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檻城(おりじろ)の姫君 ━━檻の城で、自由を夢見た姫君━━  作者: うさぎさん⭐︎
第四章 婚約者

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第一話 「マイティ」



 王は、役に立たない。<人魚姫>のことで頭が一杯の、単なるアホだ。

「フライ? あ~悪いけど今忙しくって、適当にやっといて」

 とかぬかしている。

 王妃は王妃で、やっぱり役立たずだ。

「あの子ももう子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるでしょう。凶悪犯? 大丈夫大丈夫。なんとかなるでしょう。みんなには秘密にしてるけど、本当はあの男の子のほうが被害者だし。そりやそうよ。地球人のほうからこっちにこれるはずないじゃない? そんなことにみんな気づかないなんてね~。裁冠式までに帰ってくればそれでいいわ。最後の青春を謳歌おうかするってのも、なかなかどうしていいんでない? あの子ももう少ししたら気づくわ。結局はおうちが一番いいんだってね」

 とかほざいている。 

 これでいて、娘の前や民たちの前ではこやつら別人のようになる。威厳とか漂わせちゃうのである。とりあえず、王とかの自覚はそれなりにはあるらしい。

 フライにまで厳しくするのはどうかとも思うが、それも実は彼らの期待の裏返し。愛情の裏返しなのである。ちょっと変で不器用でばかな猫たちである。

「フライ。いいか。おまえは大きくなったら、この星の女王になる。だから、一杯一杯勉強するんだ。立派な王となれ。民のことを考える猫となれ」

「フライ。自覚を持ちなさい。いつだって姫らしく振る舞いなさい。あなたは他の猫とは違うの。わかったわね?」 

 とかなんとか。小さい頃からずっとだ。その度フライはいつも同じセリフを言う。「はい。わかりました。お父様。お母様」

 壊れたロボットみたいに。

 王と王妃は何も疑問に思わず、こう続ける。

「よしよし。いい子だ。そのまま立派な王となれよ」

「いい子ね。あなたは姫。それを忘れてはだめよ」

 一見、優しくて、でも……姫と王としてしか、彼女の存在価値を認めない厳しい言葉だ。

 だから、フライは笑わなくなったのだ。壊れたロボットになってしまった。表情一つ浮かべない。

 なのにばかな王と王妃は気づかない。

 それがフライなのだと━━笑わないのもフライの性格だと思って許している。本来、姫は笑うべきである。愛想笑いでもすべきである。でも、ばかな王たちはばかなところで寛容であった。

「ま、いっか。あの子は超かわいいから、いるだけで花になるし。好きにさせてやろう」

 とかなんとかかんとか……。マイティは、このばかな王と王妃をどうにかしちゃいたいと前々から思っていた。思っていたけど、さすがに王とかにそれはできなかった。意見できなかった。

 でも、今回ばかりはキレそうになった。

「てめーら、娘をなんだと思ってるんだ⁈」

 そういってブチキレて、殴ってやれたらどんなにスッキリしただろう。でも、マイティは表面上はクールな猫だった。

 宇宙のように黒い体と、<猫の月>のような金色の瞳。この星において、黒猫は貴重である。地球とは違って、なんでだか全然いない。それだけでマイティは偉かった。それ(プラス)公野家のプリンス。+姫の婚約者。超偉かった。

 実は、ばかな王と王妃に変わって、政治とかいろんなことをマイティがやらされていた。まだフライと結婚もしていないのに、王みたいなコトさせられていた。結婚しても、あくまで王はフライで、マイティはその結婚相手に過ぎないのに、いろいろめんどくさいコトやらされていた。そのくせに、王たちはすっげー偉そう。目立ちたがり屋だし、人の手柄まで自分たちの物にする。マイティは、いつも舐められないよう、威厳を保っていた。

 いろんな奴らに無能とか思われないよう、星の平和を維持するよう、いろいろがんばってた。で今回も、なんか犬の星へ行かされた。そうしたら、フライが男と一緒に家出した。

 なのにばかどもは知らせなかった。犬どももな~んも言いやがらなかった。自分は犬たちとドンパチ起こらないよう、頭下げて馴れ合いさせられて、いろんなトコ駆け回さされて、吠えられそうになって、追いかけられそうになって、忙しくって忙しくって目が回ってた。

 やっと暇ができて、テレビつけて猫ニュース観たら、フライが映ってた。急いで帰つてきた。ばかな猫どもは手配書とか配ったりして、事件をおおやけにしやがって、しかも失態ばかりやらかしている。イカレてる。

 ……自覚はあった。フライは自分を嫌っている。だから、自分の留守中を狙って逃げ出したのだ。

「私、あんた嫌い」

 みたいなこと言われたこともあった。ショックだった。

 ──マイティには、夢がある。フライを笑わせること。自分の前で彼女がもし笑ってくれたらそれだけで死んじゃうかもしれない。そのくらい嬉しい。

 だって、彼女は決して笑わない。自分が何かしても、絶対笑ってくれない。カツブシ持ってっても、にらめっこしても、優しい言葉をかけても、なんでだろう、笑わない。

「マイティ様。私、勉強しないといけません」

 とかいって相手にしてくれない。……そう。わかっていた。彼女は自分が大っ嫌いなのだ。偉そうだから。実際偉いから。威張っているから。城のかなめをやらされてるから。婚約者だから。彼女を縛りつける物の一部だから。

 小さいころ<檻城の姫君>の本をプレゼントしたのは自分だ。伝説の書かれたあの本。アレがたぶんいけなかった。そのうち、自分=檻にされてしまった。それも、檻のかなりの部分を占める檻。フライはアレを気に入ってくれた。だって、よく読んでた。嬉しすぎた。

 でも、本屋であの本の隣にあってどっち買おうか迷った<最高王子様>のほうにしとけばよかった。何が最高かはわからんが、そっちのほうがたぶんよかった。

 フライは自分がアレをあげたことも覚えていないかもしれない。

 女の子の気持ちは宇宙よりもナゾだ。特にフライはナゾだらけ。どうしたら、笑う?

 それはともかく、マイティは例の地球へ行けるサメ型船のガードを強化させた。一応、元からガードは固かったんだが──。……もしもアレを奪われたりしたら厄介だ。あの船は、まずいのだ.....。

 あの変な地球人を連れてきて、フライの寝室(!)へ手引きしたばか猫どもは、すっげーむかついたから、半殺しにして辺境の星へ流して一生開拓でもやらせてやろうかと思ったが、なんとか理性で抑えた。

 牢の中へは放り込んだけど。そいつら、一応偉い奴らばっか(科学の第一人者とか)だったが、ばかはばかだ。僕のほうが、遥かに偉いし。いや、でもやっぱり見せしめに星流しにするべきだろうか?

 フライには早く戻ってきてほしい。

 ──今度は、もっとフライのためになる本を探そう。彼女が笑ってくれるような本。

 絶対なんとかしてフライを笑わせられるよう、方法を考えよう。フライが笑うのを見られたら、こんなよくわからない地位捨てたっていい。もともと、好きでやってることじゃない。それでも、少しはフライのためになるならと、そのためにやってるだけだ。

 ……結婚できなくても──まぁ、いーかも。僕のために笑ってくれたら。  


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