第五話 「業火の果てに」
カナルは、もう逃げるつもりだった。これ以上はだめだ。死ぬ気ならもっと時間稼ぎもできるけど、ぼくらに死ぬ気はない。もう逃げる。少しは翔やフライ様の役に立てたかな……?
━━それにしても、ライズはすごい。クラビーとシラーの前方・後方・左右にワープしまくってきて、レザリアムも撃ってきて! 子竜たちとシンクロしてるぼくは怖すぎて気絶しそうになった。マイティ様はやっぱり天才‼︎
レザリアムは思ってたよりあんま撃ってこなかった。<溜め>てたせい⁈ じいさんに聞いてたのと、なんか<溜め>てんのにダメージカウント違わない⁈ じいさん、ボケ⁈ 本当に例のドラゴンマスター⁈ ぼくの勘違いだったんですか⁈ 師匠⁈
ああでもなんかもうよくわかんないくらい怖い‼︎
「クラビー、シラー、プトレー、逃げるぞ‼︎」
カナルは向こう見ず。絶対生きて帰ると決めていても、それだけ。とにかく、今から必死に逃げるだけである。
通信が入った。こんな時に。しかも、相手はマイティ。一体なに.....? 油断なく、通信画面の黒猫を睨みつつ、カナルは逃げる。自分の船と、ドラゴンたちを遠くへ。できるだけ、遠くへ━━。
いつのまにか、サメ型船の攻撃が止んでいる。
「……おまえが、ドラゴンマスターだな?」
黒猫は超クール。金色の眼と目が合った。一瞬、睨まれるみたいで、すごく怖かった。でも、カナルは冷静になった。子竜たちとシンクロしてるカナルにはなんかもうわかった。今の彼は危険じゃない。━━少なくとも自分たちには。
さすがに、マイティの心を読むなんて、カナルにはできなかったが(じいさんならどうだろ?)━━、カナルはシンクロをやめた。もう必要ないと悟った。
「……そうです」
「名は?」
「カナルです」
「そうか。カナル。質問してもいいか?」
「? はい」
「ドラゴンは、優しい生き物か?」
「えっ? そうです」
「…………凶暴か? 復讐するのか?」
「? 意味がよくわからないのですが?」
「……カナル。忠告しよう。このままでは君の大切な竜たちが死んでしまう。大人しく逃げれば、私も争いはしたくない━━見逃そう」
「本当ですか! マイティ様って冷酷とか言われてるけど、実はいい猫だったんですね⁈」
「ふふふ……。いいか。これは、悪役の余裕だ。<貸し1>だ。忘れるな」
「はい‼︎! このご恩は必ずお返しします‼︎ 死んだ相父がいつも言っていたんです。優しくしてもらったら、優しさで返せ。助けてもらったら助け返せ。恩は恩で返せ。目には目を歯には歯━━あっ、それは違う‼︎ ……持ちつ持たれつ。そう思いません?
あ、でも、お金の貸し借りはいけないと教えられました。断るのはぼくは苦手だけど、極力そうしてます。本当に困っていると思った奴にだけ、祖父には悪いけど内緒でお金貸したことがあります。え〜と、まだ返してもらってないけど、まあいいです。きっとソイツまだ困ってるんです。
気持ちの貸し借りならいいですよね?」
「……とてもナイスなおじいさまだね」
「そう思いますっ? 嬉しいなぁ。ぼく、今日からマイティ様のファンになりますっ‼︎」
「いい子だ。君は素直で優しいいい子だね」
「えへへへへ」
「忘れるな。<貸し1>だ。だから、君はとてもいい子だから━━キャトラを破壊しようなんて、ばかなこと考えちゃいけないよ。何があっても、復讐なんてしちゃいけない。君の大事なドラゴンたちにもさせちゃいけない」
「はいっ‼︎ マイティ様って、優しいしかっこいい。ぼくもマイティ様みたいになりたい‼︎」
「ははははは。あはははは」
「ふはははは。へへへへへ」
「というわけだ。カナルくん。これからは、君と私は友人だ。争いなんてばかなことは二度としないようにしよう」
「はい‼︎ ……あ、でもぼく、こんなことしちゃったし、もうお尋ね者ですよね。マイティ様、お気持ちは嬉しいですが、ぼくなんかと友だちにならないほうがいいですよ……」
「何を言うっ‼︎ そんなことは、私が絶対阻止する‼︎ 君をお尋ね者なんかにさせない‼︎」
「……そんな…」
「持ちつ持たれつ。━━友だちだろ?」
「……ぼく、もうなんといっていいか……」
「<貸し2>だな」
「あぁなんてなんていい猫なんでしょう‼︎」
「……ふっ、ばかめ……」
すっかり安心したカナル。すっかり油断したカナル。
