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檻城(おりじろ)の姫君 ━━檻の城で、自由を夢見た姫君━━  作者: うさぎさん⭐︎
最終章 檻城の姫君

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最終章 「檻城の姫君」


 マイティは、単身、ユウゾウへ乗り込んだ。

 右手には、竜を象った光線銃・七竜銃アウラ。虹色にきらめくその銃は、七段階に攻撃力等の機能を調軽できる。これも、ライズを調べているうちに発見した物だ。おそらく、量産はされていない。

 ライズ艦長席の左の肘掛けの下に隠されて、眠っていた。たった一丁。

 一丁だけ造ってはみたが、ドラゴンと戦うのに必要ないので、量産しなかっただけかもしれないし、量産はしたが、それらは時の流れのなか、失われてしまったのかもしれない。もしかしたら、これはプロトタイプかもしれない。

 ユウゾウ側は、数闘ロボットを使ったり、ハッチを開ざすなどし防戦したが、マイティの敵ではなかった。警報音と、赤く点滅する警報灯が、煩わしい。

 ……マイティは天才である。しかしそれは、軍師的なだけの天才ではない。文武相応の天才である。日頃の鍛錬を欠かしたことはない。全ては愛する姫君のため。

 マイティのマントが翻る。裏地は赤。表は、白。その後方、かなり後方。カメラやマイクなどを持った猫がついてくる。うるさく何か言っているが、警報音でよくわからない。ピンクの猫とその仲間だ。勝手に乗り込んできやがった。

 ユウゾウの搭乗員は、ロボットだらけだ。姫君と地球人以外、みんなロボットだ。アウラには、対ロボット用の調整機能がある。これを使用すれば、ロボットを一定時間麻痺させ、その間破壊の限りを尽くせる。

 マイティの左手には、コルト。腰にライフル、リヴォルヴァー。ちなみに、マイティの鎧は特殊で、全然重くない。素速い動きが可能である。

 マイティは麻痺させたロボットを攻撃しない。優しさからではない。相手にしていないだけだ。もう、姫君のことで頭は一杯で、一秒でも早く彼女のもとへ行きたいだけだ。そして、マイティは素速い。駆け抜ける風のように、ブリッジを目指す。

 ━━マイティにはわかっていた。フライと翔はそこにいる。そこで、震えて自分を待ち構えている。


 ブリッジ。

 翔とフライは震えている。

 ドラゴンさえ退けた彼と、一体どうやって戦えばいいのか? 

 翔もフライも、船長席の横で、扉の閉まったブリッジ入り口へ向け、銃を構えている。

 翔たちを守る壁のように、ロボットたちは、その前方で、やはり、銃を構えている。

 ━━ユウゾウがみんなに見えるよう、空中ウインドウで船内地図を表示している。 

 マイティを示す黒点が、鮮やかな程素速く、ブリッジへ近づいてくる。

 所々の、船内カメラを使って、その姿も表示中。警報灯の赤い光。竜の形の銃が放つ黄の光━━それに触れたロボットたちが次々、雷に撃たれたように動きを止める。 すでに、言葉はない。

 翔の銃ももちろん、安全装置は外してある。

 翔は思う。マイティは、簡単な鎧をつけているみたいだけど、もしも、銃弾がうまくヒットすれば━━倒せる?  でも、それは━━死ぬ━━殺すってことか……?  

 あの黒猫は、泣いていた。フライも泣いていた。それなのに……。

 ━━息の音。鼓動。震ええる手。フライ。宇宙の果て。地球。マイティ━━マイティ‼︎

 ブリッジの扉が破られる。いや、破られるなんてもんじゃない。溶けてなくなる。アウラの赤いレーザーによって。

 アウラの射程は長い。ブリッジよりもかなり前で、黒猫がそれを放ったのだ。反撃する間もない。ロボットたちは銃を撃とうとしたけれど、赤い光の直後、黄の光がやってきた。辛うじて撃てた銃弾も、難なく黒猫は避けてしまう。黄色い光の嵐。

 ━━ロボットたちは、停止した。

 そして、彼はやってきた。 

 ━━マイティ。

 宇宙を思わせる、漆黒の毛。月のような、金の瞳。

「……フライ」 

 フライは、翔の前にいた。マイティから庇うため、前に出てきたのだ。猫は運動神経がいい。でも━━翔は、違う。

「フライ。帰ろう」

 マイティは優しくそういった。まるで、子供のころの彼みたいに。

「フライ。帰るんだ。君は、女王になるんだ」


「……やめてくれよ」

 翔が言う。

「……フライは嫌なんだよ。フライには、あの城が、檻みたいに思えるんだ。こうやって、逃げてもまだ追いかけてくる檻。星さえ━━宇宙さえ、フライには檻なのかよ? そんなふうに、フライをしたいのか? それで、おまえはいいのか━━?

 王家なんて、血の定めなんて、もう、やめちまえばいいんだよ。ばかげてるだろう⁈ 血で縛りつけるなんてさ。

 フライは、もう、一杯がんばったんだ。笑えなくなるくらいがんばったんだ」

「うっせえんだよ!  そんなこと僕だってわかってんだよ。部外者は黙ってろよっ! そんな簡単なことじゃねぇんだよ!  だったらてめーがやってみろよ⁈ 逃げることしかできねぇくせに━━。星を守ることが、王家に背くことが、どんなに大変か━━知らねぇくせにっ‼︎」

「でも、おまえは……フライが好きなんだろう?」

「彼女に笑ってもらえるおまえに、僕の気持ちなんかわからないんだっ‼︎」

「だけど……っ‼︎」

「僕は、もう戻れねぇんだよ‼︎  ひどいこと、一杯したんだよ……‼︎ もうなんも考えたくないわかりたくないっ! ねえ、フライ? 帰ろう? 昔みたいに、一緒に遊ぼう?」 

 フライはわかっていた。悪いのは自分だ。翔を巻き込んだのは自分だ。マイティにこんな悲しい目をさせているのは自分だ。彼の心を壊したのは自分だ。彼にひどいことをさせたのは自分だ。

 彼は子供の頃と━━優しかったあの頃と、変わってなんかいなかったのだ。優しい彼が、傷つかないわけない。ネズミの星を占領したり━━ひどいことをして、傷つかないわけがなかったのだ。どうして、わからなかったのだろう……。彼が変わってしまったと、勝手に思い込んで、嫌いになって……。

 寂しかったのに。構ってほしかったのに。子供の頃みたいに、本当は彼に━━笑ってほしかったのに……。

 <檻城の姫君>なんて気取って、いつも暗い顔をしていた自分。誰も私をわかってくれない。みんなが私を縛りつける━━。そんなことばかり思って。

 ━━翔はわかってくれたのに。

 言えばよかった。嫌なら嫌と、自分の気持ちを伝えればよかった。私は、何も言わず、いつも俯いていた。どうせ、言ったって誰もわかってくれない。私は檻に囚われたまま。そう決めつけていた。

