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檻城(おりじろ)の姫君 ━━檻の城で、自由を夢見た姫君━━  作者: うさぎさん⭐︎
第三章 宇宙海賊

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第九話 「空翔ける風」



 翔は、ユウゾウの庭の超生の上に寝ていた。真っ青な空を虚ろに見つめている。

 雨が降ればいいと思った。

 ━━フライのことを考えていた。あれ以来、フライとは話していない。宴会も三日くらい、ずうっと続いている。もう止める気も起きなかった。翔の知っているフライは、幼い子供みたいだった。よく泣くし、よく笑う。なのにエイムは言っていた。フライは、笑わないと。

『 笑ってたもん!』

 フライの声が頭に響いた。

 彼女は、叫んでいた。頑なくらい、強い瞳をして。

『翔は、笑ってたもん!』

<檻城の姫君>。檻のような城にとらわれた姫。━━まさに、フライだ。彼女は、笑いもせず、ずうっと一人で、城の中で、姫君を演じてきた。

でも、きっともう疲れてしまったのだ。きっとすごく嫌だったのに、一生懸命我慢していたのだ。

 何がそこまで嫌だったのだろう。ばかなくらい平和な猫たち。結構楽しそうにも思えるけど……でも、フライには自由がなかった。他の道は決して選べないから。

 たぶん、生まれたときから、宿命づけられていたそれが、彼女には嫌で嫌でたまらなかったのだろう。

『あたいには、他にできることがなかったから』

 寂しそうに、エイムは笑っていた。

 フライはこれからどうなるのだろう。

 <檻城の姫君>は結局死んでしまう。少年は自分の星へ帰ってしまう。

 ……それでも、フライはいいのか? 

 ━━俺は、そんなの、嫌だ。

『十六で較冠するのが、王家の習わしさ。星を司りながら、子孫代々栄えさせていくのが、王家の使命だもん! あの子は、結婚しちゃうんだよっ‼︎!』

 ━━マイティ。

 誰だよ、そのばか猫っ‼︎  ちゃんと、フライの気持ちを思いやってやれるヤツなのか⁈!

『夢なの、宇宙の果てを見ること』

『ねぇ、行けるかな? いつか私、宇宙の果てに行けるかな?』

 翔は起き上がった。そのとき、草を踏んで、誰か━━やってきた。翔は、半身を起こしたまま、相手を見上げた。

「いい加減にしろ、翔‼︎  暴動が起こるぞ⁈」

 ナカジマだった。真っ白な顔を怒りで赤く染めている。

「カナエちゃんだって、このままじゃブッ壊れちまうかもしれねぇ‼︎ 食料だって、あんな勢いで食い荒らされたら、すぐ底をついちまうっ‼︎ どうする気だ⁈  極力、補充にどっかの星へ立ち寄るのは避けねぇとなんねぇんだぞ‼︎ それが宇宙にいるより、捕まる危険性の高いことだからだ‼︎ ━━おまえ、知ってるのか⁈  フライちゃんはなぁ……っ‼︎」

「━━フライ?」

「━━泣いてるっ、泣いてるんだぞっ‼︎」

「……」

「このままだとおまえ、宇宙へ放り出されるかもしれねぇぞっ⁈」

「……なぁ、ナカジマ。おまえ、カナエのことが好きか?」

「なっ……⁈ 何言ってんだこんなときに⁈」

「━━好きか?」

「……好きだ。だからなんだっ⁈」

 翔は笑った。おかしそうに、小さく何度も。

「何がおかしい⁈」

 それから、フライとねこじゃらし遊びしているときとおんなじ、温かな笑顔になる。

「がんばれよ」

「お、おう。じゃ、じゃあな」

 真っ赤な顔をして首を傾げつつ、ナカジマは庭から出ていった。

「な、なんでこんな話になったんだ?」

 と、困惑した声を落として。

 

 翔は一人になっても、まだ笑っていた。もう、雨が降ればいいなんて思わなかった。温かな陽光を感じていた。


 また、草が踏まれる音がする。今度やってきたのは、エイムだった。相変わらず綺麗だ。自分のために姿まで変えてくれるこの猫を、翔はもちろん嫌いじゃなかった。

「エイム。あのさ………悪いんだけど、もう、宴会はやめにしないか? 食料庫がさ、このままだとやバイんだってさ。それとさ。ごめんな……俺、行けない。エイムたちとは行けない。いつまでもこうしてはいられないんだ。俺は、フライと一緒に逃げなきゃならないから」

「どうしてっ? 翔、死んじゃうかもしれないよ! あの子は他の男と結婚するんだよ⁈」

「でも、フライが泣くから。フライにはさ、誰かがついてなきゃいけないんだよ。たぶん、アイツには誰もいなかったんだよ。笑ったり、泣いたりできる相手が━━だから、ごめんな」