『カナルカナル。騙されちゃだめ。ソイツの心、真っ黒』
「なに、言ってるんだよ。シラー」
『カナルだって、見ようと思えば、きっと見えるはずだよ。なんで勝手にシンクロやめちゃうの! ばかカナル』
「黒いのなんて当たり前だろ? マイティ様は黒猫だもん」
『そうじゃなくて、こいつ、なんか企んでる』
「……君は、一体誰と話しているんだ……?」
「え? ドラゴンです」
「……ドラゴンと話ができるのか⁈ ……純粋ぼけばけばか正直なくせに、怖い奴だ……」
「え?」
「いや、君はとっても純粋で正直で、猫を疑うことを知らないいい子だといったんだよ」
「えへへへへ」
「君は、何か欲しい物はないか? 友だちになった記念に何かあげよう。友情の証だ」
『賄賂だよ賄賂!』
クラビーまで言う。
「お気持ちは有り難いですが、ぼくは特に欲しいものなんてないです」
「欲のない少年だ。それじゃあ、そろそろ君はおうちに帰りなさい。忘れるな。<貸し2>だ。バカなことを考えてはだめだよ。私たちは友だちだ。末永く仲良くしょう」
「は~いっ! さようなら。マイティ様っ‼︎」
「ふっ……ふふふふ」
「……あ。でも」
「な、なんだねっ⁈」
「フライ様と翔のことです……。マイティ様、お願いです。フライ様のお気持ちを考えてさしあげてください。前にお会いしたとき、フライ様はおっしゃっていました。自分はもう姫に疲れたと。女王にはなりたくないと……」
「…………」
「どうかお願いします……。フライ様を、逃がしてさしあげてください。フライ様は、すべてぼくにお話しくださいました。翔は被害者だと。自分の家出に巻き込んだだけだと……。翔は本当は、地球へ帰りたがっているのだと」
「……フフフ。カナルくん、君は知らないんだね。フライとが翔が今どういう関係か……う”、イヤなこと言っちゃった……、何を求めて逃げているのか」
「友だちみたいなもの……かな? 目的は、フライ様は逃げたくて、翔は帰りたくて……」
「恋人とか……う”……宇宙の果てとか、なんも知らないね⁈!」
「宇宙の果て? 恋人? 恋人って? あ、関係ないけど、うちの両親、今でも恋人気取りなんですよぉ。いや、新婚気取り? 毎朝毎晩キスしちゃって」
「ヴォー‼︎ いやなこと想像しちゃった‼︎ フライたちがキスしてんの‼︎ しかも超ディープ‼︎」
「? ディープって何です? うちの両親は、いつも小鳥が餌つつくように、何度も短いキスをしますけど ?あ、長さですか? それとも、愛の濃さ?」
「いや、だからそれはその……ヴアー‼︎ また想像しちゃった‼︎ しかも、もっともっとアレなことまでっ‼︎ こっ、これ以上はだめだっ‼︎ カナルくんには話せんっっ‼︎ 僕もマジでブチキレちゃうかもっっ⁉︎」
「マイティ様? 顔赤いですよ? マイティ様って……もしかして、ちょっとヘン……?」
「コホン。君は、生放送は観ていなかったんだね。……いや、生放送でも彼らの詳しい気持ちとかまでやってなかったかな……?」
「???」
「いいか、カナルくん。フライ様はまだお若い。今はああ申しておられるが、フライ様も、もう少しすればきっと気づく。『ああ、やっぱりおうちが一番! 女王になるのが一番なのよぉ‼︎』……と。やべ、王妃とおんなじよーなこと言ってる……。ともかく、そうなのだよ。君はまだ子供だからわからないかもしれないが、大人になればわかる。大人には大人の事情があってな。それに、君はフライ様のご友人か何かかもしれないが、いいか、君は他人だ。いや、怒るなよ⁈ 真実、他人なのだ! 他人の問題に口を出すべきじゃない。
だが、私は婚約者だ。家族も同然だ。そういうことにしとけ。だから、これはフライ殿下と、両陛下と、私で解決する問題なのだっ‼︎」
「……そんなもんなんですか?」
「そうだ‼︎ 家族会議してフライの悪いようにはさせんから‼︎ 君は引っ込んでなさい‼︎」
「え”ー」
「そっ、そんな不満そうな声を出さんでくれ。武力行使はよくないぞ⁉︎ だ、だからだね、カナルくんっ‼︎ ちゃんと、フライの一番いいように、みんなで話し合うから‼︎ たとえ、それでフライが女王になることになっても、君は黙って、そう、見守っているんだ。それが愛だっ‼︎ 友情だっ‼︎ 宇宙の真理だっ‼︎」
「……そうなのかなぁー……?」
「だから、もう君は帰りなさい‼︎ フライのことは放っておきなさいっ‼︎」