 ━━言えばよかった。お父様やお母様やマイティやみんなに、言ってみればよかった。たとえ、誰もわかってくれないとしても、言ってみればよかった。たった一言でも。一度だけでも。何度だって。言ってみればよかった。

 見えない檻。

 それは、私の心だ。

 一番私を縛りつけていたのは━━本当の檻は、私の心だ……。私が創った檻。私は無理だと思っていた。絶対、運命は変えられない。最後にすがったのは、伝説。マイティが昔くれたあの本。最後の抵抗。でも、本当は信じてなんかいなかった。

 <檻城の姫君>は死ぬ。私は、殺したかったのかもしれない。今までの自分を。すべてを消してしまいたかったのもしれない……。━━どうせなら、逃けたりせず。言ってみればよかった。

「悪いのは、全部私だ! もうやめて‼︎  私は女王になる! 翔は地球へ帰る! マイティ、手はあなたと……」

 ……結婚、するから……。


「それは、できないって言ったろ?」

 マイティは、冷たく笑う。

「そいつは、もう、死ぬんだよ」

 マイティは、アウラを撃つ。青い光。それが、フライの胸へ当たった。

「きゃあぁぁっ⁈」

「フライ⁈」

「大丈夫だよ、フライ。それは、君の動きを止めるだけの光。僕が君を傷つけるわけないだろう?」 

 フライは動けない。見えない檻。身動きすら取れないほど、狭い檻に入れられたよう━━。

 檻なんて、もう、消したい!  翔やマイティを閉じ込める、私の心のなんて、消したいの━━‼︎  代わりに私が檻に入ったっていい━━……。

 ううん、もう、檻なんて終わりにするの。そんな幻影終わりにするのっ‼︎

「…………っ…………め…………‼︎」

 動かない口を、無理やり動かす。 あなたはまた傷つく。翔を殺して、傷つかないわけないんだ━━‼︎  踏まれた花を見て涙していたあなたが‼︎

 翔は、フライの傍らで、銃を握っている。

 マイティは、竜の銃口を翔へ向け、狙いを定める。

「だ……め……っ‼︎ マ……ティ……っ‼︎」

 翔は銃を撃てない。彼は優しすぎる。

 マイティは、金の瞳を動かす。フライへ。

「そんなに、こいつが大事なの……? そんなに、女王になりたくないの? どうして? ……そんなに━━僕が嫌いなの……?」

「ち…………が……っ……‼︎」

「フライ。僕はね、婚約を解消するつもりだったんだ。そんなに君が━━僕を嫌いなら━━君に似合う猫を見つけて、君に光り輝く誰より幸せな女王様になってもらうつもりだったんだ。

 でも━━そいつはだめだよ。猫とか身分とか民への示しとか、そんなんじゃない。そいつは、似すぎてる。僕がなりたかった僕に。だから、そいつだけはイヤなんだ━━っ‼︎」

 マイティが翔を睨む。翔がマイティを見つめる。 

 ━━銃声が響いた。

 

 赤い血。

 銃を取り落とした。右手から。竜の銃。発射前だった。床に落ちる。撃たれた━━右手と右腕計2ヶ所。左手にはまだコルト。

 後方より敵・新手。左・すぐそばにも敵⁈ 右へ飛ぶ。ホログラフの猫⁈  騙された! 敵複数、僕へ銃を撃つ。僕も敵へ向け発砲。 ━━やられた! 僕の左手からコルトが飛ぶ。マジかよ⁈ 油断してた‼︎


「動くな‼︎ 動くと、命はないよ‼︎  立て‼︎  手を上げろ‼︎」

 やってきたのは、海賊帽の白猫・エイムと、その子分のリア、サイト、フロント。 マイティは、右腕と右手から血を流し、言われたとおり両手を上げている。

 翔とフライには速すぎてよくわからなかったが、エイムたちがマイティの両手の銃をその手から失わせ、彼に手まで上げさせてしまったらしい。

「エイム⁈  どうして⁈」

「翔たちが心配でさ、他の奴らは逃がしたんだけど、あたいらだけ、小型船に乗ってやってきたんだ! 

 それと━━ユウゾウだっけ? ナイスフォロー! サンキュー!」

「いえ……」

 ロボットたちはまだ動かない。が、ユウゾウのホログラフは機能している。どうやらユウゾウが機転を利かせ、マイティの動きを悪くしたらしい。

 ユウゾウは、今は、フライたちを守るように、船長席のそばにいる。

 エイムはマイティへ銃を向けたまま少しずつ距離を詰め、子分二匹にアウラとコルトを拾わせる。子分たちは素速くそれを済ませる。拾った銃はエイムとリアの空き手に収まった。エイムたちは、マイティを囲むようにし、彼へ銃を向ける。

「さぁ、どうする、マイティ?」

 エイムはそういって、マイティを見たまま、翔へ問いかけた。

「翔。どうする? 殺るかい?  あんたが殺れないってんなら、あたいらが殺るよ?」 

 マイティはエイムを睨んでいる。

 翔は、フライへ目を向けた。彼女は自由を奪われたまま、しかし、必死に何か言おうとしている。

「…………だ……め……‼︎」

 翔は言った。不思議な温かな黒瞳をして。

「彼を殺しても、何も変わらないよ」

「こいつを見逃すっていうのかい?」

 エイムは不満そうだけど、どこか安心したような表情をしている。

「翔たちは優しいね。あたい、そういう翔たちが大好き。でも、翔、こいつはまたあんたらを追い回すよ? 本当にいいのかい? あたい、それは危険すぎると思う」  翔はフライの横に立ったまま、こういった。

「マイティ。確かに、俺たちは逃げているだけかもしれない。王家は、ずっと追ってくるのかもしれない。でもさ、マイティ、言っただろう? 俺とマイティは似てるって。

 ━━マイティ、一緒に来ないか?

 俺たちと一緒に、この船で、宇宙を泳ぐんだ。きっと、すごく楽しいよ。俺さ、もしかしたら、おまえとはいい友だちになれそうな気がする。

 どこまで行けるのか、正直、わからないけど。おまえが来たいっていうなら、俺は大歓迎だよ。フライもそうだと思う。他のみんなも、きっとそうだよ━━」

 ユウゾウは何も言わず頷いた。フライも、同意を表している。その、緑灰色の瞳で。彼女は、切れ切れにこう言った。

「……い……こ……う……」

 エイムは呆れたように溜め息をついた。

「本当に、お人好しだね。まっ、そうこなくっちゃ、翔たちじゃないけどねっ!   

