第三話 「迫り来る檻、触れる唇」
急に、慌ただしくなった。報道船が増えた。
なんか猫たちの目つきが変わりだした。殺気立ち始めた。
一度なんか、本当に発砲してきた。いや、それは単なる脅しで、黄の龍のような光線がユウゾウの横っ腹の更に更に横を過ぎ、その辺の小遊星へ向かっていっただけなのだが。
小遊星は風穴開けられるだけじゃすまなかった。要するに、お亡くなりあそばされた。
━━ゆゆしき事態である。猫はばかだけど、ばかじゃない。どこぞの船はそういった。ミラクルな科学力。ミラクルな攻撃力……。そう。ユウゾウのシールド等も実は結構強力である。
カナルだって、エイムだって、あの黄のような砲撃をしてきたけど━━翔は今までその壊力を知らなかった。もしもシールドが破られて、あれを食らったらどうなる……? 翔は忘れていた恐怖を思い出した。戦壊した。自分は最初、死にたくないとか騒いでいなかったか......? エイムは忠告してくれた。あんなに必死に。━━舐めていた。自分は猫たちを舐めていた。だって、彼らはばかだったから。フライが「自殺してやる~」とかいうと尻尾まいて帰っていったから。
……死ぬのか⁈ 俺は……死ぬのか……⁈ Xデーは、もう日前だ。
「翔……無理しなくて、いいんだよ」
翔は自室に閉じこもっていた。小遊星木っ端微塵事件のあったあの日からずっと、翔は部屋にこもりがちだった。
翔は、ベッドに腰掛けて、制服とショルダーバッグを抱き締めて震えていた。なんだか発狂しそうになっていた。
フライが部屋に入ってきたのにも気づかなかった。彼女が喋って始めて、亀のような緩慢な動作で、青い顔を上げる。
「……な、なに言ってんだよ、フライ⁈ 平気、さ。平気………平気だよ……」 夢を見る。光の龍が追ってくる。逃げても逃げても追ってくる。青い星。青い星へ手が届きそうになる。でも━━届かない。手は消える。体も消える。自分は、光の龍に飲み込まれる。なんにも見えない。聞こえない。感じられない。自分は━━《《死ぬ》》。
フライは、翔の隣に暖を下ろした。
「翔…….。エイムさんの所へ行ってもいいんだよ。今から翔を逃がすのは難しいかもしれないけど、私……なんとかがんばってみるから……」
「は、ははは……な、なに言ってんだ?」
「翔……もう、日にちがないの。戴冠式は目前なの。ばかだった。私、ばかだった。本の中のヒロインになってただけなの。悲劇のヒロイン気取ってただけなの……翔のこと、こんなに好きになるとは思わなかったの……」
「なに言ってんだよ……フライ」
「だって、見てらんないよ。翔のこと見てらんない。最近の翔は、ガラスみたい。壊れちゃいそう。笑わない」
「な、なに言ってんだ? 笑ってんじゃん。ほら……あは、あははは、あはは……」「もう、今からそれ壊しても遅いよね………」
フライは、期の猫ピアスを見た。翻訳機。そして━━発信器。
代わりはない。携帯用の地球語(数カ国語対応)翻訳機は、猫と科学の星キャトラにも、数えるくらいしかない。
サメ型船には、異星人観察用に翻訳機能とかがついているが。これがないと地球人の、日本人の、翔と━━話ができない。かといって、これをいじれる奴はユウゾウにはいない。こんなもの、初めから壊しておくんだった。いいや、だめだ……マイティ。神猫ともいわれる彼。科学技術はすごいくせにどっかばかばっかな猫の星一番の天才。
あいつは……こんな物なくても追ってくる。あいつは、フライを逃がさない。いつもいつも近寄ってくる。自分を人形にするために。自分と結婚して、不動の王になるために。王と王妃と同じくらい、もしかしたらそれ以上の━━あいつは━━檻だ。私を閉じ込める黒い檻だ。
「翔。猫は、マジでキレたら怖いよ」
「え? あー、カナルみたいに無鉄砲になるってこと、かな……?」
「あんなんじゃない。あんなのまだいいほう。もしも、マイティがキレたとしたら、あいつ、普段から天才なのに、いや天才だから……どうなるか。いや、あいつならキレなくても充分怖い。だってマイティはネズミの星を……」
翔はいきなり頭に血が昇った。ベッドに腰掛けたフライの上半身を、力任せに、ベッドへ押し倒した。彼女の両腕を鷲掴みにしたまま叫ぶ。
「言うな!」
「……翔……?」
「アイツの名を言うな……っ‼︎」
マイティ。その名をフライが口にするのが我慢できない。
「フライは好きなのか⁈ ソイツがっ‼︎」
婚約者。
「……なに、言ってんの……? 大嫌いに決まってんじゃん!」
「ほんとか⁈ ほんとにほんとにほんとに、心の底から嫌いかっ⁈」
「…………。昔は、嫌いじゃなかった。子供の頃は、今みたいじゃなかった。やっぱりクールだったけど、とても優しかった。優しく笑ってた。権力なんて、今よりなかったし、そんなの気にする奴じゃなかった。
ちょっと……好きだった。
でも、今は大嫌い。いつもいつも威張ってて、王になることしか頭にないような奴。そのために、私を手懐けようとする奴‼︎ 大っ嫌いっ‼︎」
━━好きだった。好きだった。好きだった。
翔はもうなにも聞いていない。その言葉だけが、頭の中でリフレインする。
「私は、翔が好き。優しくて、温かな、あなたが好き」
翔は、自分が何をしようとしているのか、わからなかった。ただ、マイティが憎かった。 翔は、何か言い続けるフライの口を、自分の唇で塞いだ。
「………ん……っ………!」
短いキスだった。でも━━最初のキスよりも、少し長いキス。