「……は、はあぃ……」
「よしっ‼︎ とっとと帰れっ‼︎」
「.....でっ、でも、翔は………⁈」
「翔━━⁉︎」
「だって、翔は、大犯罪者・超ビッグお尋ね者ってことになっちゃってるし......。殺されちゃうんでしょう⁈ ぼく、それはイヤです」
「……チッ……。やべ。だからだね、それはだね、そもそも、手配したのは、翔を連れてきた、ペルシャ、シャム、アメリカンショートヘアの三ばか猫の独断でね、私の意志じゃない。私は関係ない。あいつら今、牢屋ん中だし。
━━あんな大金誰が払えるってんだボケ! ちょっと考えればわかるだろ⁈ そもそも手配なんか勝手にすんな‼︎ 王と王妃も止めろよっ⁈ 一体どうなってんだ僕の星⁈」
「……えーと、じゃあ、一億猫大判って、嘘なんですか⁈ 嘘はいけないんですよぉ⁈」
「えーと、だから、私は彼を殺す気はないんだよ。……ないってことにしとけ。でも、本当に捕まえた奴がいたら、金は分割で代々払ってく! ……どうせ、奴を殺るのは僕だし。うん。うまくごまかした。ハッタリは得意だ」
「はぁ……?」
「……え、えーと、だから、アレだっ! 翔は、帰りたいんだろう⁈ だから、私も彼を帰すよう、最大級の努力をしよう‼︎ 記憶イレースとか、いろいろ方法はあるんだ‼︎ でもだね⁈ この私でも、できないこともあるんだ‼︎
これから、私は例のお魚船に突撃するが、それはたとえ宇宙が消えたとしても、どうしても変えられないことでね、神の意志でね、だから、行かなきゃならないんだけど、その後のゴタゴタで、もしかしたら、というか、どうなっちゃうかは、誰にも絶対わからないのだよ‼︎ だから、絶対には、彼の安全は保証できないが、努力しよう!! 彼を帰すよう、生かすよう、九十九%くらい努力しよう!! 後の一%は保証できんがな。フフフフ」
「……な、なんか、よくわからないけど……、マイティ様は翔を<生かす>よう努力する。翔を<生かし>に行くと……? フライ様のお心を<生かし>たいと? そういうおつもりなのですね? そうしに行くのですね?」
「あっぁあもちろんそぉだぁっ‼︎」
「……なーんだ。心配して損した。クラビー、シラー、プトレー! みんなっ、帰るぞぉ!」
『カナルー』
『本当にいいのぉ?』
「なに言ってんだ、クラビー、シラー。いいに決まってんじゃん」
『カナルぼけぼけ。カナル単純バカ』
『黒猫もばか。黒猫おかしい』
「こらあ、マイティ様をバカにするなぁっ‼︎」
『キャー』
『カナル怒ったー』
「フフフフ。よかった。ばか猫で……」
「? なんか言いました? マイティ様?」
「い、いや……」
『カナルカナル!!』
「うん? なんだよ、プトレー。さっきからずっと黙ってると思ったら?」
『━━カナルカナル、来るよ来るよっ‼︎』
「何が?」
カナルの言葉が終わるか終わらないかの時。宇宙に咆哮が響いた
。耳を聾するような、咆嚀。
『パパだあ!!』
カナルの船の遥か上空(?)に、紫の親ドラゴンが現れた。でかすぎて、遠近感くるってる感じ。と、いうか、カナルの船からじゃ、足の裏とかしか見えない。もう、描写すんのもばからしいほどのでかさ‼︎ もう、細かいことは考えるな‼︎ 細かい突っ込みはナシだっ‼︎ とにかくでかいことにしとけっ‼︎
「う”あーっ⁈ ま、まじで親竜が来たー⁈ 一匹だけど!」
「なにパニクってるんですか? マイティ様」
『なになに? プトレー、お迎え? いーなあ。うちなんて今日さ、パパがママと結婚記念日とかいって出かけちゃってさー。僕が今日、カナルを助けに行くから、パパたちも来てーっていったのに、全然聞いてくんないのお‼︎ 子供より、かーちゃんが大事なんて、それってさ、マザコンっていうんだよね⁈』
『マザコンっ、マザコンっ‼︎』
『それって、ちょっと違くない……? でも、シラーなんかまだいいよぉ。うちの父親なんかさー、接待機待機待とかいって、オフの日でも全然おうちに帰ってこないし、母親なんて、いつもいつもぐーたらしててさ、私がいっつも、おうちのことやらされてんのっ‼︎』
『クラビーかわいそう』
『プトレーはいいなぁ。そりゃ、お母さんいないのは悲しいだろうけど、パパはお迎えに来るほどプトレーが大切なんでしょ? えっと、そういうの、なんていうの? チャイコン?(←チャイルドコンプレックスの略)』
『チャイコンチャイコン!』