 ━━だってさ、どうする? マイティ?」

 エイムは油断のない水色の目で、マイティの瞳を窺う。不思議な金の瞳。その瞳に、何か感情の色が浮いた。なんだろう━━? 一瞬、子供みたいに見えた。泣きそうな子供。自分に感心のない母親に、期待なんかしていないと思っていたのに、急に手を繋いでもらえた子供のような━━本当はずっと抱き締めてほしくて、でも言えなくて━━なのに、ふいにその胸に抱き締められた子供みたいな……そんな、切ない瞳。 

 だけど、彼は笑った。泣きそうな、嘲笑うような、自嘲のような、笑い声。

「あは、あははは、あはははは」

「マイティ?」

 翔は彼の名を呼んだ。

「あはははははははははははははははははは」

 エイムは予感を覚えた。━━嫌な予感。

 次の瞬間、船が激しく揺れた。 

 マイティは、素速く左手を振るった。中指に填まっていた指輪の、虹色の輝石が青い光を放つ。その光に触れた、エイム、リア、サイト、フロントは、不可視の檻に拘束された。

 七竜指輪アイリス。アウラと一緒にマイティが見つけた物だ。多少性能は劣るが、アウラの小型版である。マイティは、翔に歩み寄って、腰のベルトから抜いて左手に持ったライフルを彼に向けた。

「シールド消滅! ライズが光竜砲で攻撃してきた模様です!」

 ユウゾウが悲鳴を上げた。 マイティが、アイリスでライズを遠隔操作したのだ。これはアウラにはない機能で、七色のレーザーとは別の機能だが、そんなことはどうでもいい。━━マイティは、翔を庇うようにその前に立ったホログラムを無視し、翔に向かって何かを言いさした。

「どうして、君は……そんなに……」

 マイティは、小さく首を横に振って、目を閉じた。金の目を浅く開いて、最後にこう言った。

「さようなら、翔……」

 トリガーを引いた。

 最後まで、翔はその手に持った銃を使わなかった。

 ━━それは、単に彼が意気地なしだったからかもしれないし、彼が、本当に優しかったからかもしれない。

 ━━ただ、翔はこの黒猫と友だちになりたいと、そう思っていた。本当に、そう思っていた……。


 緑の服が、真っ赤に染まる。

 翔も、マイティも、何が起きたのかわからなかった。 

 気づいたら、フライが倒れていた。

 そんなはずはない。彼女は、動けなかったのだ。動けるはずがなかったのだ。 

 なのに、気づいたら━━。

 銃弾は、彼女の胸に血の花を咲かせていた。

 翔は、わけもわからずフライを抱き締めていた。

 どうして……? どうしてだ? どうしてこんなことになった? どうして……? マイティは、息さえ忘れてしまうほど、目を見開いたまま動かない。自分も、周りの、動きを封じられた者たちと一緒になってしまったかのように。

 フライ……僕が、フライを撃った……? 僕がフライを? 僕が……?

 彼女は、どうして動けたのか。どうして、翔の前に飛び出せたのか……? そういえば、彼女は先程から変だ。周りのみんなは、声さえ出せないほど、彫刻のように動けなかったのに。彼女だけは、声を発していた。切れ切れでも、声を発していた。それは、もしかしたら、彼女が王家の姫君だから、効き目が薄かったのかもしれない。アウラやアイリスなどは古代のキャトラの猫が作った物で、謎は多い。だから、もしかしたら、そういうこともあるかもしれない。それとも、それほどに、彼女の思いが強かったからかもしれない……。

「フライフライフライフライっっ‼︎」

 先に叫んだのは、マイティのほうだった。気が狂ったように叫ぶ。期は、叫ばなかった。ただ、その胸にフライを抱いていた。

 足音が響く。アウラの効果が切れたロボットたちが、ブリッジへ集まってきているのだ。

 一番最初にマイティへ銃を向けたのは、ピンクの猫だった。

 先程から言葉もなく、仲間たちとブリッジの様子を撮影していたピンクの猫は、マイクを捨て、銃を手にし、声が嗄れんばかりに叫んだ。

「なんてことしやがるんだっ‼︎  フライ様に、なんてことするんだっ‼︎ フライ様は、みんなに愛されている姫君なんだっ‼︎  みんな、この日のために、命も省みず、やってきたんだっ‼︎  テレビの前の猫たちも、祈るような気持ちで放送を見ていたんだ‼︎  なのに貴様ぁ━━‼︎ 

 貴様はなぁ、確かに黒猫だし、公爵家のプリンスかもしれねぇ‼︎  だがなぁ、てめぇは決して王じゃないんだっ‼︎  フライ様と結婚したとしてもだなぁ、貴様は王にはなれねぇ‼︎  王になるのは、フライ様だけで、てめえはただのその夫に過ぎねぇんだよっ‼︎  思い上がんな独裁者━━‼︎」

 猫は最後までセリフを言えなかった。翔が、床に落ちていた、さっきまで自分で握っていた銃を掴み、その猫の頭へ投げつけたからだ。猫はあっけなくひっくり返って、気絶した。

「いいからっ‼︎ 早く、フライを手当してくれよっ‼︎」


 猫が、死んでいく。自分のせいで、猫がたくさん死んでいく。ロボットたちが、死んでいく。ネズミが、死んでいく。 

 翔と、マイティが、檻の中に入っている。自分はそれをみて嘲笑っている。 

 お父様とお母様。私は人形。頷く人形。ねぇ、どうしてお父様とお母様は笑っていられるの? そんな、王座やなんか、壊しちゃおうよ? お城なんか、壊しちゃお? それで、三匹で出かけよう。星の中じゃ、みんなが私たちの顔を知ってるから。宇宙へ行こう? 誰も知らない、宇宙のずっとずっと果てに行こう?

 そこで、城下の猫たちがしてるように、普通の親子になりたいの。

 三匹でね、手を繋ぐの。手をブラブラさせるの。みんなで笑うの。本当の笑顔。もう、無理して笑うの、疲れちゃった。

 昔は普通に笑えたの。今はもう、笑えない。

 マイティが泣いてるの。私のせいで泣いてるの。泣きながら、みんなを殺していくの。私の代わりに、お城を壊してくれるの。みんなを殺してくれるの。

 誰も知らない私。私しか知らない私。そうなりたいの。

 道端に咲いているちっぽけな花みたいに、踏まれちゃうくらいなんでもないくらいの草になりたいの。

 宇宙そらを翔ける風になりたいの。なりたかったの。

 みんなが死んでいくよ? これが、私の望んでいたことでしょう? 

 あなたの望んでいたことでしょう? ねぇ、フライ?

 檻の中のマイティと翔。

 ざまあみろ。私だけじゃない。他の奴らも、檻の中に入っちゃえ! みんな入っちゃえ! でも、私だけは抜け出してやる。お父様とお母様も、もう、いいよ。そこにいろよ。

 私だけ、出てってやる。嗤ってやる。嗤ってやる。あははは。

 みんなが死んでいくの。私のせいなの。

 どうして? もう、やめて。

 死なないでよ。みんな。だったら、私が死ぬよ!

