第四話 「来訪」
フライが驚いて、緑灰色の瞳を揺らす。━━とても、当惑したその瞳。 「翔……?」
「俺……‼︎ 俺……っ‼︎ この船にいる‼︎」
「ホントにぃ⁈」
今度は、フライのほうが、翔の上半身をベッドへ押し倒した。お忘れかもしれないが、フライは力持ちである。猫はばか力を持っている。エイムが翔に抱きついたときとかは、あれで彼女ちゃんと力をコントロールしていたのである。猫は運動神経もいい。
「ホントにぃ? いいの⁈ 死んじゃうかもしんないんだよっ⁈ 翔、わかってんの⁈ 私は、まだいいよ。城へ連れ戻されるだけ。でも、翔……翔は、翔はさ……」 死ぬのはイヤだ。フライが、城へ連れ戻されるのはイヤだ。フライはあんなに嫌がっている。それに、マイティかいう黒猫と結婚しちゃうのはイヤだ! とにかくイヤだ!
「ごめんね……ごめんね……翔.......」
涙が、フライの涙が翔の頬へ落ちた。
「......フライ……」
翔は軽くフライの腕を押した。フライはそれに気づいた。フライと翔は上半身を起こす。
「......なに、泣いてんだよ」
翔は、フライの涙を指で拭ってやった。立ち上がって、窓のほうへ歩み寄る。
━━宇宙。窓の向こうに広がる無限の世界。フライのおかげで、見れた物。教室や家の、机の前じゃ、見られなかった。教科書の中の宇宙なんかじゃない。本物の、宇宙。この広い宇宙を好きになった。愛しいと思った。すべて、フライのおかげだった。
翔は振り返った。大好きな、愛しい猫。翔にとっては、彼女こそが宇宙だった。理屈ではなく━━そう思った。
翔は言った。
「どうせもう、今からエイムのとこ行くのは難しいんだろ?」
フライはベッドに腰掛けたまま俯いた。
「うん……本当は……もう無理だと思う……」
「なら、なんも考えることねーじゃん。つてか、最初からその気もねぇし。……でも、俺、死ぬ気もねぇよ」
翔は力強く笑った。。
「生き残る。━━だって、俺たち、宇宙の果てを見るんだからっ!」
エイム。カナル。━━翔は、ユウゾウから二匹へ特殊迷彩した救援情号を送った。カナルの船のナンバーはユウゾウに通情検索させた。もしかしたら、そんなもの送らなくてもこの異常事態には気づいているかもしれない。厳冠は近い。
━━来てくれるかはわからない。彼らを犠牲にしたくはなかった。本当なら、来るな! というべきなのかもしれない。だけど、翔は生きたかった。フライと一緒に宇宙の果てへ行きたかった。嗤われたって、エゴイストといわれようと、何をしてでも助かりたかった。フライを、檻から出してやりたかった。
この宇宙で頼れるのは、あいつらしかいなかった━━。
翌日。その翌日だった。もう、マイティはやってきた。




