない。
「どうしよ? 賞金稼ぎなんてつい珍しくておもしろがってたらなんかちょっとやばーいことになっちゃったよぉ。っていうか、あいつイッちゃってない⁈ 助けるとかいって、もしその間に私が死んじゃったらどうする気⁈ 犯人を刺激しちゃいけないんだよぉ⁈」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ‼︎」
翔の叫び癖が出た。かなり興奮している。犯人(←翔)は見事刺激されてしまった。
そうこうしている今も砲撃が続いているのだ。黄の龍のようなビームがユウゾウを揺らす。
「右舷。敵戦接近。接触します」
ユウゾウが報告してくれる。
「接触⁈」
船が激しく揺れた。翔はまた舌を噛みそうになる。
「━━乗り込んでくるよ」
フライが覚悟を決めたように言った。
「上等じゃない! 返り討ちにしてやるわ!」
……猫って怖い。
「私も舐められたもんよねー。たかが中型船一隻で現れたかと思ったら、船内にまで侵入されるなんてね。しかもたった1匹で乗り込んできやった。……確かに私も油断しすぎてた。でもって━━コイツ」
空中スクリーンの中で赤い点が動いている。船内の地図上を動く点━━カナルだ。カナルはさっきからずっと同じ所を回っている。全然ブリッジにやってくる気配なし。
「方向音痴みたいだしー」
迷っている。カナルは絶対迷っている。同じ所をずっと回っている。
ぐるぐるぐる回っている。このまま放っておくと、一生回ってそう。
「ま。いーや。あんなの放っておこう」
「冗談じゃない!」
翔も言った。
「今のうちに迎撃準備整えなきゃ! トラップは⁈ 戦闘ロボットは⁈」
「え、えっとー……」
フライはあくびして頬を掻く。伸びまでする。
「ユウゾウ、そういうので、あの侵入してきた迷い猫、適当に捕獲しといて」
フライは白けていた。せっかく気合いを入れたのに、カナルが迷子になんかなるから白けまくっていた。
「そうだ、食事中だったよね。食堂戻ろっか? よかったねー翔、人質できたよー」