 あなたたちは死なないで。私みたいに逃げてばっかじゃない。あなたこそ生きるべきなの。

 なのに、みんなみんな死んじゃうの━━! 猫が、ロボットが、ネズミが━━マイティがライズで殺していく。泣きながら、みんなを殺すの。

 なのに、私はそれを見て嗤うの。壊れたみたいに嗤うの。

 檻の中の、大好きな二人。

 マイティも、死んじゃうの。どうやって? 自分で死ぬの? 翔が殺すの? 違うよ。私が彼を殺すんだ。あんなに優しかった彼。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。

 翔が、死んじゃう……! 私のせいで、死んじゃうっ‼︎ いやぁ! 殺さないで死なないで大好きなの大好きなの大好きなの優しいの優しいの翔は優しいの誰よりも優しいの助けてみんな助けて大好きなの助けて助けて私のせいなの私のせいなの私のせいなの! 翔、翔、行かないで━━帰らないで、おいてかないでよ……っ‼︎


 いきなり、目の前に猫がいた。茶虎の猫。見慣れた猫。大好きな猫。お母様……? ベッドの上。私は、寝てる。お母様が、傍らの椅子に座って、私のすぐそばで、ベッドに俯せてる。

 ━━私の部屋……。どうして? 帰ってきたの?

「……うぅ……ん……」

 お母様が呻く。

 私は身を起こそうとする。 痛い……! 胸を押さえる。ベッドの上にまた戻る。起こそうとした背中がまたベッドにくっつく。私、怪我したの? どうして?

「お母様……?」

 看病してくれたの……? 心配してくれたの……? 昔みたい。お母様━━昔、私が夜中に高熱を出して呻いてたの。私は、気づかず眠っていたの。そうしたら、お母様が起こしてくれたの。……どうしてだかは、覚えていない……。でも、あのとき、お母様は心配そうにこういってくれたの。

『大丈夫?』

 ……大丈夫だよ、お母様。

「う……う、ん……フライ?」

 お母様が、お気づきになられた。

「フライ⁈ あなた、気がついたの⁈  誰か、誰か来てっ‼︎  フライが、目を覚ましたの‼︎」

 お医者様がやってくる。おんなじ。あの時も、お医者様を呼んでくれたよね、ママ……。

「ラライ、フライ、大丈夫なの?」

 お医者様が、お熱をはかったりして下さるの。ありがとう、お医者━━、ママ……。

 私……どうしたんだろう……? 私……。

「ごめんなさいフライ、ごめんなさい……!」

 どうして謝るの、ママ……?

 ━━翔‼︎ 翔は⁉︎ 私、どうして、部屋に帰ってきたの⁈

「ママ、ママ……! お母様‼︎  翔は⁈」

 私が帰ってきたってことは、翔は⁈ 翔は⁈ 

 マイティに、殺されちゃったの……っ⁈ 彼に、翔を殺させたの⁈ どうして、どうして⁈  誰がそんなむごいことさせたの⁈ 

  私なの⁈  私のせいなの⁈

「う”……ぁ……しょ、翔……っ‼︎ どこにいるの、翔……⁈」 

 お母様が、私があんまり身を起こしたがるから、身を起こすのを手伝ってくれる。 

 でも、そんなのに構ってられない。

「フライ? フライ?」

 翔は、帰っちゃったの? 地球へ⁈ 自分の星へ━━。

 あぁ、でも、私がここにいるつてことは……彼は、もう…………殺されちゃったの⁈  たとえ、マイティが彼を殺さなかったとしても、私がここに帰ってきたってことは、翔は、もう、誰かに殺されちゃったってことなの⁈

 ねえ、そうなのっ⁈

「翔……翔……⁈ どこ、どこなの……⁈」

 手を伸ばす。━━お母様が、私の体を押さえつけてる。どいて……‼︎ 

 行かなくちゃ、私……‼︎ 翔を探しに行かなくちゃ……っ‼︎ 

「翔⁈ 翔‼︎ どこ、どこっ⁈  返事をしてっ‼︎  どこ⁈  嘘だっ‼︎ 死んでない‼︎ 翔は死んでないっ‼︎ 生きてる‼︎  私が巻き込んだだけなの‼︎ 

 彼は悪くない……っ‼︎ 

 翔、翔……っ⁈ 翔、答えてよ……っ!」

 お母様を押し退ける。どいてよ……っ‼︎  お医者様も、私を押しつける。ベッドに押しつける。

「邪魔しないでぇぇぇぇっ‼︎」

 胸なんか、痛くたい……‼︎ 怪経なんてどうでもいいのっ‼︎ お母様たちを押し退けて、べッドから、転げ落ちる。まだ、押しつけようとする腕。邪魔しないで、邪魔しないで、邪魔しないで……っ‼︎ 

 ━━嘘、ほんとは痛い……苦しい……っ‼︎ 胸が痛くて痛くて死にそう……‼︎

「翔っ、翔……っ‼︎」

 悪いのは、私なのにっ‼︎  みんな、私なのに……っ‼︎

「翔……‼︎」

 翔…………っ‼︎

「━━なに、やってんだよっ、フライ⁈  寝てなきゃだめだろうっ⁈」   

 翔……? 翔……‼︎ 翔が走ってくる。扉の所から、私の所へ走ってくる‼︎「翔……‼︎」

 私は、駆けつけてきた彼に、心配そうに屈んで私に手を伸ばしてきた彼に━━その背に腕を回して抱きついた。

「翔……ごめんなさい、ごめんなさい……‼︎」

 ごめんなさい‼︎

「フライ、いいから早く横にならないと……」

「……翔。よかった、よかった…………」

 よかった……


 一度目を覚まして、信じられないほどの馬鹿力と大声で騒いだフライは、自分の部屋のベッドの上で、また眠りについた。

 次にはっきりと目を覚ました彼女は、その目に再び翔の姿を映した。

 ━━あぁ、よかった……夢じゃなかった……。

 フライは、ベッドに横になったまま、微笑んだ。翔を見つめた。

 今、彼女の部屋には、彼女と翔、二人しかいない。フライはまた、身を起こそうとした。彼に触れたかったのだ。幻じゃないかどうか、確かめたかった。

「翔……」

「いいから、そのまま寝てろよ。今、医者を呼ぶから」

「ううん、いい……。ね……翔。手、握って」

「……」

 翔は、ベッドの脇の椅子に腰掛けたまま、フライの左手を、自分の両手で包んだ。「……あったかい」

 フライは嬉しそうに、そういった。 

 フライはもうとっくに、もとの猫の姿に戻っている。だけど、翔は変わらない。彼女を見つめるその瞳は、変わらず、優しい。

「本当に大丈夫か?」

「うん……翔こそ、大丈夫なの…………?」

「ああ。俺は、元気だよ。フライのお母さんがさ、ずっと自分で、フライのこと、看病してたんだよ……」

「……お母様が……?」

「うん。でも、今は看病疲れで休んでる。大丈夫、心配しなくても、ちゃんと休んでればすぐ回復するから。それで、俺がバトンタッチしたんだ」

「そう……。ね、でも、どうして……? 私がここに帰ってきたのに、どうして翔はここにいるの?」

「フライ。体の具合は大丈夫か? 長い話になるかもしれない。それでも、聞ける……?」

「平気。猫って結構丈夫なの。心配しないで……」

「フライは、俺を庇って倒れたんだ。

 それで、病室で待機していたオオタニ先生に、君の応急手当をしてもらった。

 それから君は、ライズの病室へ移された。ライズはすぐキャトラのそばにワープして、王城の宙港へ向かった。そして、君はこの城に帰ってきたんだ。

 この城の病院が、一番設備がいいんだってな。それから、君のお母さんが、フライはこの部屋がいいんだって言い出して……。君が昔熱を出したときも、猫たちが、病院へ移そうとしたけど、フライはこの部屋がいいって言ったって、だからそれが君のためだ、そのほうが早く君が目覚める……っていってさ。