 エイムの瞳からは涙がこぼれていた。目も鼻もみんな真っ赤になっていた。

 翔は、静かに立ち上がった。少し途惑った仕種で、エイムの背に両手を回した。

「ごめんな」

 翔は、エイムの髪を優しく撫でた。

 エイムは翔の腕のなか、泣き続けた。


 展望室に、フライはいた。たった一人で、しゃがみ込んで、宇宙を見ていた。

「フライ」

 声をかけるとフライは耳や肩や尻尾を震わせ、袖で乱暴に目を擦った。

「な、なぁに?」

 振り返ったフライは、へたなあくびをした。

「な、なんか眠いなぁ」

 俯き気味のフライの隣に立って、翔も宇宙を眺めた。

「行こう」

 翔は言った。

「一緒に行こう。宇宙の果て」

 フライは驚いて、顔を上げた。涙に濡れた目を見られたことに気づいて、慌てて下を向く。

 下を向きながら、涙を流しながら、フライは笑った。

「…………うん」


 エイムたちは帰っていった。エイムは、自分の船から大量の食料などをユウゾウに運び込んだ。

 すごい量であった。

 エイムたち大所帯の宇宙海賊の食料庫というのは、めちゃくちゃ大きいらしい。なんかエイムたちが来る前より、かなり食料増えてねーか⁈ ってくらいたくさん運び込んでくれた。

「ごめんね」

 エイムはそう言った。宇宙船に戻る間際。ユウゾウ内の、エイムたちの船へ繋がるゲートの側の通路で。壁に背を預けるようにして。

「なんかあったら呼んでね。すぐに飛んでいけるよう、ユウゾウにさ、うちらへ直に通信入るようにナンバー記憶させておいたから。できるだけたくさんの仲間に呼びかけてみるよ。あたい、やっぱり翔には生きて欲しいから。助けにいくから」 

 エイムはもうの白猫の姿に戻っていた。片足を揺らして、床や壁を軽く蹴っていた。小石でもあったら、それも蹴っていたかもしれない。

「でも、でも、もし気が変わったら、すぐに通信入れて。翔のこと、すぐに迎えにいくよ。たとえ、宇宙の果てだって。うちらのアジトへ連れていくよ。それから、あたい、一生懸命考える。ばかだけど……翔は頭いいって言ってくれたから、考えてみる。翔が故郷へ帰れる方法。フライが逃げ切れる方法。いろいろ考えてみる。━━で、今考えついたのは、フライも一緒にうちらのアジトへ来ること。━━だめかな。マイティに嗅ぎつけられちゃうだろうな、アジト。それは、かしらとしてはできないことだね。ずっとお姫さまと一緒に逃げるのは、あたいにはできないや。あたいには、仲間たちがいるもんね。かといって、城から、地球まで行けるっていう船奪うのも無理だね。宇宙ならまだましだけど、星の中で王家の奴らの鼻を明かす自信はないや。━━うーん。だめだね。考えつかない。やっぱ、頭悪いのかな。でも、考えるよ。必ず考えるよ。翔のために━━、……フライのためにもなること」

「ありがとう」

 翔は、心からそういった。

「これ、ありがとう。一生大事にする。あたいが手にしてきたどんな財宝よりも、一番の宝物だよ」

 首から下げたキーホルダーをいじってから、エイムは大きな帽子を外した。猫耳があっても被れるよう、二つの穴が空いた海賊帽子。

「……これ、よかったらもらってくれる?」

 翔はもちろんそれを受け取った。被ってみた。

「きゃはは、似合う似合うー。じゃあね、またどこかで進おうね。だ~いじょうぶ、宇宙は繋がってるもん! またきっと逢える」

 エイムは翔の前から姿を消した。角を曲がってしぼらく行くと、フライがいた。何か言いたそうにしている。

「あんたはいいね。物なんかもらわなくても、一杯翔から気持ちをもらえる。ずっと翔といられる」

「あ、あの……あの、私……」

「ば~か。そんな顔すんな。あんたは幸せ一杯なんだから笑ってな! ううん。違うな。あんたは思いのまま振る舞うべきだね。それを翔は望んでる」

「あの……ごめんなさい。あなたの言うとおり、私は翔に嫌われても…………文句は言えないのに。なのに翔と一緒にいて。ごめんなさい」

「だったら、その分、あたいの分も、翔といて。少しでも長く翔といて。翔が少しでも長生きできるよう、努力して」

「……。わかった。努力する。……あの、ありがとう………エイムさん」

「気にすんな気にすんな。友だちじゃん?」

「え?」

「だって、男の好みが一緒なんだよ? あたいら絶対気が合うよ!  だから、友だち!」

「………ありがとう」

「泣くな泣くな。あたいまで泣けてくら〜。じゃあねっ! 翔を不幸にしたら、絶対許さないからねっ‼︎ どっかの姫さんみたく『幸せでした』なんていわずに、翔に『幸せだ』って、言わせてごらんよ?」

 そういってエイムは去っていった。 



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