『そんなことねぇよぉ。今日パパが来てくれたのって奇跡だぜ? 最近、株で損したとかで、いつも竜酒飲んで酔っぱらっててさー』
『みんな、苦労してるんだね……』
再度、咆哮。
『プトレーの父ちゃん、酔ってて何言ってるかわかんねー! にしても、相変わらずでけー! プトレーの父ちゃん、宇宙一でかい紫竜だってドラゴンギネスに載ってるくらいだもんな‼︎ 何食ったらあんなでかくなんだ⁈』
『━━行く行く‼︎ 今行くよ‼︎ パパぁっ‼︎』
『ほら、カナル‼︎ 言うこと聞いたんだから、今度は私たちと遊んでよね‼︎ ちゃんと竜鐘なったら、おうちまでお見送りするから‼︎』
「え? え? え? でも、みんな、バトルで傷ついてるじゃん⁈」
『だから、お休みしながらできる遊びすんの』
『早くしないとパパ暴れるぅ‼︎』
『行くよカナル! ジャ~ンプ! ワ〜プ!』
「待って‼︎ フライ様たちと友だちになるとかなんとかいってなかった? それに……」
『そんなん今度でいいよ! テレパシーだけじゃなく、今日はカナルと会ったり、シンクロしたりできたんだもん‼︎ ━━遊ぶのぉ‼︎』
「ど、どんな遊びだ⁈ どこ行くんだ⁈」
『いいからいいからっ!』
咆哮。
脅威は去った。なんかしらんけど、去った。
……もう、なにがなんだか。なんでこんなことになったんだろう? 自分パニックしてて、何を喋っていたのか、全然覚えていない。わからんが、うまくいったらしい。
マイティは溜め息を吐いた。
でも、また来たらどうしよう……?
なんて不毛な争いをしていたのだろう。なんてばかなことに時間使っちゃったんだろう。ドラゴンに比べ、猫はなんてちっぽけな存在なんだろう。七竜相手にがんばったらしい、古代キャトラの猫たち。すげー。
そうだ。こんなことしてる場合じゃない。フライを追わないと……。そもそも、あのドラゴンたちが出てきてから、なんか変なことになったのだ。アイツらこなけりや、もっとスピーディーな展開だったのに。もう来んな。頼むから。
フライ。フライ。フライ。フライを女王にする。意地でも刹那主義でもなんでもいい。その後のことはもう考えられない。とにかく女王。光り輝く女王様。それでいい……。
「ライズ! 大詰めだ‼︎ 乗り込むぞ‼︎ フライたちの船にっ‼︎」
……透けるような、白のような、金のような、不思議なボディ。七色に輝く不思議な瞳。
ライズの猫型ホログラフィー。
「マスター。あなたはそれでいいのですね?」
「━━なっ、なんだ⁈ ライズ⁈ 誰が出てきていいと言った⁉︎」
変だ。どうして勝手に現れた? ライズみたいな危険な船が、勝手な行動をするなんて考えられない。好きにしろと命令したならともかく。いや、そう命令しても、絶対危険なことや命令違反はできないが━━。
「何を言っている。いいに決まっているだろう。ホログラフを消せ。フライたちの船を取り囲むように、七艦すべてをワープさせろ」
「マスターの思うままに」
ライズは笑った。透明感のある、綺麗な笑みだった。そのままホログラフィーは消えた。
絶対命令に逆らえないライズ。なのに、どうして出てきた? たったこれだけのことでも、ライズみたいな頭のいい船がするなんて。
あぁ。もしかして、ライズはこう言いたかったのかな。
「やめろ」
と。でも命令違反になるようなことは、決して言えないから。
「思うままに」は、「やめたほうがいい」という忠告? 僕のため? それともライズが嫌なだけ?
「ありがとう、ライズ」
マイティも笑った。
「僕は、おまえが嫌いじゃないよ」
ライズを解放してやりたい。自由を奪うプログラムなんか、消してやりたい。
「でも……」
自らそのプログラムすら破壊して。僕を止めてくれないか━━。できるわけない。あれだって、きっと、限界なのに。
「僕は、もう、なんにもわからないんだ。見たくないんだ。フライと、あいつが笑うのは、もう見たくないんだ……」
いつも応援いただき、本当にありがとうございます!
いよいよ次回、『檻城の姫君』は最終回を迎えます。
最終回は、物語の雰囲気に合わせ、3月22日(日曜日) の夜 21:00 投稿予定です。
休日の夜に、静かに幕を閉じる翔とフライたちの行く末を、ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです!