 うん、それからさ……フライ。二週間も、目覚めなかったんだぜ⁈ 二週間! 今日なんてもう、あれから三週間近いんだぜ⁈」

「…………長い夢を、見ていたから…………」

「その間に、いろんなことがあったんだ。聞いたら、驚くぜ? あのときの生放送を見ていた猫たちがさ、嘆願運動を起こしたんだ‼︎ 君を解放してくれ。もう、君を王家の定めに縛りつけないでくれって。

 すごいんだぜ⁈  城に猫がたくさん押し寄せてきてさ! 今も、この城の大庭園で、たくさんの猫が座り込みしてるんだ! 署名も倍じられないくらいたくさん集まってるし、フライが死んだらどうしてくれるんだ、王家が動かないなら、そんな王家力尽くでつぶしちまえ! とか、フライをさらって逃げるとかいってる奴もいるし、もう何がなんだかわかんないくらいの大騒ぎになってるんだぜ!

 その中にはさ、エイムやカナルやキールたちもいるんだ……っ!」

「……うそ……」

「嘘なもんか! ほら、聞こえてくるだろう? 猫たちの声が。━━大庭園のほうから。君を解放してくれっていってる、彼らの声が」

「うそ、うそよ……」

 フライは、窓のほうを向いた。確かに微かだけど、彼らの声が聞こえてくる。大庭園とは距離があるのに━━。たくさんの猫たちが大声で叫んでいるのだ。自分の名を呼んでいる。解放しろと叫んでいる。

「どうして……? どうして……?」

「みんな、フライが好きなんだよ。フライは笑わなくなったけどさ、前は、みんなの前で笑ってたんだろう? 

 身分とか分け隔てなく、誰にでも笑いかける愛らしい姫君だったって、みんな言ってる。その笑顔を見るとさ、元気が出た。助けられた。悩みなんか吹っ飛んだ。こっちまで笑ってしまう。そんな、笑顔だったんだってな。

 みんな、フライが大好きだったんだ。笑わなくなってからも、大好きだった。前みたいに笑ってほしかった。見ていると、胸が痛くなった。何をしてでも、君に笑ってほしくなった━━。

 みんな、マイティと一緒だったんだ。そして、そんなふうに君をしたこの城に、みんな怒っている。君を救いだそうと必死なんだ。猫ってほんと、みんないいやつだね━━」

 フライの瞳に涙が浮かんだ。

「......ありがとう……みんな、ありがとう……」

「それでさっ‼︎ もつと、すごいことにさっ! 君のお父さんや、マイティがさ……っ‼︎」

「……マイティ⁈  マイティは大丈夫なの⁈  だって、私を撃ったんでしょう……?」

「そんなに、あいつが心配……? 大丈夫、あいつも、ユウゾウのみんなも、この星の猫たちも、ロボットたちも、みんな元気だから。あの戦いでさ、死んだ奴って、誰もいなかったんだって! すごいだろっ⁈

 ━━最も、マイティは最初攻められた。君を撃ったのは、確かに彼だったから……。だけどね、見ている奴は、ちゃんと見てるんだよ。わかってくれる奴はいる。放送を見ていた猫たちはね、あんな彼を初めて見た。彼は本当はいい奴なんだってわかってくれたんだよ。

 もちろん、まだ彼を攻める奴もいるけど、君が一言向か言ってくれれば、すぐ収まると思うよ。逆に、彼に食ってかかったあのピンクの猫を避難する奴なんかもいてね......。

 フライ。彼は、あのクールさや、ネズミの星を占領したことから、冷酷だとかいわれていたけど、実際、彼はそこまでひどいことはしていない。この星のためになることも、たくさんしている。

 確かに、ネズミたちを街の隅へ追いやったり、税を巻き上げたりした。ネズミの王家も幽閉した。でもね、その建物から出られないことと、チーズをあげないこと以外は、とても快適に過ごせるよう、彼は手配してたんだ。

 チーズ以外の食べ物は与えていた。

 俺をこの星へ連れてきた奴らだって、牢に入れられていたらしいけど、快適に過ごせるよう、彼は指示していた。

 あの三匹の猫とかはね、もう、牢から出て自由の身になったんだ。

 君のお父さんやマイティたちは、最初、君が心配で何も手につかなかった。でも、今は暴動を沈ませたり、この国を変えよえうと動いているんだ。

 マイティはね、ネズミの星の占領を解くといっているよ。王家の幽閉もやめる。何十年かけても、彼らに償って、できれば友好関係を取り戻したいと。

 君の両親はとてもショックを受けているよ。泣いていた。君の気持ちも考えたことないばかな親だったって。

 猫たちにはね、君の気持ちが伝わったんだ。君が本心でああ言ったとわかったんだ。君の意志で、俺を助けてくれたと、わかってくれたんだよ。マイティたちもちゃんと俺が本当は凶悪犯じゃないと、民たちに言ってくれたし。

 俺は今、この城の客みたいに扱われてる。ちゃんと、部屋とかも貸してもらってる。

 ━━それでね、血で縛るなんておかしいっって━━すごいんだぜっ‼︎ 王をさ、選挙制にするっていうんだ! やりたい奴が、王になる。そして、星民から選ばれた奴が王になる! 

 そういうふうに、今、マイティたちは動いてる。もちろん、星民たちの意見を反映させていく。これから、この星は、どんどん変わっていくんだ! 全然システムとかも変わるかもしれない。

 新しいことに反対する猫たちもいる。けど、みんな、君を解放したいと、あんなにたくさんの猫たちが言っている。マイティたちも努力している。そして、それは実現しようとしているんだよっ!

 君を縛るものは何もなくなる! 檻は消える! そうしたら、君は、もう自由なんだよ━━フライ‼︎」

 翔は、興奮したまま、彼女に告げた。

「今すぐじゃなくていい、落ち着いてからでいい━━。俺も、自由を保証してもらえた! 記憶なんか消さない。命なんか奪わない。罰とかもなしっ‼︎ 帰りたきゃ、帰してくれる! 好きにしていいっ‼︎

  だからさ━━フライ。落ち着いたらさ━━俺の星に来ないか?」


「.......ごめんなさい……」


 フライは、地球へは来なかった。

 彼女はあの後すぐ元気を取り戻した。

 起きられるようになった。

 彼女の体は、もう、安心だった。心もきっとそうだろう。

 ━━翔は一人、地球へ帰ってきた。翔が何度説得しても無駄だった。彼女は首を横に振り続けた。

 だったら、翔がキャトラに残るといっても無駄だった。彼女は、翔が地球へ帰るよう、逆に説得してきた。何度も何度も何度も。翔は負けた。一人、地球へ帰ってきた。

 あんなに帰りたかった地球。とても長いこと宇宙やキャトラに居た気もしたけど(半年とかもっと? でも、とても短かったような気もする)、帰ってくると、三ヶ月くらいしか経っていなった。

 しかも、高校生にもなった男の家出(?)だからか、周りはそんなに心配していなかった。

 なんか言ってくれたのは最初のちょっとだけ。うちの親なんか、香苗でなくてよかったとかぬかす。

 改めて思う。フライはとても愛されていた。みんなから愛されていた。

 翔は、みんなに話した。フライたちのことを。笑われるとか、信じてくれないとか、そんなこと、どうでもよかった。ただ、話したかった。

 久しぶりの家庭。久しぶりの学校。嘘みたいに何も変わっていない日常。同じようなことの繰り返し。せいぜい変わったことといえば、香苗が中学出て高校出たら調理系に進みたいとか言い出して、親があっさり

「いいよいいよ。香苗の好きにしなさい。はははは」

 とかいったくらい。

 それと、ついに香苗に彼氏の成田くんの写真も見させられた。

 眼鏡越しの、一見まじめそうだけど、どこか面白がるような目つき、口角を上げたその笑い方。ユウゾウに似ていた。

 もしかして、香苗おまえファザコンか?(単にユウゾウが親父と名前同じなだけだが)

 後は、杉田が高原先輩とつき合い出したらしーことくらい。いや、これはかなり驚いたけど。純情一直線の杉田は、

「手ぇつないじゃった! 先輩と手ぇつないじゃったぁ‼︎」

 とかいって、狂喜乱舞する。

 こいつ、おかしい? ってくらい。

 恋をすると男は変わる。教室を駆けずり回る杉田を、自分の席で俺は目にしながら、こいつ、純情っていうよりアホ? そんなん、でかい声で言いふらしたら、先輩ぜってー怒るぞ。と、心の中で呟く。

 へっ! なにが手だ。俺なんかさ、フライとキスしちゃったんだぜ? しかも、二回も‼︎ 最初はフライからのキス。次は俺から。

 ━━あの時、俺が嫉妬で無理やりキスしたら━━今思えば、フライは、なんだかすごく驚いたような困ったような顔をしていた。

 地球へは、忙しいなかマイティが自らライズで送ってくれた。フライは、ライズには乗らなかった。ただ、ライズの前に見送りに来てくれた。

 俺は、彼女とキスしたかった。

 地球へ帰れというフライとは喧嘩みたいになっていたけど、正直彼女の気持ちがわからなかったけど、その大きな猫顔にキスしたかった。

 茶虎の、人間入ってないきぐるみみたいなフライ。その姿もとってもキュートだ。抱き締めたくなるくらいキュート。

 あの時、俺たちの横にはマイティがいた。俺は、フライの肩に手を伸ばそうとした。だけど、フライの奴、逃げやがった! 困ったように、マイティの後ろに隠れやがった! 

 何でだよフライ? フライはやっぱあの黒猫が好きなのか? チクショオ! だから、地球へ帰れなんていったのかよ……俺のこと好きとかいってたけど、嘘だったのかな。前にエイムがいってたみたいに、恋に恋してるって奴だったのな……?

 ……あの黒猫は、なんか憎めないけど、でも、やっぱむかつく! 俺んちの近くの野良の黒猫もマイティに似てる。俺が近づくと、あの野良、すぐ逃げちまう。

「へへーん」

 とかマイティが嘲笑ってるみたいに。フライに抱きつかれて小躍りしてるマイティが頭に浮かぶ。彼女に抱きつかれたまま、ライズで宇宙中駆け回って喜んでるマイティが頭に浮かぶ。

 うわぁ! やめてくれぇ!

 ……教室の、机の上の俺の両手は、一冊の本を掴んでる。

 たぶん、フライが言っていた、俺が一人学校で笑って読んでた例の漫画だ。

 ありふれた、ファンタジー・ギャグ漫画。もう、笑えない……。こんなの読んでも俺、笑えないよ……。フライがいなきゃ、心の底から笑えない。フライ。責任とれよ。

 おまえがいなきゃ俺、どうしたらいいんだよ……。

 俺は、何かをしてみたかったのかもしれない。別に何でもいいから、何かを見つけて、やってみたかった。

 退屈な日常から、俺も本当は逃げ出したかった。

 周りのみんなは、大好きだけど、俺のこの手で、なんでもいい、何かをしてみたかった。

 ……フライは、俺のそんな願いをかなえてくれた。俺に、宇宙を見せてくれた。夢をみせてくれた。


 俺は、フライと別れた後、進級した。高三。受験生。フライとはもう一年近く会っていない。俺は、やりたいことなんかない。行きたい大学なんてない。

 俺は、フライ。君とただいたい。君のそばにいたい……。 

 香苗が喚く。毎日毎日。

「お兄ちゃん! 何ボ~っとしてんの、暇だったらちょっとは手伝ってよ‼︎ お兄ちゃん、受験生でしょ?  少しは勉強しなさいよっ‼︎」

 俺はもう、夜道が怖くなくなった。宇宙人も怖くない。

 いや、あの猫たちの科学力とかは怖い。全然知らん宇宙人は怖い。

 でも、フライにだったら、何度さらわれたって構わない! 

 つい、期待して暗い道を歩く。夜空にサメを探す。探しながら、フライとのスウィート・メモリーズ(?)を思い出して一人笑う。

 そうすると、そこらを通りすがったお兄さんとかに「変態か⁈」という目で見られる。

 そんなの気にならないくらい、俺は空を見上げる。

 青い空。赤い空。黒い空。青空に飛行機雲。目で追いかける。

 あの飛行機雲は、宇宙へ続いていないだろうか。フライの星へ続いていないだろうか。

『地球へ来ないか?』

 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

 フライには、宇宙が似合っている。

 俺も、結局、彼女を開じ込めようとしたんだ。俺の手の届く場所。俺の手の中の檻に入れて、地球へ持ち帰ろうとしたんだ。地球こきょうと彼女を両方手に入れようとした。せっかく檻から出られた彼女を、また俺は閉じ込めようとしたんだ。

 俺の手の中の檻。

 ━━彼女が嫌がるのは当然だ。

 俺は、溜め息をついて、夜空を見上げる。

 サメ型の宇宙船に遭遇した小道。この辺うろつくのが日課になっちまうなんて、俺はおかしい。俺は危ない。

 俺はもう、君のことを、忘れないといけないのか……? 

 もう、二度と君に会えないのか?

 翻訳猫ピアスは、俺は地球へ帰るとき、そのままもらった。いつも、している。

 ……俺さ、フライ。勉強してるんだ、今。

 最近、俺さ、科学の本とか、宇宙の本とか、一杯読んでるんだ。

 貯金下ろして、望遠鏡も買っちゃった。

 俺、いつか宇宙へ行けるかな。もう一度、君に会えるかな手……。

 それが、最近、俺がやっとみつけた夢。

 もしかしたら、そういう大学に進むかもしれない。

 ……でも、本当は今すぐ君に会いたい。本なんかいらない。望遠鏡なんかいらない。本物の宇宙を、すぐそばに感じたい。君の手の届く場所にいたい。

 君になら、閉じ込められてもいい。檻に閉じ込められてもいい。檻の外でマイティと並んで俺を鑑賞してくれも……いやっ、それはヤだっ‼︎

 光。白い光━━


 ライズ。

 俺はライズにいた。ライズの一面に展望窓のある、カフェの様な白い部屋。

 白い丸テーブルと白い椅子の並ぶ空間。そこに俺はやってきた。窓の向こうには地球の夜空。俺は席に座ってる。向かいの席には、フライ! 大きな猫顔のフライ!  

 ドレスじゃない、カジュアルな格好。すげ~かわいい!

 彼女は猫ピアスはもうしていない。彼女は元気になってすぐ、あれを城の宝物庫に返した。あれは、携帯便利なだけで後は極普通の銃らしい。

 ここに案内される前。UFOよろしく光の中浮遊して、ライズに吸い込まれるように乗り込んだ俺は、その大きな魔法陣の広がるような、特殊搭乗口(普通の搭乗口もある)でフライを見た。フライは俺に向かって一言。

「久しぶり……元気だった?」

 そういっただけ。後は、ここに連れてこられて、ホットミルクを二人分出されて、フライが熱がりながらちびちび飲んでるだけ。冷たいのにしろといったら、首を横に振られた。

「あのさ、フライ……」

「……あの後ね、いろいろあったけど、結局マイティが王になったの。

 私、応援しちゃった! だって、マイティなら、きっと適任だもん!

 彼ね、自分の手で責任をとりたかったの。自分で、ネズミの星のこととか、ちゃんと何十年もかけて責任をとりたかったの。だから、立候補した。無理だろうと彼は笑ってたけど、私、応援した! 

 みんな、彼が本当は優しい猫だって、わかってくれたの。彼は今までどおり、ううん、今までよりずっと優しいやり方で、彼らしいやり方で、星を守る。みんなの代表として。

 <王>というのは、代表とか、もっと違う名前に変わるかもしれない。キャトラは変わっていく。あの星の民や、宇宙のことを考えた素敵な星になるよ。

 お父様とお母様はね、普通のお父様とお母様になった。大好きなパパとママ! 今ね、私たち、かわいい猫型の家に住んでるの。

 パパはね、映画監督になっちゃった‼︎ もちろん、実力でね! ママはね、看護師さんになるんだってがんばってる‼︎ ずつと、夢だったんだって‼︎

 私はね、バイトしてるの。猫喫茶。もう……ばかな夢はみない。みんなを巻き込まない。なりたいものを、探してるの」

「……フライは、それでいいの? 本当は、宇宙へ行きたいんじゃないか......?」「…………」

「フライが、地球へ来てくれなかったのはどうして? 星のことが心配だから? 両親の側にいたいから? マイティが、好きだから? 

 俺、ばかなこと言った。こういえばよかったって思った。約束したのに。俺、知ってたのに。フライの夢。

 ━━一緒に、宇宙の果てに行こう! こういえばよかった。でも、違ったのかな……? フライが、それで本当に幸せなら、俺……俺なんかと一緒でなくてもいいなら、俺……俺さ……でも……」

「翔」

 フライは微笑んだ。とても、愛しそうに、泣きそうに、翔を見た。

「翔、ごめんなさい……私、どうしても一匹じゃ更気が出せなかったの。一匹じゃ、宇宙へ飛び出せなかった。……一杯迷惑かけてごめんなさい。それだけ……言いたかったの」

 翔は笑った。

「━━なに言ってんだ。迷惑なんて、思ってない。困った時は、お互いさまっていうだろ? ……俺なんかさ、いつも周りに迷惑かけてるよ。香苗に飯作ってもらったり、親父からこづかい前借りしたり、友だちに宿題写させてもらったり。

 ……あ、でも、俺はみんなになんかしてるかなー? うーん……」

「翔はとても優しいよ。私はいつも、あなたに助けられてきた。

 私、知ってた。翔がユウゾウのみんなにつけた名前。翔の大好きな人たちの名前なんでしょう? 

 知ってたよ。翔は、宇宙を見て、寂しそうな顔してた。いつもどこか寂しそうだった。ずっと、地球へ帰りたかったの。でも、翔は優しいから、私の夢に━━わがままにつきあってくれたの。宇宙の果てなんか本当は行きたくないのに、命さえかけて、つき合ってくれたの。

 翔は優しいから、本当は帰りたくて帰りたくてたまらなかったのに……」

「違う! 俺は、本当に君と一緒に、宇宙を旅したかったんだ‼︎ 君と一緒に見てみたかったんだ、宇宙の果てを━━夢を…………。

 俺は、君が好きだから……っ‼︎」

 フライは瞳を見開いた。

「嘘……? 嘘でしょう……? 翔は優しいから、そんな優しい嘘までついてくれるんだ」

「嘘じゃねぇ‼︎ なに言ってんだ‼︎ 俺は何度も君が好きだっていったろ⁈」

「……言ってない……。初めて聞いた……」

「ウソ⁈ だって━━もう何度も……? あれ? はっきりとは言わなかったのか……?

 ━━でも、わかるだろ⁈  俺は、君にキスまでしたんだぞ‼︎ 俺は、好きでもねぇ奴にそんなことしないっ‼︎」

「……だ、だって、あれは……私が、うるさいから黙れって……そういうことでしょう⁈」

「なんでそうなるんだ⁈  いや、確かにマイティのことは聞きたくなかったけど……っ‼︎ 俺は、プロポーズのつもりだったんだ‼︎ 地球へ来ないかってのは、プロポーズのつもりだったんだ‼︎」

「う……嘘……? 嘘……でしょう。あれは、私、地球へ遊びに来ないかって意味だと思った……けど私には、そんな資格ないから……」

「━━でも、もう、そんなことはいい‼︎

 それが、君を縛るなら、もういい‼︎ 結婚なんかしない‼︎

 だから……だから、フライ。改めて、言う。

 一緒に、宇宙の果てに行こう‼︎」

 フライの瞳から、涙が溢れた。

「ほんとうに……? 私、ほんとは行きたいの……宇宙の果てに……どうして、翔にはわかるの……? どうして、みんなそんなに私なんかに優しいの……? この船だって、もう、私、姫でもなんでもないから、本当は乗る資格ないのに、マイティやみんなが何度も言ってくれたの。行けって、地球へ━━翔に会いに行けって━━」

 翔は席を立った。座ったままのフライを抱き締める。

「フライ……俺は、フライが好きだ……一緒に、宇宙の果てに行きたい…………もう、地球に帰れなくたっていい……君と一緒にいたいんだ」

「私も……私も…………翔が大好き…………」

 そして、二人は、一番長いキスをした━━。


 翔とフライは、その後、翔の家に行った。

 フライはありのままの猫の姿のままだ。

 翔は日本的にはまだ結婚できる年じゃないけど、フライはまるで「息子さんを婿に下さい!」という勢いで彼の家へ乗り込んだ。

 翔の父親も母親も香苗も驚いていた。だが、翔はちゃんと自分の思いを彼らに伝えた。香苗は最初に賛成してくれた。「宇宙人とお兄ちゃんの恋」に感動したらしい。 

 なんと父親まで賛成してしまった。最初はフライの姿や話に驚いて、つい頷いちゃっただけかもしれないが、彼は「いいよいいよ、翔の好きにしなさい」といってくれた。

 いつも静かな母親だけがとても嫌がった。「翔ちゃんをあんたなんかにやらない!」という感じで抵抗した。香苗も「私だって本当はお兄ちゃんに行ってほしくない~!」と泣きだした。父親も泣いていたかもしれない。

 翔は地球に帰ってすぐ包み隠さず彼女のことを話していたし、今回、ライズまで見せた(ライズのことはご近所で有名だった。翔略取の時とか、ライズを見てた奴がいたらしい)。更に、キャトラに家族を連れて行き、向こうのご両親に挨拶したりもした。

 フライの両親は一も二もなく賛成した。

 ━━約一月(ひとつき)かかった。

 家族はみんな頷いてくれた。

 何よりも、彼と彼女の真剣な思いが伝わったのだと思う。

 その間は、フライはライズで寝てたり、翔は自宅で寝て(翔んちはかなり狭い!)たりしていた。翔が学校に行っている間、家ではフライと、翔の母親が、翔を巡ってバトルしていたらしい。

 ━━翔は友人たちにも事情を話していて、フライと一緒に別れを告げに学校に行った(他校の友人とかにも電話したりした)。

 みんな突然現れた猫にびびっていた。翔が言ってた爆笑話は本当だったのか⁈ 本当にあいつ宇宙猫とつき合ってるのか⁈ 本当に彼女と出てっちゃうのか⁈

 フライは知っている名前の人たちを嬉しそうに眺め回した。申し訳なさそうに、友人たちに別れを告げる彼を見ていた。

 このことにより、密かに翔を好きだった女生徒たちが何人泣いたかはわからない! そもそもそんな奴いたかもわからない! だが、彼らはたくさんの餞別せんべつをくれた。ちゃんと事情がわかっていたのか知らんが、保健室の大谷先生とか、いろんな先生まで餞別をくれた。

 消しゴムから始まって、制服のネクタイ・リボン数十本などその場にあった物、なぜかおもしろがったヤローどもの第二ボタンの……、使い古したケータイとか(宇宙で使えるのか⁈ ━━翔は今時ケータイも持ってなかった)、わざわざコンビニで食い物とか買ってきた奴もいた。

 フライは遊園地のヒーローみたいにたくさんの生徒とかと握手しまくっていた。写真撮ってる奴までいた。もう学校中授業そっちのけ! 笑いの嵐! 大混乱!(だって、二足歩行のでかいきぐるみじゃない垂れ目の猫と、猫系の顔をした男子生徒のカップルが現れたのだ━━いきなり!)

 物ばかりではなく「がんばれよ〜!」とかの温かい言葉や、あったかな思いをくれた人たちもいた。翔たちは知った。人間も猫たちに負けないくらいお人好しだったのだと。翔とフライは涙ぐみながら、みんなと一緒になって笑った。


 久しぶりに乗ったユウゾウは、すごいことになっていた。ユウゾウには、いつでもすぐに乗り込めるようになっていたし、ロボットたちもすぐ動く。

 ━━マイティの仕業らしい。

 城の宙港で、マイティは言った。

「本当は僕も行きたかったんだけどな......。でも、僕には他にやりたいことがあるからさ。グッド・ラック! 翔、フライ!」

 で、ユウゾウ内だが、なんと三角関係が四角関係に発展した。サカモトがいきなりカナエに告白したのだ! 

 スギタ、ナカジマ、サカモト━━さぁ、一体誰がカナエの心を射止めるか! 

 船内では大賭けパトルが行われてしまった。……平和らしい。

 だが、一番最初に賭けとか言い出したのは翔たちなので、人のことは言えない。

 一番人気はスギタ。対抗はサカモト。ナカジマは全然人気なし。賭けてるのは翔くらい。危うし、翔&ナカジマ!

 ユウゾウに乗る前、カナルの家に行ってみたが、彼は留守で、ミミちゃん人形持った小さな猫が、

「お兄ちゃんは、『じいさんを追う』とかいって出てっちゃった。でも、お土産買ってきてくれるっていってたから、そのうち帰ってくるよ」

 と笑っていた。

 無論カナルの船にも通言を入れたが、繋がらなかった。 

 しかし、宇宙へ出ると、もっとすごいことになった‼︎

 エイムにも宇宙の果でに行くとか通信を入れたのだが、彼女、例のイカ型船でやってきて、自分らも一緒に行くとのたまった! 

 どうも、情報屋が「ニャンピースは宇宙の果てにある!」とかホラ(?)吹いたのが原因らしい。

 更に、どこからともなく子竜たちがやってきた!

 『最近、全然カナルが遊んでくんなくってさ~よかったら、友だちになってくんない? あれ、そのイカ船、クラビーとシラーが前に会ったっていってた奴? 友だちになってっていう前に帰っちゃったんだよね〜』とかテレパシーで言っている。

 「宇宙の果てに行く」といったら、『じゃあ、僕たちも一緒に行こうかな~どっしょ~かな~』とかいいながら、ついてくる。 

 ブリッジではユウゾウが、名案(?)を思いついた!

「どうせなら、宇宙の果てでフライたちの結婚式をしましょう! 船内で、派手な酒宴をしましょう!」

 ━━フライがお気に召したらしく歓声を上げている。

 翔はちょっと不安になった。

「俺、結婚できんのかな~? 式なしで結婚ってのもどうかな~? いや、別にフライと一緒ならそんなのどうでもいっけどさ~」

 とかなんとか。

 翔には、フライたちと逢ってわかったことがある。

 世の中、宇宙ん中、なんでもありだってことだ。

 夢だって、描き続ければ、努力し続ければ、叶うのかもしれない。

 コロンブスだって、マゼラン一行だって、アメリカ到達とか、世界一周とか、すごいことをしてきた! 

 スプートニク1号だって、打ち上げられたし!

 カガリーン少佐だって、「地球は青かった」とかいってるし!

 人類はお月さまにだって行っちゃったし!

 ━━翔たちだって、きっといつか、宇宙の果てに辿り着けるかもしれない! ……たぶん。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


実は、この話は20数年前に書いた過去作ですが、今でも愛しています❤️


檻城の姫君の物語はここで幕を閉じますが、また新しい物語で皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。


✨【大切なお知らせ:新作公開】✨

明日、3月23日(月曜日)より、

新作『シークレット・ラビリンス(シクラビ)』の連載をカクヨムとnoteで開始します!


毎日1話ずつ、お届けする予定です。

現在カクヨムで連載中の『月明かり』と共に、ぜひ遊びに来ていただけたら嬉しいです!


▼ 新作・連載中の作品はこちら(カクヨム プロフィール)

https://kakuyomu.jp/users/usagisantoka


▼ 新作 note版はこちら

https://note.com/usagisantoka

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